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伝説の魔王復活フラグ、公金チューチューにより不許可となりましたわ

 暗黒神殿の最深部――。


 世界中が恐怖に震え上がり、王都の教会では全聖職者が「終焉(しゅうえん)の時が来た」と、青い顔で祈りを捧げている最中、そこは異様なほど平和な空気に包まれていた。


「――ふう。

レオン、今日のダージリンは一段と香りが引き立っていますわね」


 漆黒の祭壇(さいだん)のすぐ傍(そば)で、メロリアスは純白のレースが飾られた折り畳み式のテーブルに腰掛け、優雅にティーカップを傾けていた。


 従者のレオンが慣れた手つきで、魔法水筒からお代わりの紅茶を注いでいる。


「ありがとうございます、メロリアス様。

標高の高い山岳地帯の湧き水を使用しておりますので、茶葉のポテンシャルを最大限に引き出せました」


 二人の足元では、世界を滅ぼすはずの紫色の魔法陣が怪しく点滅し、儀式を執り行う「闇の教団」の最高幹部たちが――冷や汗をダラダラと流して硬直していた。


「なっ……なんだ貴様らは!?」


 最高指導者である大司教が、怒りと恐怖の入り交じった声を絞り出す。


「ここは神聖にして不可侵なる『魔王復活の聖域』!

人間が踏み込んでいい場所ではない!

今すぐ紅茶を引っ込め、絶望のいけにえとして魂を捧げ――」


「うるさいですわね」


 メロリアスは小さく溜息をつくと、カップをソーサーに置いた。


 そして、胸元から愛用の万年筆を取り出し、クルリと指先で一回転させる。


「大司教。あなた方が有難がって唱えている『神託のマスタープロット』。

あまりにお粗末すぎて、校閲官としての頭痛が限界を突破しそうですのよ」


「なっ……何を……!

神の定めた絶対のシナリオに泥を塗る気か!」


「泥を塗っているのはあなた方ですわ。

中身を読み解いて差し上げます」


 メロリアスは『マスタープロット』の原本をバサリと取り出し、冷ややかな視線を向けた。


「――『第一章、魔王が完全復活し、無力な人間どもを血の海に沈める。

絶望に狂った民は教団にすがり、全財産を寄付する』

……ふふ。お上手な筋書きですこと」


 メロリアスはフンと鼻を鳴らした。


「ですが、王国が魔王討伐・対策の極秘裏に割り当てた国家予算の魔力石……数にして約十万個が、なぜか途中で消失していますわね。

――いいえ、正確には『教団の私腹を肥やすための闇資金』として、綺麗さっぱり中抜き・横領されていますわ」


「ひっ……!?」


 大司教をはじめとする幹部たちの顔が、一瞬で真っ青から真っ白へと変わった。


「そ、それは……!

神の思召しによる聖戦のための資金運用であって――!」


「言い訳は、ノートの端書きにもなりませんのよ。

予算の割り当てが三割にも満たないハリボテの復活劇で、世界を絶望に導く気でしたの?

笑わせないで。

こんな論理破綻した三流の詐欺プロット、私の赤ペンで丸ごと削らせていただきますわ」


 メロリアスは立ち上がると、マスタープロットの該当ページに、容赦(ようしゃ)なく「ザシュッ」と、鮮やかな赤のバッテンを叩きつけた。


「――赤字訂正。

魔王の復活は予算不足により中止。

代わりに、教団が横領した全財産および全魔力石は直ちに国庫へ没収。

神殿の地下牢はすべて解体し、『極楽スパリゾート・魔王城の湯』として全大陸に大開放する。

目覚めた魔王は世界征服など面倒くさいので、そのまま城のオーナーとして、名物の『魔王城特製・黒ごまプリン』の販売と温泉の番頭業務に精を出すものとする」


 瞬間――。


 メロリアスの万年筆の先から眩(まばゆ)い紅蓮の光が放たれ、原本の文字がグニャリと書き換わった。


「な、なんだ……!?

魔力の流れが急に――っ!」


 世界を覆うはずだった不気味な暗雲が、パァァッと晴れ渡る。


 紫色の邪悪な瘴気(しょうき)はどこかへ吹き飛び、代わりに神殿の地下から「ゴポゴポ、シュワシュワ……」と心地よい湯気と硫黄の香りが立ち込めてきた。


 同時に、大司教たちの頭上には、なぜか『不法横領罪・詐欺罪・公金チューチューの極み』という巨大な赤字で強制表示される。


「そんな……俺たちの世界征服が……!

何十年もかけた計画がぁぁぁ――っ!」


 崩れ落ちる教団幹部たちの後ろで、封印されていたはずの魔王が、可愛いフリルのエプロンを着用し、目をパチクリさせて起き上がった。


「ん……? なんだここ……。

って、おい、そこの人間。本日の焼き立て黒ごまプリン、まだか?」


「ただいまご用意いたします、魔王様」


 レオンが手際よくワゴンを押し出し、ツルリと仕上がった極上の黒ごまプリンを差し出す。


 魔王はスプーンで一口すすると、「うまっ……! なにこれ最高じゃん!」とすっかり骨抜きにされてしまった。


 外では、駆けつけた王国軍や冒険者たちが「なんだ? 最高の温泉施設か!?」「しかもプリンがめちゃくちゃ美味いぞ!」と大歓声を上げている。


 絶望の魔王復活フラグは、綺麗さっぱり「極楽の観光地オープンイベント」へと書き換えられたのだった。


「ふふ、見事な校閲完了ですわ。

さて、レオン。次のクソ脚本が待っているエリアへ参りましょうか」


「かしこまりました、メロリアス様。お茶の準備は万全です」


 二人は絶望の消え去った神殿を後にし、次なる理不尽な神託を赤字で叩き直すため、新たな旅路へと歩み出すのだった。

 第4話をお読みいただき、ありがとうございます!


 世界を絶望のズンドコに叩き落とすはずの「魔王復活フラグ」でしたが、校閲聖女メロリアス様にかかれば、「横領の摘発」と「極楽温泉&黒ごまプリンのオープンイベント」に書き換えられてしまいました。


 フリルのエプロンを着て黒ごまプリンを平らげる魔王様。


 手際よくワゴンを出すレオン君も、すっかり旅の定番になってまいりました。


 さて、公金チューチューを赤字で粉砕したメロリアス様ですが、次なる「クソ脚本」は一体どこに待ち受けているのか……!?


 「続きが気になる!」「黒ごまプリン食べたい!」と思っていただけましたら、ぜひ【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆)】で応援していただけると、メロリアス様の万年筆のインクとレオン君の茶葉が無限に補充されます! 次回もお楽しみに!

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