表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の戦場医官、現代医療とタクティカル兵器で無双する〜ポイント稼いで地球の物資をポチったら、村の英雄になりました〜  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
62/71

EP 7

祭りの後片付けと、星空の乾杯

春の夜風が、祭りの熱気を優しく冷ましていく。

喧騒に包まれていたポポロ村の広場も、夜が更けるにつれて静けさを取り戻し、あちこちに灯されたランタンのオレンジ色の光だけが、祭りの余韻を静かに照らし出していた。

「あーっ! 疲れましたーっ!!」

広場の片隅で、月兎族のキャルルが両手を大きく上に伸ばし、ウサギの耳をだらんと垂らして伸びをした。

「でも、大成功でしたね! 私たちの焼きそば、一つ残らず完売です!」

「ふふふ……これを見てくださいませ、皆様」

臙脂色の芋ジャージ姿のリーザが、布袋をテーブルの上にひっくり返した。

ジャラジャラジャラッ!と、大量の銅貨と銀貨が山のように積み上がる。

「素晴らしいですわ……! 麺とキャベツを炒めただけで、こんなにLove & Moneyが錬成されるなんて! これで私の新しいステージ衣装も、特上の美容液も買い放題ですのーっ!」

リーザが札束(硬貨)の山に頬擦りをして恍惚の表情を浮かべる。

「リーザちゃん、それは自警団の活動資金ですからね? 全部一人で使っちゃダメですよ」

「分かっていますわよ! 経費で落ちる範囲で上手くやりますわ!」

「お二人とも、お金の話よりまずはお片付けですわ。優太様がお待ちですのよ」

純白のドレスの上にエプロンを着けたルナが、ふわりと微笑みながら二人に声をかけた。

屋台の裏側では、中村優太とイグニスが、巨大な鉄板の清掃作業(撤収オペレーション)に取り掛かっていた。

「おい優太、この焦げ付いたソース、なかなか落ちねぇぞ。俺様の炎で焼き切っちまうか?」

「やめろ、鉄板が歪む。……これを吹きかけろ」

優太はタクティカルリュックから、スプレーボトルを取り出してイグニスに渡した。

地球ショッピングで取り寄せた『業務用・超強力アルカリ性油汚れ落とし(厨房用)』である。

「シュッと吹きかけて一分待てば、界面活性剤とアルカリ成分が、頑固な油汚れと炭化したソースを分子レベルで分解する。あとは軽く水で流すだけだ」

「マジかよ、また変な魔法のロジックを出しやがって。……おおっ!? 本当だ、軽く擦っただけで焦げがスルスル落ちるぜ!」

イグニスが驚きの声を上げながら、スポンジで鉄板を磨き上げていく。

手際よく機材を片付け、ゴミを分別し、広場を完全に元の衛生状態クリーンに戻す。

それが終わる頃には、空には満天の星が瞬いていた。

「よし。撤収作業オペ、完了だ」

優太が手袋を外し、G-SHOCKの盤面で時刻を確認した。

「ふぅーっ! やっと終わりました!」

キャルルたちが、ぱたぱたと優太のもとに集まってくる。

全員、顔には疲労の色が見えるが、その表情はとても晴れやかで、充実感に満ちていた。

「よくやった。……今日の報酬まかないだ」

優太がテーブルの上にドンッと置いたのは、地球のクーラーボックスだった。

蓋を開けると、中には氷水でキンキンに冷やされた、琥珀色の液体の入った瓶と、炭酸飲料の缶が並んでいる。さらに、別の保温ボックスからは、こっそり取っておいた極上の『厚切り牛タンの塩焼き』が姿を現した。

「うおおおおっ!! 優太、お前最高だぜ!!」

イグニスが歓喜の雄叫びを上げ、瓶の栓を牙でカッと開けてイモッカ(芋の蒸留酒)をあおる。

「わぁっ! この黒くてシュワシュワする甘いおコーラ、すっごく美味しいです!」

「牛タン、最高ですわーっ! 噛めば噛むほどお肉の旨味が……!」

ルナとリーザも、地球のジャンクな味覚に完全にノックアウトされている。

優太は静かにベンチに腰を下ろし、自分用に開けたノンアルコールビールを喉に流し込んだ。

冷たい炭酸が、激務で火照った体に染み渡る。

「……なぁ、優太」

ふと、イグニスがジョッキを片手に、ニヤニヤと笑いながら優太の隣に座った。

「なんだ」

「いやぁ、今日の昼間の件だよ。あのクソ貴族を社会的にぶっ潰した時の、お前の顔」

イグニスの言葉に、キャルルたち三人の手もピタリと止まり、全員の視線が優太に集まった。

「……あれは、公衆衛生を脅かす害虫を、極めて論理的に駆除しただけだ」

優太は視線を逸らし、そっけなく返す。

「嘘つけ! お前、完全にブチ切れてたじゃねぇか!」

イグニスが豪快に笑いながら、優太の背中をバンバンと叩いた。

「俺様たちを『野蛮な獣』だの『トカゲ』だのって馬鹿にされた瞬間、お前の目からスッ……って光が消えたんだぜ。あの時のお前から出てた殺気、死蟲将軍の時よりヤバかったぞ!」

「そうです! 私、はっきり聞きました!」

キャルルが、ウサギの耳を赤く染めながら身を乗り出してきた。

「『俺の仲間を愚弄したことだけは、絶対に許さない』って……! あの時の優太さん、すっごく、すっごくカッコよかったです!!」

「私なんて、優太様のあまりの頼もしさに、危うくその場で婚姻届(エルフの契約書)にサインを求めるところでしたわ!」

「私だって、あの瞬間だけはお金の計算を忘れましたのよ!? それくらい、痺れましたわ!」

ルナとリーザまでが、目をキラキラと輝かせて優太に迫ってくる。

三人のヒロインからの、純度100%の好意と称賛の集中砲火。

さらに、相棒からの絶対的な信頼の眼差し。

「……うるさい。お前らは観察トリアージが甘い。俺の心拍数はあの時、平常時の80を下回っていた」

優太はたまらずベンチから立ち上がり、ポケットからアメスピを取り出した。

だが、その耳の裏側が、ほんの少しだけ赤く染まっているのを、夜目よめの利くキャルルは見逃さなかった。

(……ふふっ。優太さん、照れてる)

優太は少しだけ皆から離れた場所へ歩き、軍用マッチでタバコに火をつけた。

シュッ、という小さな音と共に、紫煙が星空へと立ち昇っていく。

「……素直じゃねぇなぁ、相変わらず」

イグニスが苦笑いしながら、酒をあおる。

優太はタバコを咥えながら、星空を見上げた。

思い返すのは、かつて自分がいた地球の、硝煙と血の匂いが立ち込める戦場の光景。

誰も信じられず、ただ生き残るためだけに冷徹なロジックを回し続けていた、孤独な医官としての日々。

それに比べて、今はどうだ。

振り返れば、そこにはランタンの光に照らされた、騒がしくて温かい食卓がある。

酒を飲んで豪快に笑う竜人の悪友。

口の周りにコーラをつけてはしゃぐ、強欲な人魚と純真なエルフ。

そして、自分を真っ直ぐに見つめてくれる、心優しい月兎族の少女。

(……俺の守るべき陣地は、随分とやかましくなったもんだ)

だが、その騒がしさが、今の優太にとっては、どんな強力な鎮痛剤よりも深く、心の傷を癒やしてくれていた。

「おい、優太」

イグニスが、新しいグラスに酒を注いで、優太の方へと掲げた。

それに合わせて、キャルルも、ルナも、リーザも、それぞれの飲み物が入ったコップを手に、優太に向かって満面の笑顔を向けた。

「お前が俺たちを大切に思ってくれてるのと同じくらい、俺たちも、お前のことが大好きだぜ。……ポポロ村最強の医官殿に、乾杯だ!」

「乾杯です、優太さん!!」

「乾杯ですわーっ!!」

星空の下、仲間たちの温かい声が響き渡る。

優太は、咥えていたタバコをゆっくりと携帯灰皿にしまい、首元に下げていたガスマスクをカチャリと外した。

普段は決して人前で見せない、完全に無防備で、少しだけ照れくさそうな素顔。

優太は自分の手元にあったグラスを持ち上げると、小さく、だがはっきりと口角を上げた。

「……乾杯だ。最高の部隊チームに」

カチンッ、と。

ガラスとガラスが触れ合う、優しく涼やかな音が、春の夜風に乗ってポポロ村の広場に響き渡った。

理不尽な悪意をロジックで粉砕し、自分たちの居場所を守り抜いた自警団。

美味しい料理と、心地よい疲労、そして何よりも代えがたい仲間たちの笑顔。

優太にとって、このポポロ村で過ごす時間は、彼自身が気づかないうちに、かけがえのない『宝物』へと変わっていた。

だが、この温かく穏やかな時間が、最悪の『嵐の前の静けさ』に過ぎないことを、彼らはまだ知らない。

星降る夜の乾杯の裏で、社会的に抹殺された愚劣な領主の最後の『狂気』が、音もなくポポロ村へと忍び寄りつつあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ