脳内お花畑シナリオ、赤字で直してやりましたわ
「――これで、お前との婚約は終わりだ、メロリアス・フォン・御手洗!」
王立図書館の豪華な執務室に、一切の慈悲もない宣告が響き渡った。
王太子のルカウストが、冷ややかな視線を向けながら、手元の羊皮紙を放り投げる。
書かれていたのは、一方的な『婚約破棄および国外追放処分』の通達だった。
「お前の地味な『赤字入れ』の趣味は、品位を貶めるものだ。
一介の校閲官ごときが、神の与えた『聖女の神託シナリオ』にケチをつけるなど、不敬極まりない!
これよりお前を王国から追い出す!」
ルカウストの脇では、聖女として祀り上げられた男爵令嬢マリアが、扇子で口元を隠しながら優越感に浸る笑みを浮かべていた。
二人の頭の中では、今夜の祝賀会で自分たちが劇的なハッピーエンドの主人公として絶賛される姿が描かれているのだろう。
しかし、追放を言い渡されたメロリアスは、微塵も動揺していなかった。
優雅に椅子に座ったまま、手元の分厚い冊子――王国全土の運命を記した『マスタープロット』に、鮮やかな赤インクのペンを滑らせていた。
「……はあ」
メロリアスが小さく、しかし冷ややかな溜息を吐く。
「ルカウスト殿下。
あなた方の脳内お花畑のシナリオは、相変わらず論理破綻と誤字脱字だらけの三流ファンタジーですわね」
「なっ、なんだと……!?」
「神託とやらの『第一章』を読んで差し上げますわ。
『――聖女マリアの凛々しい姿を見送り、辺境の村人たちは感動の涙を流す。
直後、神の気まぐれにより村は豪火に包まれ、綺麗に全滅する。
それこそが神への生贄となるのだ』
……ふふ。
『村の全滅』などという悪質な誤字、私が放置するとでも思っていて?」
「な、何を勝手なことを……!
神の定めた絶対の摂理だ! 逆らう気か!」
「神のプロットだろうと、三流の駄作に容赦はしませんのよ」
メロリアスは冷徹な笑みを浮かべると、愛用の万年筆で「ト書き」に思いきり「赤のバッテン」を叩きつけた。
「――赤字訂正。
『村は全滅しない。代わりに、神の使者として遣わされた凶悪な炎竜は、村人たちに捕まり、巨大な鉄板で特大の絶品お好み焼きをひっくり返す手伝いをさせられる』
……これにて修正完了ですわ」
「ば、馬鹿なことを……!
衛兵! 今すぐ不敬な女を引っ立て――!」
ルカウストが叫んだ刹那。
窓の外の空気が、ごうっ、と激しく揺れた。
「なっ……なんだ!?
空が急に香ばしいソースとダシの匂いに包まれたぞ!?」
王都全体を巻き込むほどの、凄まじい食欲をそそる芳香。
窓から外を覗いたルカウストとマリアは、白目を剥いて固まった。
神の使者として辺境を焼き払うはずだった伝説の炎竜が、なぜか村人たちと和気あいあいと巨大なヘラを振るい、満面の笑み(?)で、絶品お好み焼きをひっくり返す。
村中が謎の感動と満腹感に包まれ、誰も死んでいないどころか、完璧すぎる平和の宴が繰り広げられていた。
「そんな……バカな……!
神のシナリオ通りに、世界が感動の涙に包まれるはずでは……っ!」
「おめでたい頭をしておられますわね」
メロリアスはサッと席を立ち、フッと優雅に微笑んだ。
「あなた方が信じ切っていた『神の筋書き』は、私の赤字によって、すべて書き換えられました。
……さて、私を追放したのですから、もう無茶苦茶なプロットの尻拭いをする義理はありませんわね。
お二人で、矛盾だらけの人生ジタバタ劇をお楽しみになって?」
「ま、待てメロリアス!
我が王国にはお前の校閲が――!」
王太子たちの見苦しい悲鳴を置き去りにし、メロリアスは軽やかな足取りで執務室を後にする。
神のプロット? 運命の絶対性?
――上等よ。
どんな理不尽なシナリオだろうと、この『校閲聖女』がすべて赤字で叩き直して差し上げますわ!
第1話をお読みいただき、ありがとうございます!
王道の婚約破棄から始まると思いきや、まさかの炎竜が全力でお好み焼きをひっくり返すという、大変めでたい(香ばしい)幕開けとなりました。
神のプロットだろうと三流の駄作は一切許さないメロリアス様ですが、今後はどんな無茶苦茶な神託を赤字にしていくのか……!
「続きが気になる!」「お好み焼き食べたくなってきた!」と思っていただけましたら、ぜひ【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆)】、感想などで応援していただけると、作者の万年筆のインクが無限に湧き出ます!




