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異世界の戦場医官、現代医療とタクティカル兵器で無双する〜ポイント稼いで地球の物資をポチったら、村の英雄になりました〜  作者: 月神世一


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EP 8

見栄っ張り竜人族と、無双薙刀流

「おい、人間。ちょっとツラ貸せや」

 広場での公衆衛生の指導を終え、井戸の周囲に消毒液を撒いていた優太の背中に、野太い声が投げられた。

 振り返ると、二メートル近い巨躯を誇る竜人族ドラゴニュートの青年が、身の丈ほどもある両手斧を肩に担いで立っていた。

 ポポロ村の自警団員、イグニス。

 全身を覆う強靭な赤い鱗と、背中に折り畳まれた飛竜の翼。そして、鼻の頭から苛立ちと共に微かな火の粉を漏らしている姿は、人間からすれば十分すぎるほどの脅威だ。

「ツラなら貸すが、俺には中村優太という名前がある」

「知るか。村長や村の連中が怪我を治されてペコペコしてるのが気に入らねえんだ。偉そうに手を洗えだの消毒だの……戦えねえ医者が、この村で一番偉いみたいな顔すんじゃねえぞ」

「なるほど。つまり、俺が口出しするに足る実力があるか、確かめたいってことか」

「俺様はな、竜人の里でも『百年に一人の逸材』と呼ばれた英雄なんだよ! ルナミス帝国でも像が建つくらいの大物だ! 人間風情が俺様より偉そうにするのは許せねえ!」

(ルナミス帝国で像が建つような大物が、なんでこんな辺境の村で自警団をやってるんだ……?)

 イグニスの言葉には、明らかなハッタリの匂いがした。

 だが、彼がこの村の重要な戦力であることは事実だ。優太は消毒液のボトルを置き、ゆっくりとイグニスに向き直った。

「いいだろう。俺も、この村の防衛戦力を把握しておきたいと思っていたところだ。手合わせといこう」

「へっ、後悔しても遅えぜ! 村の中だから炎は吐けねえが、骨の数本は覚悟しな!」

 広場の中央。周囲の村人たちが、ハラハラした顔で遠巻きに見守っている。

 イグニスが両手斧を構え、深く腰を落とした。竜人族特有の膨大な闘気が全身から立ち上り、周囲の空気がビリビリと震える。

 対する優太は、武器を持たず、スニーカーの足を肩幅に開いただけの自然体だった。システマの呼吸法で全身の筋肉を弛緩させ、完全な『脱力』状態を作る。

「行くぜッ! オラァッ!!」

 イグニスの巨体が、爆発的な踏み込みと共に迫る。

 空気を裂く凄まじい風切り音。百馬力は優に超えるであろう竜人族の膂力から放たれた両手斧の横薙ぎ。直撃すれば、人間の胴体など軽々と真っ二つになる一撃だ。

(力任せで、大振り。実戦の殺し合いの経験が浅い)

 優太の冷徹な眼球は、斧の軌道を完全に捉えていた。

 刃が腹に到達するコンマ一秒前。優太の身体が、まるで風に吹かれた柳のようにスッと沈み込む。

 斧の凶刃が、優太のパーカーの表面数ミリを掠めて空を切った。

「なっ!?」

 全力のフルスイングを躱されたイグニスの巨体が、慣性の法則に従って前方に大きく体勢を崩す。

 そこへ、優太が滑り込んだ。

『無双薙刀流』の理合は、必ずしも武器を必要としない。大東流合気柔術の円の動きと、八極拳の圧倒的な踏み込みの融合。

 優太の右手が、イグニスの太い腕の関節に下から触れる。力で押すのではない。相手の力のベクトルを、そのまま自分の動きで『誘導』するのだ。

「うおぉっ!?」

 テコの原理と合気の崩し。

 イグニスの百馬力の力が、そのまま彼自身を地面に叩きつける力へと変換される。

 巨体が宙を舞い、背中から凄まじい地響きと共に広場の土に叩きつけられた。

「ガハッ……! こ、の……ッ!」

 肺の空気を吐き出しながらも、イグニスはすぐに斧を振るって立ち上がろうとする。

 だが、遅い。

 倒れた瞬間、優太の身体はすでにブラジリアン柔術とCQCを組み合わせた制圧状態に移行していた。

 イグニスの右腕を両足で強固にロックし、首元にタクティカルナイフの冷たい峰をピタリと当てている。

「動くな。頸動脈を掻き切るぞ」

「…………ッ」

 完全に急所を押さえられ、関節を極められたイグニスは、脂汗を流して動きを止めた。

 圧倒的な力と体格の差を、圧倒的な技術と理合で完全に封じ込めた、無傷の完封劇。

「殺意のない大振りだった。だが、魔獣や敵国はそんな手加減をしてくれないぞ。斧を振り抜いた後の隙は、死に直結する。無駄な力みを抜け」

「……くそっ。俺様が、こんな、ひ弱な人間に……っ!」

 優太がナイフを引き、ロックを解いて立ち上がる。

 イグニスは屈辱に顔を歪めながら、のろのろと身を起こした。

『パラパパパパーン!』

【善行を確認しました】

【対象:自警団員への武術指導】

【地域社会への貢献度:微小】

【ポイントを加算します:+50P】

【現在の所持ポイント:6067P】

(なるほど。ただ殴り合うだけじゃなく、相手を殺さずに『教える』ことも善行になるのか)

 優太は脳内のファンファーレに内心で頷きながら、衣服の土を払うイグニスを見下ろした。

「あんた、実戦経験は少ないな? だが、見込みはある。その斧の威力と踏み込みは、この村を防衛するための最大の武器になる」

「えっ……?」

 予想外の評価に、イグニスがぽかんと口を開けた。

 否定し、ねじ伏せるだけではない。相手の長所を戦術的に評価し、的確な役割を与える。これがグリーンベレー式部隊指揮の基本だ。

「どうだ、少しばかり俺の『戦術』を学んでみる気はないか? 英雄になるためには、技術も必要だろ」

 優太はそう言って、イグニスに真っ直ぐ手を差し伸べた。

 イグニスは数秒間、その手と優太の顔を交互に見つめていたが、やがてフンッと鼻を鳴らし、乱暴に優太の手を握り返した。

「……勘違いすんじゃねえぞ。俺様が、お前の技術を盗んでやるだけだ」

「ああ、それでいい」

 イグニスを引き起こし、優太はジーンズのポケットから見慣れた水色の箱を取り出した。

 アメリカンスピリット。

 一本を自分の口に咥え、もう一本を箱から突き出して、竜人族の青年に向ける。

「……タバコ、吸うか?」

お読みいただきありがとうございます!


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