神のマスタープロット、ちゃっかり持ち去りましたわ
「――失礼します、メロリアス様。
お荷物のまとめは、これで全てでございます」
王立図書館の一角にある私室。
地味な茶色の制服に身を包んだ従者――もとい、元・補佐官の青年レオンが、必要最小限の荷物が詰まったトランクをカチャリと閉じた。
彼は追放されたメロリアスを追い、自ら城を辞してついてきた忠義の男……ではなく、メロリアスが飲むための紅茶を必死に献上する青年である。
「ご苦労様、レオン。
……ふう、やれやれですわ」
メロリアスは、愛用の万年筆を胸ポケットへしまい、ふんわりと柔らかい溜息を吐いた。
窓の外では、王都の上空を漂う伝説の炎竜が、巨大な鉄板の熱を調整しつつ、「もっとキャベツをみじん切りにすべきだ」と村人たちと熱い議論を交わしている気配が伝わってくる。
「殿下たちは今頃、自分たちの脳内お花畑シナリオのどこがバグっていたのか、頭を抱えている頃かしらね」
「はあ。あの様子ですと、今日の夜会でマリア様が『感動の涙を流すスピーチ』をする予定だったはずですが……代わりの台本がないとパニックでしょう。
なにせ、ルカウスト殿下の脳内では『世界が祝福の拍手に包まれる』ことになっていたのですから」
「笑わせますわね。
論理破綻した三流のメロドラマなど、私の赤ペンにかかれば三行でゴミ箱行きですのよ」
メロリアスはフンと鼻を鳴らし、トランクの上にスッと手を置いた。
さて、ここからが本当の「編集作業」だ。
王国全土の運命を記した『マスタープロット』――原本を、メロリアスはちゃっかりアイテムボックスに収納している。
「至宝を持ち出した」などと言われようが、知ったことではない。
神の台本は全ページにわたって、誤字脱字、急なキャラ崩壊、そして不条理なバッドエンドのオンパレードという「クソ脚本」なのだ。
「一介の校閲官を追い出した代償がどれほど大きいか、あのバカ王子どもに骨の髄まで教えて差し上げなくてはなりませんわね」
「……メロリアス様。どうされますか?」
レオンがちらりと、懐から取り出した古びた地図を指さす。
そこには、「絶対に攻略不可能な死のダンジョン」や、「隣国との不可避な全面戦争」といった、不穏なフラグの立ったエリアが赤丸で、これでもかと囲まれていた。
「ふふっ、決まっていますわ」
メロリアスは不敵かつ美しい笑みを浮かべ、万年筆をクルリと指先で回した。
「世界中に散らばる『クソだらけの神託』を、すべて私の赤字で最高傑作に塗り替えてやりますのよ!」
第2話をお読みいただき、ありがとうございます!
「お茶淹れ」という素晴らしい動機を持つレオン君と共に、マスタープロットを持ち去ったメロリアス様。
クソだらけなフラグを、片っ端から赤字修正していく大暴れが始まるようです!
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