EP 6
炎上神のアルゴリズム操作と、サイバー攻撃
ヤンデレ村長による『ゴシップ配信ドローン撃墜事件』から数日後。
ポポロ村の広報兼・防衛情報局長であるキュララは、優太の厳しい検閲の下で、安全かつ健全な村のPR配信を行っていた。
「はーい、みんな! 今日はポポロ村の特産品『たまんネギ』を使った、優太さん特製のオニオンスープを紹介するよーっ☆」
背景は相変わらず『無地の壁』だが、画面に映る琥珀色のスープからは湯気が立ち上り、キュララが一口飲むと「甘くて美味しい〜っ!」と完璧な食レポを披露する。
過激な企画こそ禁じられたものの、キュララ本来の可愛さと、ポポロ村の豊かな食糧事情(と時折見切れるキャルルやリーザの面白さ)が口コミで広がり、配信の同接(同時接続者数)は安定して高い数字を叩き出していた。
——だが、その平穏な配信の裏側で。
天界のコタツ部屋では、新参の炎上神ワイズが、イタリア製スーツの袖をまくり上げ、血走った目でノートパソコンのキーボードを激しく叩きまくっていた。
「チィッ! 何がオニオンスープだ! 何が健全なPRだ! こんな血も涙も炎上もない平和な配信でPVを稼ぐなど、ゴッドチューブのアルゴリズムに対する冒涜だ!」
PV至上主義のワイズにとって、優太による『完璧な情報統制』は最も忌み嫌う「退屈」そのものだった。
ワイズは狂ったような笑みを浮かべ、神の権限(管理者権限)を用いて、ゴッドチューブのアルゴリズムに直接『不正なコード(神意)』を書き込み始めた。
「平和が売れないなら、俺が『悪意』を捏造してやる。……あの生意気な軍医を、周辺諸国からヘイトを集める『極悪非道な独裁者』に仕立て上げてやるんだよォッ!」
ターンッ!!
エンターキーが強打された瞬間、アナステシア世界のネットの海に、致死量の『毒』が放たれた。
* * *
「えへへ、みんなもこのスープ、是非……えっ?」
ポポロキンの離れで配信をしていたキュララが、突然エンジェルすまーとふぉんのコメント欄を見て言葉を失った。
先ほどまで「美味しそう!」「飲んでみたい!」と温かいコメントで埋まっていた画面が、突如として異様な『黒い文字列』で埋め尽くされ始めたのだ。
『ポポロ村は周辺の村から食料を強奪している!』
『あのスープの玉ねぎも、隣村の農民から巻き上げたものだ!』
『軍医を名乗る指揮官は、村人を奴隷のようにこき使っている独裁者だ!』
『ふざけるな! 搾取をやめろ!』
『ポポロ村を燃やせ! 天罰を下せ!』
「な、なにこれ……!?」
キュララが顔面を蒼白にして震え上がる。
コメントのスクロール速度は異常を極め、人間の目で追える限界を超えていた。さらに、配信の『低評価』ボタンが、数秒の間に何万回と押され続けていく。
「ど、どうしよう! 私、何も悪いこと言ってないのに! みんな急に怒り出して……っ!」
パニックに陥るキュララ。
その騒ぎを聞きつけ、部屋の隅で雑草サラダを咀嚼していたリーザが飛んできた。
「ちょっと! 何ですのこのコメント! 『村人が豪華な食事を独占している』ですって!? ふざけないでくださいな! 私なんて毎日、パンの耳と草を塩水で流し込んでいる底辺ですのよ!? 豪華な食事なんて、やらせの大食い企画の時だけですわーっ!!」
リーザが画面に向かって血の涙を流しながら(ある意味で最も説得力のある)反論を叫ぶが、コメント欄の怒濤の誹謗中傷は止まらない。
そこへ、防衛の巡回を終えた優太とキャルルが部屋に入ってきた。
「優太君! 大変、キュララちゃんの配信が変な人たちに荒らされてるの! 誰を蹴り飛ばせばいいか指示して!」
キャルルが安全靴に雷竜石の闘気を纏わせて臨戦態勢を取る。
だが、優太は慌てることなく、アメリカンスピリットを咥えたまま冷徹な目でホログラムUI(コメント欄の解析データ)を開いた。
「……落ち着け、キャルル。物理攻撃は届かん。これは人間が手動で書き込んでいるものではない」
「手動じゃない?」
「ああ。コメントのタイムスタンプと、IP(魔力発信源)の分散パターンが異常だ。一秒間に千件以上の書き込み……。これは『ボットネット(自動書込プログラム)』を用いた、組織的な『ステルス・マーケティング(炎上工作)』だ」
優太はシガレットの煙を細く吐き出し、画面の奥に潜む『何者か』の存在を正確に割り出した。
「誰かが意図的にアルゴリズムを操作し、この村に対する『フェイクニュース(偽情報)』を大量に拡散させている。目的は一つ……ポポロ村に対する社会的信用の失墜と、周囲からのヘイト(憎悪)の扇動だ」
「ふぇいくにゅーす……? 嘘の噂を流してるってこと?」
キュララが涙目で優太を見上げる。
優太は静かに頷いた。
「現代戦において、武力行使の前には必ず『情報戦』が行われる。敵国を悪魔に仕立て上げ、自分たちの攻撃を『正義』だと大衆に思い込ませるためにな。……これを仕掛けた奴は、単なる嫌がらせではなく、明確な『戦争の口実』を作ろうとしている」
極寒の戦場医官の背筋に、冷たい緊張感が走る。
「ネット上の『嘘』は、数百万回繰り返されれば、大衆にとっての『真実』に変わる。そして、その『真実』を真に受けた馬鹿どもが、正義感を振りかざして現実の物理攻撃に出る」
優太がその言葉を口にした瞬間。
村の監視塔に配置されていたイグニスから、魔導通信機を通じて切羽詰まった声が飛び込んできた。
『優太! 緊急事態だ! 南門の街道から、武装した傭兵やならず者の集団が、数十人規模でこっちに向かってきている! 奴ら、手に手に魔導通信石を持ちながら、「悪徳村を成敗する!」って叫んでやがる!』
「……来たか。ネットの扇動に乗せられた『迷惑系凸撃者』の群れだ」
優太は腰のワスプ薙刀・改を手に取り、静かに刃の冷たさを確かめた。
「キャルル、自警団を南門に集結させろ。だが、絶対にこちらから手は出すな。手を出せば、それこそ『フェイクニュースが真実だった』という決定的な動画(証拠)を撮られることになる」
「わ、わかった。でも、手を出さないでどうやって守るの?」
「武力には武力を。情報には——情報をぶつける」
優太は怯える天使のトップ配信者、キュララへと視線を向けた。
「キュララ。カメラを回せ。これから俺たちが、奴らの顔と本名、そして隠された『過去の罪』を全世界に生配信で暴き出し、社会的に抹殺する。特定班の準備をさせろ」
「えっ……! あ、はいっ! 特定班、スタンバイしますっ!」
炎上神の放ったフェイクニュースという巨大な濁流。
それに対し、優太は『特定』という現代のネット社会における最強のカウンター兵器を以て迎撃の構えを取った。
軍医と天使による、前代未聞の『公開処刑防衛戦』の幕が、今切って落とされようとしていた。
お読みいただきありがとうございます!
評価・ブックマークで応援いただけると励みになります。




