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異世界の戦場医官、現代医療とタクティカル兵器で無双する〜ポイント稼いで地球の物資をポチったら、村の英雄になりました〜  作者: 月神世一


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EP 4

天然エルフの善意と、建築基準法違反の巨大樹海

 ポポロ山の中腹。澄み切った冷たい空気に、規則正しい打撃音が響き渡っていた。

 カーン、カーン、という小気味良い音の主は、元アバロン魔皇国の氷魔将軍――現在はポポロ村の新規村民となったスアイである。

 タローマン製の丈夫なオーバーオールに身を包み、額に浮かんだ汗を手ぬぐいで拭いながら、スアイは愛用の斧を振り下ろしていた。

「ふぅ……。やはり、自らの手で木を切り、薪を割る。これこそがDIYキャンプの醍醐味ですわね」

 スアイの足元には、数日がかりで切り出した丸太と、綺麗にサイズを揃えられた薪の山ができあがっていた。

 優太から提供された万能アウトドアスパイスとカレーの暴力的な美味さに魅了された彼女は、「真のキャンパーになる」という決意を新たに、ポポロ山にログハウスを建てるべく奮闘していた。

 魔力やスキルを使えば、木材の加工など一瞬で終わる。しかし、彼女はあえて魔法を封印し、純粋な肉体労働の『汗の対価』として得られる達成感を楽しんでいたのだ。

「よし。冬に向けた薪の備蓄はこれくらいで十分ですわ。次は、ログハウスの基礎となる丸太の組み上げ作業ですわね」

 スアイが満足げに腰に手を当て、設計図(初心者向けのDIY本)を眺めようとした、その時だった。

「まぁ! スアイさん、こんなお山の中で、とっても楽しそうなことをしていますのね♡」

 ふわふわとしたピンク色のドレスを揺らしながら、獣道を優雅に登ってくる少女の姿があった。

 ポポロ村のシェアハウスの住人であり、世界樹の神託を受けた次期エルフ女王候補――ルナ・シンフォニアである。

 彼女の周りでは、山の植物たちが「ルナ様だ!」「ルナ様が来たぞ!」とざわめき、自ら枝を退けて道を譲っている。植物たちから異常にチヤホヤされる彼女は、当然のように泥一つ跳ね上げることなく、山の中腹までやってきたのだ。

「あら、ルナさん。ええ、今は冬を越すためのログハウスの建築準備をしておりますの。この苦労して割った薪が、寒い夜の焚き火でパチパチと燃える音を想像すると、ロマンを感じずにはいられませんわ」

 スアイは誇らしげに、綺麗に積み上げられた薪の山を指差した。

 だが、その『ロマン』という概念は、圧倒的な『天然の善意』の前では無力であった。

「冬の夜……! それは寒くて大変ですわ! スアイさんが凍えてしまったら可哀想です!」

 ルナが両手を頬に当てて、純粋な心配の声を上げる。

「え、ええ。だからこそ、こうして薪を……」

「お任せくださいませ! 私が、スアイさんのために『最高に温かい火』をプレゼントして差し上げますわ♡」

「……はい?」

 ルナが世界樹の杖を無邪気に振り上げた瞬間。

 ゴアァァァァァァッ!!

 ルナの杖の先端から、巨大な『火炎龍』が顕現した。

 周囲の空気を一瞬で灼熱に変えた火炎龍は、ルナの善意(無自覚な破壊衝動)のままに空を舞い、スアイが三日三晩かけてコツコツと割り続けた『薪の山』に向かって、特大の紅蓮のブレスを吐き出した。

「なっ――!?」

 ドゴォォォォンッ!!

 凄まじい爆炎が巻き起こり、熱波がポポロ山の中腹を吹き抜ける。

 数秒後、煙が晴れたあとに残っていたのは――炭すら残らないほどに完全に灰と化した、薪の山の『跡地』だった。

「…………ぁ」

 スアイは持っていた設計図を取り落とし、白く燃え尽きた灰を前にして、文字通り絶句した。

「ふふっ♡ どうです? これなら一瞬で身体の芯まで温まりますわよね!」

 ルナはニコニコと天使のような(エルフだが)笑顔を浮かべている。

「わ、私の……私の、血と汗と涙の結晶が……DIYのロマンがぁぁっ!!」

 スアイが頭を抱えて絶叫した。

 魔王軍のブラック労働でもここまで理不尽に成果物を破壊されたことはない。

「あら? 薪がなくなってしまいましたわね。でも大丈夫です! お家が必要なのですよね? それなら、私が立派なお家を作って差し上げますわ!」

「け、結構ですわ! もう何もしないでくださいませ――!」

 スアイの悲痛な叫びをガン無視し、ルナは「えいっ♡」と世界樹の杖を地面に突き立てた。

 その瞬間、大地の奥深くから、尋常ではない地鳴りが響き渡る。

 ズゴゴゴゴゴゴォォォォッ!!

 ルナの暴走気味な植物魔法によって、山の中腹の地形が勝手に隆起し始めた。

 地中から無数の極太の根や蔓が這い出し、それらが複雑に絡み合い、編み込まれ、またたく間に『巨大な建造物』を形成していく。

 数分後。

 スアイの目の前に完成したのは、ささやかなログハウスなどではない。

 高さ三十メートルはあろうかという、不気味にうねる蔓と、食虫植物のような巨大な葉っぱで構成された、奇怪な『巨大樹海マンション(触手付き)』であった。

「完成ですわーっ! 全室日当たり良好、家賃無料、防犯用の触手トラップ完備の最高級エコロジー物件ですの! さぁ、スアイさん、どうぞお入りになって♡」

「入るかァァァッ!!」

 ブチギレたスアイの足元が、パキパキと音を立てて凍りつき始めた。

「な、なんですのこの悪趣味な魔城は! DIYのロマンを根底から否定するだけでは飽き足らず、こんな景観破壊の化け物屋敷を押し付けるなんて! あんた、あのセクハラ魔王軍の上層部よりタチが悪いですわーッ!!」

 スアイが絶対に切れない鎖の付いた片手斧を構え、全身から最強の氷魔将軍としての絶対零度の魔力を吹き上がらせる。

「ええっ!? どうして怒っていらっしゃるの!? 私、善意でお手伝いしましたのに!」

「その無自覚な善意が一番腹立たしいんですのよ! この化け物マンションごと、カチコチの氷漬けにして砕いてやりますわ――!」

 スアイが怒りのままに斧を振り上げ、ルナが「ひぃっ!?」と涙目で逃げ回ろうとした、まさにその時。

「……そこまでだ。二人とも、兵器(魔法)を収めろ」

 極寒の冷気よりもさらに冷たい、圧倒的にロジカルな声が、山の中腹に響き渡った。

「あ……っ、優太君!」

「指揮官殿……!」

 コンバットグラスを光らせ、アメリカンスピリットの煙を細く吐き出しながら現れたのは、ポポロ村の防衛指揮官、中村優太だった。

 優太は腰のワスプ薙刀・改に手を添えたまま、ルナが錬成した不気味な巨大樹海マンションを見上げ、深く溜め息を吐いた。

「AWACSの地形データが急激にバグったと思ったら、案の定か」

 優太はスタスタと二人の間に割って入り、まずは天然エルフへと厳しい視線を向けた。

「ルナ。お前の善意は理解するが、行政手続き(コンプライアンス)を完全に無視している。村の条例に基づく『建築確認申請』を出さずに、三十メートル級の建造物を建てるのは明確な『建築基準法違反』だ」

「け、けんちくきじゅん……?」

「さらに、さっきの火炎龍だ。乾燥した冬の山林において、事前申請なしの特大火力の発動は『消防法』および『火災予防条例』に抵触する。下手すればポポロ山全体が燃え尽き、近隣の国へ延焼して国際問題カズス・ベリに発展しかねない」

 軍事と法律を絡めた身も蓋もない詰め(ロジック)に、ルナは耳をペタンと伏せて涙目になった。

「うぅ……ごめんなさい。私、ただスアイさんに温かくなってほしくて……」

「動機が善意であっても、結果として他人の労働の結晶(薪)を奪い、景観を破壊した事実に変わりはない。……ルナ、この違法建築物を今すぐ更地(自然)に戻せ。それがペナルティだ」

「は、はいですわ……」

 優太の冷徹な指導に逆らうことはできず、ルナがしゅんとして杖を振ると、巨大樹海マンションはスルスルと地中に戻り、元の開けた尾根の地形へと復元された。

「……ふぅ。ありがとうございます、優太師匠。危うく、あの不気味な触手マンションで一生を終えるところでしたわ」

 スアイが氷の魔力を収め、ホッと胸を撫で下ろす。

 だが、優太はスアイに向かっても、手加減なしの指導を行った。

「お前もだ、スアイ。たかが薪を燃やされたくらいで、局地兵器級の氷魔法を抜くな。過剰防衛だ。キャンパーならば、不測の事態トラブルすらも楽しむ余裕を持て」

「うっ……おっしゃる通りですわ。私としたことが、ついロマンを壊されて冷静さを欠きましたの」

 最強の元魔将軍と、次期女王候補のエルフが、元地球の軍医の前で揃って正座し、シュンと反省する。

「よし。反省しているならいい」

 優太は携帯灰皿を取り出し、アメスピの灰を静かに落とした。

「スアイ。薪なら、また割ればいい。……ルナ、お前も『魔法』ではなく『自分の手』で、スアイの薪割りを手伝ってやれ。他人の労力を理解するには、自分で汗を流すのが一番だ」

「わ、私の手で……?」

「ああ。DIYのロマンを、その身体で学んでみろ」

 数十分後。

 ポポロ山の中腹には、タローマン製の軍手をはめたルナが、「重いですわ〜っ!」と涙目で斧を振り回し、それをスアイが「腰が入っていませんの! もっと下半身の体重を乗せなさい!」と熱血指導する、奇妙だが微笑ましい光景が広がっていた。

【善行を確認しました】

【対象:違法建築の撤去(景観保護)および、異種族間の労働(DIY)による相互理解の促進】

【ポイントを加算します:+1500P】

 脳内で鳴り響く軽快なシステム音を聞きながら、優太は新しく沸かしたお湯でインスタントのポポロ・コーヒーを淹れた。

(……手間はかかるが、悪意のないトラブルなら対処は容易い。これで村の結束も、少しは固まるだろう)

 天然の災害と、不器用なキャンパー。

 彼女たちが苦労して割り直した薪が、冬のポポロ山の夜を温かく照らす日は、そう遠くないはずであった。

お読みいただきありがとうございます!


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