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異世界の戦場医官、現代医療とタクティカル兵器で無双する〜ポイント稼いで地球の物資をポチったら、村の英雄になりました〜  作者: 月神世一


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EP 7

凍傷予防のクリームと、殺到する美容難民の土下座

「はーい、みんなっ! 今日はポポロ山に新しくオープンした『魔導雪山サウナ』から、ととのい最高潮のキュララがお届けしたよーっ☆ みんなも遊びに来てね! バイバーイッ!」

 ポポロ山の中腹。完璧なアイドルスマイルとウインクを決めた公式PR広報官・天使のキュララが、空中のエンジェルすまーとふぉんの録画ボタンをタップした。

 ピピッ、という音と共に配信が終了する。

 その直後。

「あぁぁぁぁっ! もう駄目ぇぇぇっ!!」

 キュララはアイドルスマイルをかなぐり捨てて、雪原の上で頭を抱えて悲鳴を上げた。

「乾燥! 乾燥がヤバいよぉぉっ! サウナの熱気と冬山の冷気で、私のもちもちアイドル肌が、カッサカサの干し芋みたいになっちゃうぅぅっ!」

 キュララが自身の頬を触りながら、涙目でパニックを起こしている。

 サウナ自体は素晴らしい施設だ。しかし、極端な温度変化と冬の乾燥した外気は、肌の水分を容赦なく奪い去る。天使としての圧倒的な美貌(素材)を持つ彼女であっても、物理的な乾燥による肌荒れという現実ダメージは避けられないのだ。

「騒がしいぞ、キュララ。サウナの周りでは静粛にしろと言ったはずだ」

 薪割り作業を終え、アメリカンスピリットの煙を吐き出しながら、優太が通りかかった。

「ゆ、優太さん! 聞いてよ、冬山の乾燥はお肌の天敵なんだよ! このままじゃ私の美肌が砂漠化して、ゴッドチューブの同接が落ちちゃう! アイドルにとってお肌は命、つまりこれはポポロ村の広報戦略における『致命的な危機エラー』なんだよぉっ!」

 必死に抗議するキュララに対し、優太はコンバットグラスの奥で呆れたようにため息をついた。

 だが、優太は医官としてのロジカルな思考を巡らせた。

(……アイドルの美容目的という点には同意しかねるが、極寒の雪山環境における『乾燥』を放置するのは、軍事医療の観点から見ても非常に危険だ)

 優太は咥えていた煙草の火を消し、静かに語り始めた。

「皮膚は人体における最大の『防壁バリア』だ。乾燥によるひび割れやあかぎれを放置すれば、そこから雑菌が侵入して感染症を引き起こす。さらに、極寒の環境下において皮膚の水分バランスが崩れれば、『凍傷』のリスクが跳ね上がる」

「と、とうしょう……!?」

「そうだ。これは単なる美容の問題ではない。村の防衛戦力であるお前たちの『戦闘継続能力』に関わる、立派な『外傷予防措置プロテクション』の事案だ」

 優太はそう言うと、ホログラムUIを開き、先日のフェイクニュース鎮圧で得た莫大な『善行ポイント』を消費してガチャを回した。

 ポンッ、と優太の手元に現れたのは、無骨なデザインの白いチューブだった。英語のラベルには『医療用・極地防寒高保湿プロテクトクリーム(高純度セラミド配合・無香料)』と記されている。

「それは?」

「地球の極地遠征部隊や、寒冷地での軍事演習で支給される医療用の保湿クリームだ。ワセリンベースで皮膚の表面に強固な保護膜を作り、内部のセラミドが角質層の水分を完璧に維持する。……少し貸せ」

 優太はチューブから米粒ほどのクリームを指に取ると、乾燥に悩むキュララの頬に手際よく塗り込んだ。

「ひゃっ……」

 優太の少し無骨で冷たい指先が触れた瞬間、キュララはビクッと肩を揺らした。だが、次の瞬間、彼女の表情が驚愕に見開かれた。

「う、うそ……っ!? 塗った瞬間から、砂漠だった私のお肌に、オアシスみたいな潤いが……っ! しかも、全然ベタつかないし、風が吹いても冷たくない!」

 キュララが自分の頬をペチペチと叩く。そこには、赤ちゃんの肌のような『究極のぷるぷる感』が蘇っていた。

「驚くことではない。ただの医療備品だ」

 優太はチューブをキュララに押し付けた。「乾燥を感じたら適切に塗布しろ。ただし、塗りすぎは毛穴を塞ぐから用法用量は守れ」

「な、なんですの、その魔法の薬は……!」

 騒ぎを聞きつけて、タローマン製のオーバーオールを着た元氷魔将軍・スアイがすっ飛んできた。

「指揮官殿! 氷魔法を扱う私は、常に冷気による乾燥の危険と隣り合わせにありますの! アバロン魔皇国のブラック軍隊では、そんな素晴らしい支給品はありませんでしたわ! どうか、私にもその……保湿というものを!」

「私も! 私も塗るーっ! お肌をプルプルにして、優太君に撫でてもらうんだからぁっ!」

 ヤンデレ村長のキャルルまでもが、特注の安全靴を鳴らしながら乱入してくる。

「……わかった、わかったから落ち着け。これは備品だから全員に支給する」

 優太はため息をつきながら、善行ポイントでさらにクリームのチューブを追加錬成し、スアイとキャルル、ついでに様子を見に来たルナとリーザにも配給した。

「まぁ♡ お肌がしっとりしますわ〜」

「優太様ぁ! このクリーム、ほのかに甘い香りがしませんの!? パンの耳に塗ったら美味しいんじゃ……」

「食うなリーザ、それは無香料だ。お前の舌がバグってるだけだ」

 女子たちがクリームの圧倒的な保湿力にキャーキャーと歓声を上げる。

 優太にとっては、ただの「凍傷予防の衛生管理」に過ぎなかった。

 だが、この『地球の高純度セラミド』の威力が、異世界の美容事情にどれほどの革命カオスをもたらすか、彼はまだ予想していなかったのである。

     * * *

 数日後。

 ポポロ村の南門は、かつてないほどの騒然たる空気に包まれていた。

「開けろォォォッ! 金貨ならいくらでも積む! あの『魔法のクリーム』を売ってくれぇぇッ!」

「奥様が乾燥肌で夜も眠れないのです! このままでは私がクビになってしまいます!」

「私のニキビ跡も消えますわよね!? 一箱、金貨百枚で買いますわぁぁっ!」

 南門の外に押し寄せていたのは、武装した傭兵や暴徒ではない。

 ルナミス帝国の各地から馬車を飛ばしてやってきた、高級なドレスに身を包んだ貴族の令嬢たちや、彼女たちから厳命を受けた商人たち――『極度の美容難民』の群れであった。

「なんだなんだ!? 敵襲か!?」

 門の警備をしていたイグニスが両手斧を構えてビビり散らかしている。

「敵襲やありまへん。完全に『特需』でっせ」

 イグニスの横で、煙管を吹かしながらニヤリと笑うのは、ポポロ村の財務担当である猫耳族のニャングルだった。

「原因はこれや」

 ニャングルが取り出したのは、一枚の号外ビラ。そこには、先日キュララが行った配信の切り抜き画像が印刷されていた。

 画像の中で、キュララは輝くようなプルプルの肌を見せつけながら、こう言っていたのだ。

『みんな聞いてー! 最近お肌の調子が最強なんだけど、実は村の指揮官さんから貰った『極地用クリーム』のおかげなんだっ☆ 冬山の乾燥も一発で解決だよーっ!』

 アイドルがポロリとこぼした、たった一言の美容情報。

 魔法は発達していても、近代的な化学薬品スキンケアが存在しないアナステシア世界において、その情報は貴族の女性たちにとって、文字通り『狂気』にも似た欲望を引き起こしたのである。

「優太はん! こらえらいこっちゃで!」

 広場にやってきた優太の足元に、ニャングルがスライディング土下座をキメた。

「あのクリームの独占販売権、わてに預けておくれやす! あの飢えた令嬢たちなら、一本金貨十枚(約十万円)でも余裕で買いいまっしゃろ! ポポロ村はこれで大金持ち、億万長者でっせェェッ!」

 算盤を弾きながら、金に目が眩んだニャングルが猛烈に提案する。

 だが、優太は顔色一つ変えず、アメリカンスピリットの煙を細く吐き出した。

「却下だ」

「な、なんでやねん!?」

「あのクリームは、医療および衛生管理のための『備品』だ。人命と健康に関わる必需品を、不当に値段を吊り上げて販売する行為は、独占禁止法違反および『転売防止条例』に抵触する。医療の平等性を著しく損なう行為だ」

「り、倫理観が固すぎる……! 商売のチャンスを見逃すなんて、正気でっか!?」

 ニャングルが頭を抱えるが、優太の意志は岩のように固かった。

 優太は南門を解放させると、殺到する貴族や商人たちの前に進み出た。

「静かにしろ」

 極寒の軍医が放つ、インテリヤクザのような圧倒的な静かなる威圧感。

 それだけで、門の外の騒ぎがピタリと止まる。

「お前たちが求めているクリームの提供は可能だ。だが、暴利を貪るつもりはない。価格は一本につき、銀貨二枚(約二千円)。適正な製造原価と輸送費のみを上乗せした『公定価格』とする」

「「「銀貨……たったの二枚!?」」」

 金貨数十枚を覚悟していた令嬢や商人たちが、あまりの良心的な価格設定に度肝を抜かれた。

「ただし、条件がある」

 優太はコンバットグラスの奥で、鋭い視線を放った。

「転売目的の買い占めを防止するため、販売は『一人につき一月に二本まで』。購入時には必ず身分証とギルドカードを提示し、データベースに登録してもらう。違反した者、および闇市で高値で売り捌いた者は、ポポロ村との一切の取引を永久に停止する」

 優太の突きつけた条件は、地球のドラッグストアにおける「マスクの購入制限」や「転売ヤー対策」と同じ、徹底したコンプライアンス管理であった。

「……なんという、慈悲深さ」

 一人の貴族の令嬢が、涙を流しながらその場に膝をついた。

「私たちからいくらでも搾取できたはずなのに、それをあえて禁じ、すべての女性に平等に美(健康)を分け与えようとなさるなんて……。あなたは、神の使いか何かなのですか……っ!」

「おおおっ! ポポロ村の指揮官殿、万歳!」

「素晴らしい規律だ! これぞ真のノブレス・オブリージュ!」

 優太の厳格なコンプライアンス遵守が、なぜか『無欲で高潔な聖人』としての評価に変換され、商人や令嬢たちが次々とその場に土下座して彼を拝み始めた。

「……別に、そういうわけじゃないんだがな」

 優太は厄介そうに頭を掻き、煙草の灰を落とした。

 優太はただ、市場の混乱を避けるために適正な『物販のルール』を敷いただけだ。名声や承認を求めたわけではない。

 だが、ニャングルが急いで用意した特設の販売テントには長蛇の列ができ、一人銀貨二枚という低価格であっても、その圧倒的な販売数(薄利多売)によって、ポポロ村の金庫には瞬く間に莫大な外貨が転がり込んでいった。

【特大の善行を確認しました】

【対象:不当な価格吊り上げ(転売)の防止、および適正価格による広域医療・衛生用品の供給網の確立】

【ポイントを加算します:+8000P】

 さらに優太の脳内には、システムからの莫大なポイント還元が鳴り響く。

「ふふっ、優太君。また村のみんなを助けちゃったね♡」

「指揮官殿の行政手腕、見事ですわ。魔王軍の財務省も見習うべきですの」

 キャルルとスアイが、プルプルに潤った肌で嬉しそうに優太を見つめる。

 打算なく人を助け、規律を守り抜いた結果として、勝手に承認と富が集まってくる。それこそが、中村優太という男の生き様であった。

 ポポロ村はまた一つ、異世界における『最強の美容(医療)ブランド』としての確固たる地位を確立したのであった。

読んでいただきありがとうございます。

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