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異世界の戦場医官、現代医療とタクティカル兵器で無双する〜ポイント稼いで地球の物資をポチったら、村の英雄になりました〜  作者: 月神世一


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40/60

EP 10

神々の視聴率ゴッドチューブと、炎上神の悪意

 アバロン魔皇国からの視察団来訪を告げる黒い手紙が届いた翌朝。

 ポポロ村の村長宅の離れ『ポポロキン』では、エルフの次期女王ルナ・シンフォニアが、純白のドレスの裾をまくり上げ、満面の笑みでモップ掛けを行っていた。

「いち、に、いち、にっ♡ 優太様に命じられた反省清掃ルンバ・クリーニング、とっても心が洗われますわ!」

「……ルナちゃん、怒られて罰を受けてるはずなのに、なんであんなに嬉しそうなの?」

 特注の安全靴を履いたキャルルが、お手製の人参柄のハンカチで刺繍をしながら呆れたように呟く。

 その向かいの席では、極貧人魚のリーザが『ロックバイソンの缶詰(醤油草炊き込みご飯味)』をスプーンで貪り食っていた。

「おいひいですわぁ……! パンの耳じゃない本物の炭水化物とタンパク質……っ! 労働の後のご飯は格別ですの!」

「リーザ、お前はただ地下倉庫の箱の数を数えていただけだろうが」

 呆れ顔で突っ込みながら、優太はアメリカンスピリットの煙を細く吐き出した。

 平和なシェアハウスの朝。コンプライアンス契約書によって完全に手綱を握られたルナと、餌付けされたリーザ、そしてヤンデレ気質だが村長として頼りになるキャルル。

 だが、優太の網膜に展開されているホログラムUIの画面は、この弛緩した空気とは裏腹に、極めて緊迫した戦術データを表示していた。

(……アバロン魔皇国の『ルーベンス』。事前情報によれば、魔族穏健派の貴公子であり、相当な切れ者だ。目的がポポロシガーなどの嗜好品だとしても、警戒するに越したことはない)

 優太は昨日獲得した15000Pを惜しみなく消費し、地球の最新鋭『小型ステルス偵察ドローン』と『高解像度サーモカメラ』を複数錬成し、村の周辺の森に密かに配置していた。

 魔族の視察団に対する、インテリヤクザ的防衛網の構築。

「優太君、難しい顔してどうしたの?」

「……いや。少し、嵐の予感がするだけだ」

 優太は静かに空を見上げた。

 見えない敵の視線。戦場医官のシックスセンスが、上空の遥か彼方から、自分たちを『監視モニター』している何者かの存在を感じ取っていた。

     * * *

「——ちょっと! なんなのよこの展開はァァァッ!」

 アナステシア世界の遥か上空、天界セレスティア

 女神ルチアナの万年床が敷かれたコタツ部屋で、アバロン魔皇国の女帝・魔王ラスティアが、エンジェルすまーとふぉんの大画面モニターを指差して絶叫していた。

「私のルーベンスが! なんで辺境の村に視察の手紙なんて出してるのよ! あいつ、絶対に視察にかこつけて、ポポロ村のシガーを買ってルナミスの競馬場に行くつもりよ! 公費の横領よ!」

「あんたが言えた義理じゃないでしょ……」

 ピンク色の芋ジャージを着たルチアナが、ポテトチップスを齧りながらジト目で突っ込む。

 モニター(ゴッドチューブ)には、ルナの放った火炎龍を優太が即効性麻酔で鎮圧し、分厚い契約書でエルフを屈服させた一部始終が映し出されていた。

「それにしても、あの軍医……完全にイレギュラーね。100キロの純金が落ちてきたら、普通は村人同士で殺し合いの暴動が起きるか、他国が略奪に来て血の海になるはずなのに。一瞬で『インフレの危機』とか言って地下に完全封印しちゃうんだもん」

「ええ。物理的な破壊魔法よりも、あの男の『コンプライアンス』の方がよっぽど厄介で無敵だわ。……でも、PV(視聴率)はウナギ登りよ。読者はこういう『ロジカルな圧倒』が大好きなのね」

 ルチアナとラスティアが感心したように頷き合っていた、その時だった。

「——つまらないな。血も涙もない、ただの事務作業じゃないか」

 コタツ部屋の空間が歪み、一人の男神が姿を現した。

 高級なイタリア製スーツを着こなし、専用のタンブラーでカプチーノをすする男。最近神界に成り上がってきた新参の『炎上神ワイズ』だ。

 彼は小脇に抱えた最新型のノートパソコンを開き、軽蔑の眼差しでモニターの優太を見下ろした。

「純金100キロが落ちてきたなら、村が欲に塗れて崩壊し、悪党が女子供を嬲り殺しにする。そこへ俺の契約勇者が駆けつけて、悪党を惨殺して『ざまぁ』を披露する。……それがゴッドチューブで最もPVを稼げる、美しい『炎上と復讐の物語』だろう?」

「ワイズ……あんたねぇ、PVのためなら人間が何人死んでもいいっていう、その迷惑系配信者みたいなやり方、ガオガオン(調停者)にバレたら一瞬で焼却されるわよ?」

 ルチアナが警告するが、ワイズは鼻で笑った。

「ガオガオン? あの四神は今、社内恋愛のドロドロで出社拒否中だ。俺を止める奴はいないさ」

 ワイズはキーボードを叩き、一つのホログラムウィンドウを展開した。

 そこに映し出されたのは、純白の聖なる鎧とミスリルマントに身を包み、見事な白い歯(整形)を輝かせている人間の男——勇者『ゼロス・ディバイン』の姿だった。

 モニター越しのゼロスは、カメラが回っていない路地裏でポポロシガーをポイ捨てし、慌てて口臭スプレーを撒き散らしながら、取り巻きの女たちに作り笑いを向けていた。

 課金すればするほどステータスが跳ね上がるユニークスキル【マネー】を持つ、ハリボテの最強勇者。

「アバロン魔皇国の視察団ルーベンスがポポロ村に向かうなら、好都合だ。魔族の侵略という名目で、俺のゼロスをあの村に派遣してやろう。村が焼け落ち、魔族と勇者が衝突する大惨事……最高の『炎上配信』になるぞ」

「……趣味が悪いわね。あの軍医に、痛い目を見せられればいいのに」

 魔王ラスティアが嫌悪感露わに吐き捨てるが、ワイズは狂ったように笑いながらノートパソコンのエンターキーを叩き込んだ(PV至上主義の神意介入)。

     * * *

 アナステシアの地上。ポポロ村。

 優太は空から吹き下ろす、微かだが明確な『悪意の風』を感じ取り、コンバットグラスの奥で鋭く目を細めた。

「優太様? どうかされましたの?」

 モップ掛けを終えたルナが、小首を傾げて覗き込んでくる。

 優太はアメリカンスピリットを携帯灰皿に揉み消し、静かに息を吐いた。

「いや……少し、予定を変更する。ルナ、キャルル、リーザ。午後から自警団合同の『対魔族・対高機動戦術訓練』を行う。……どうやら、面倒な客は一人だけではなさそうだからな」

 魔族の貴公子と、ハリボテの勇者、そして炎上神の悪意。

 ポポロ村という名の「経済と平和の特異点」に向かって、それぞれの思惑が収束していく。

 だが、どんな理不尽な嵐が吹き荒れようとも、極寒の戦場医官は揺るがない。命を救い、共同体の富とルールを守り抜くため、中村優太は静かに薙刀の刃を研ぎ澄ませていた。

お読みいただきありがとうございます!


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