EP 7
凸撃者(迷惑系)の来襲と、フェイクの真実
ポポロ村の南門に、耳障りな怒声と下品な笑い声が響き渡っていた。
「さあ! 配信を見ている正義のリスナー諸君! 俺たちが今、悪逆非道な搾取を行っているという『ポポロ村』の入り口に到着したぜ!」
先頭に立って叫んでいるのは、派手な装飾が施された(しかし実戦的ではない)革鎧を着た、金髪でピアスだらけの男だった。
彼の片手には、先端に魔導通信石を固定した長い棒——いわゆる『自撮り棒』が握られており、そのレンズを村の門と自分自身の顔へと交互に向けている。
「情報によると、この村は周辺の農民から食料を巻き上げ、村長と指揮官だけが贅沢三昧をしているらしい! 俺たち『ルナミス自警団・真実の剣』が、今日、奴らの化けの皮を剥いでやるからな! おっ、名無しさん、金貨(赤スパ)ありがとーっ!」
男の背後には、彼に同調して集まった柄の悪いならず者や、傭兵くずれの男たちが数十人規模で群れを成していた。彼らもまた、それぞれ武器と魔導通信石を構え、ニヤニヤと卑劣な笑みを浮かべている。
天界の炎上神ワイズが流したフェイクニュース。
それに乗せられ、「正義の鉄槌」という名目で合法的な略奪とPV稼ぎを目論む『迷惑系配信者(凸撃者)』の群れである。
「開けろォ! 悪党ども! 俺たちが査察に入ってやる!」
ガンッ! ガンッ! と、門が激しく叩かれる。
門の内側では、イグニスをはじめとする自警団が、槍や弓を構えて顔面を蒼白にしていた。
「くそっ……! 優太! 奴ら、門を力ずくで破る気だぞ!」
「……待て。武器を下ろせ」
緊張が張り詰める中、アメリカンスピリットの煙を細く吐き出しながら、優太が冷徹な声で指示を出した。
「武器を下ろす!? 馬鹿言ってんじゃねえ、あんな奴ら、村に入れたら何をされるか——」
「手を出せば、俺たちの負けだ」
優太はコンバットグラスの奥で、門の向こうの敵を極寒の戦術眼で分析していた。
「奴らの目的は、村を物理的に破壊することじゃない。『ポポロ村の住人が、正義の告発者に対して暴力で襲いかかってきた』という決定的な証拠(動画)を撮影することだ」
優太の言葉に、自警団のメンバーが息を呑む。
「俺たちが槍で一突きすれば、奴らは大げさに倒れ込み、その瞬間を切り取って全世界に拡散する。そうなれば、フェイクニュースは『真実』に変わる。ルナミス帝国の正規軍が、本当に討伐部隊を派遣してくるぞ」
「う、うぐっ……! じゃあ、どうすりゃいいんだよ!」
イグニスが歯ぎしりをする。
その時、優太の横で、特注の安全靴を履いた村長・キャルルのルビー色の瞳が、不気味なほど暗い光を放ち始めた。
「……ねえ、優太君」
ギリリッ、と、安全靴に内蔵された雷竜石が紫電の闘気を帯びる。
「あいつら、優太君のことを『悪逆非道な指揮官』って呼んだよ。私の大好きな優太君を、あんな下品な声で侮辱した。……ねえ、顎だけ。顎を砕いて、二度と喋れないようにしていい? マッハの一撃なら、カメラに映る前に粉砕できるよ?」
ヤンデレ特有の、純度百パーセントの殺意。
だが、優太はキャルルの小さな肩をガシッと掴み、静かに首を横に振った。
「駄目だ、キャルル。どんなに速くても、結果(砕かれた顎)が映れば同じことだ。俺の指示があるまで、絶対に闘気を練るな。これは村長への絶対命令だ」
「……ぅぅっ。優太君がそこまで言うなら、我慢する」
キャルルが不満げに頬を膨らませ、闘気を収める。
暴力(物理)を封じられた、圧倒的なフラストレーションと絶対的不利の状況。
そこへ、門の隙間から覗き込んでいた迷惑系配信者の男が、大きな声を上げた。
「おっ!? おい見ろよリスナー! 門の奥に、村の女がいるぜ! ……うわぁ、ひでえ姿だ!」
男のカメラがズームし、村の広場の隅を映し出した。
そこには、昨日の『やらせカツ丼十杯チャレンジ』の罰として、疲れ果てて地面に座り込んでいる特売の芋ジャージ姿のリーザがいた。彼女の手には、いつもの『カチカチのパンの耳』が握られている。
「見ろよあの悲惨な姿! 服はボロボロの芋ジャージ! 食ってるのはゴミみたいなパンの耳だ! 間違いない、ここの指揮官が食料を独占して、村人を奴隷みたいに扱ってる証拠だァーッ!」
男が勝ち誇ったように叫び、配信のコメント欄が『可哀想!』『指揮官を許すな!』と大炎上する。
「……は?」
パンの耳を齧っていたリーザが、ピキッとこめかみに青筋を浮かべて立ち上がった。
「誰が奴隷ですって!? ふざけないでくださいな! 私は元シーラン国の人魚姫! そしてこのパンの耳は、私がルナミスの底辺生活で培った『究極の節約術』の結晶ですの! 優太様は毎日、ロックバイソンの缶詰やおむすびを支給してくださる、最高に慈悲深いお方ですわーッ!!」
リーザがカメラに向かって血の涙を流しながら猛烈な抗議(擁護)を行う。
だが、迷惑系配信者はその言葉を都合よく歪曲した。
「おぉっと! 恐怖で洗脳されてるぜ! あんなゴミを食わされて『慈悲深い』だなんて、どんだけ酷い拷問を受けてきたんだ! 俺たちが今、助けてやるからなーっ!」
「ちッ、違いますわーっ! 私のアイデンティティ(極貧サバイバル)をフェイクニュースのダシに使わないでくださいなーッ!」
怒り狂うリーザ。
どんなに正論を叫んでも、狂った正義感とPVに酔いしれる暴徒たちには一切届かない。
門の蝶番が限界を迎え、ギシギシと悲鳴を上げ始めた。このままでは突破され、村の農地が蹂躙される。
「優太! もう限界だ! 門が開いちまうぞ!」
「……よし。ネギオ、門を開けろ」
「はぁ!? 本気か優太!」
「開けろ。奴らを『広場』に招き入れる」
優太の冷徹な声に、ネギオが額に脂汗を浮かべながら門のカンヌキを外した。
ギィィィッ……。
重厚な南門が開き、ポポロ村の広場が解放される。
「おっしゃァァッ! 恐れをなして開けやがったぜ! 突撃ィ!」
金髪の迷惑系配信者を先頭に、数十人の暴徒が歓声を上げながら広場へと雪崩れ込んできた。
彼らは周囲の家屋や畑を物色しようと、品定めのようないやらしい視線を巡らせる。
「さて、どこから正義の鉄槌(略奪)を下してやろうか……おっ?」
暴徒たちの足が、広場の中央でピタリと止まった。
そこには、コンバットグラスを装着し、アメリカンスピリットを咥えた軍医——中村優太が、たった一人で仁王立ちしていたからだ。
手には武器すら持っていない。無防備な立ち姿だ。
「……ようこそ、ポポロ村へ」
優太は咥えていた煙草を外し、冷酷なインテリヤクザの笑みを浮かべた。
「なんだてめえは。偉そうに。俺たちは貴様らの悪事を暴きに来たんだよ!」
「暴く? ああ、それは重畳だ。俺も、貴様らのすべてを『暴く』ために、わざわざ門を開けて招き入れてやったんだからな」
「……あ?」
優太が指を鳴らした、その瞬間。
彼らの頭上、はるか上空から、無駄に煌びやかな七色の光が降り注いだ。
「はーい、みんな! ポポロ村公式防衛情報局長の、天使のキュララだよーっ☆」
ドローンカメラ(エンジェルすまーとふぉん)を複数従えたキュララが、背中の羽をはためかせて空中に浮かび上がった。
その複数のカメラのレンズは、一斉に、広場に侵入した迷惑系配信者や傭兵たちの『顔面』を、4Kの超高画質で的確にロックオンしていた。
「な、なんだあの天使!? それにあのカメラの数は!」
「……情報戦の基本を教えてやる」
優太の声が、広場に冷たく響き渡る。
「カメラを回しているからといって、自分たちが安全圏(神の視点)にいると錯覚するな。……キュララ! 全カメラの映像をネットワーク(特定班)に接続しろ! 『社会的抹殺』のオペレーションを開始する!」
「了解っ☆ それじゃあ特定班のみんなぁ! この村に不法侵入してきた悪いお兄さんたちの本名と実家の住所、全力で探しちゃってねーっ!」
暴力ではなく、究極の『情報開示』という刃。
迷惑系配信者たちの顔から、サーッと血の気が引いていく。
フェイクの正義が、真実のデジタルタトゥーによって焼き尽くされる、地獄のカウンター攻撃が今、幕を開けた。
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