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異世界の戦場医官、現代医療とタクティカル兵器で無双する〜ポイント稼いで地球の物資をポチったら、村の英雄になりました〜  作者: 月神世一


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EP 6

第6話:遭遇! 暴食のキマイラと、噛み合わない三つの頭

ポポロの森の深部。

うっそうと茂る木々が少しだけ開けた空間――本来なら陽光が差し込む美しい森の広場に、それはいた。

「……あれが、合成獣キマイラ

茂みの陰から様子を窺っていた優太が、低く呟いた。

体長は優に三メートルを超える。黄金のたてがみを持つ巨大な『獅子の頭部と前脚』。しかし、その背中から強引に継ぎ接ぎされたかのように、白く粗い毛に覆われた『山羊の胴体と後ろ脚』が繋がっている。そして、太い尻尾の先端には、鎌首をもたげた猛毒の『大蛇』がシューシューと威嚇音を立てていた。

本来なら、見る者を恐怖のどん底に叩き落とす凶悪な魔物である。

だが、そのキマイラの様子は、優太が足跡と胃液から推測した通り、あまりにも滑稽で、同時に哀れなものだった。

『ガァァァァッ!!』

獅子の頭が、森の奥を通りかかった巨大なイノシシの魔物ロックボアの気配を察知し、獰猛な牙を剥き出しにして前へ飛びかかろうとした。

だが、次の瞬間。

『メェェェェェッ!?』

「ブチチチッ」と嫌な音を立てて、キマイラの動きが急停止した。

獅子とは別の独立した神経系を持つ『山羊の後ろ脚』が、足元に生えている美味しそうな青草に気を取られ、前へ進むことを完全に拒否して踏ん張ってしまったのだ。

『ガァルルルッ!?』

『メェェェェッ!』

前へ進みたい獅子の前脚と、その場で草を食らいたい山羊の後ろ脚。

全く別個の二つの意志が、一つの背骨(脊椎)を挟んで真逆のベクトルに引き合っている。結果、キマイラの巨大な身体は不格好に反り返り、腰の関節からミシミシと悲鳴のような骨のきしむ音が鳴っていた。

『シャァァァァァァッ!!』

さらに最悪なことに、全く身動きが取れずストレスを溜め込んだ尻尾の大蛇が、怒り狂ってキマイラ自身の山羊の胴体へと噛みつこうと牙を突き立てている。

「……酷いな。前脚の運動野と後ろ脚の運動野が完全に独立して暴走している。中枢神経が全く機能していない」

優太はガスマスクを首元に掛けたまま、冷徹な医官の目でその狂った生態構造を観察した。

「異なる種族の拒絶反応と、慢性的な消化不良による極度のストレス状態。あの黄緑色の強酸性の胃液は、胃潰瘍を引き起こす直前の異常分泌だ。放置すれば、勝手に自滅する可能性すらあるぞ」

「あらあら、なんだか可哀想なバケモノですわね……。あんなに自分の体で喧嘩ばかりしていては、アイドルグループなら結成三日で解散ですの」

リーザが芋ジャージの袖で口元を隠し、少しだけ同情したような声を漏らす。

だが、その横で、絶対に同情などしていない人物が一人いた。

「――優太さん」

キャルルの声が、絶対零度の地獄の底から響いた。

彼女の目は、キマイラの『山羊の口元』を完璧にロックオンしていた。

山羊の口元からは、青草に混じって、色鮮やかで栄養満点の『葉っぱ』がはみ出している。

それは、ポポロ村周辺の自生植物ではない。キャルルが三ヶ月間、手塩にかけて魔力と陽薬草成分を注ぎ込んで育て上げた、『超・陽薬草ムーンキス・キャロット』のヘタと葉っぱだった。

「私の……私の三ヶ月の愛の結晶(カレーの具材)が……あんな、自分たちの足並みも揃えられない不細工なバグ獣の胃袋に収まって……消化不良の胃酸に溶かされているなんて……」

バチバチバチィィィッ!!

キャルルの全身から紫電の闘気が吹き荒れ、周囲の草木がその静電気で焦げ始める。

「万死ッ! 億死ッ! 絶対に許しません!! 今すぐその腹をかっさばいて、私の人参を未消化のまま取り戻してやりますッ!!」

「いや、未消化のまま取り戻してもカレーには入れられないからやめろ」

優太が冷静にツッコミを入れたが、もう遅かった。

「ガハハハハッ! なぁんだ、優太が警戒するからどんだけヤベェ化け物かと思えば、ただのドジっ子の集まりじゃねぇか!」

キャルルの怒りの闘気に釣られるように、竜人族のイグニスが茂みから豪快に飛び出してしまったのだ。

「おい、イグニス! 待て!」

優太の制止の声も虚しく、イグニスは両手斧を頭上に掲げ、完全に隙だらけのキマイラへ向かって一直線に突進していく。

「見ろよあの不格好な姿! 獅子と山羊と蛇が綱引きしてやがる! あんなポンコツ、俺様の両手斧で一文字に叩き割ってやるぜェェッ!!」

イグニスは、優太から首に掛けられたトリアージタグ(赤・黄・緑)のことなど完全に忘れ去り、己の竜の腕力と慢心だけで踏み込んだ。

『――ガァァァァッ!!?』

自分たちで揉み合っていたキマイラだったが、突如として接近してきた「強力な外敵イグニス」の気配を察知した瞬間――そのバラバラだった三つの意志が、生存本能という名の下に『一つの防衛行動』へと奇跡的にリンクした。

「喰らえェェッ! 【イグニス・――」

イグニスが斧を振り下ろそうとした、その刹那。

キマイラの獅子の頭部が、イグニスに向けて大きく顎を開いた。

ゴォォォォォォォッ!!

獅子の口から、イグニスの竜のブレスにも匹敵する、灼熱の火炎放射が放たれた。

「うおっ!? 炎だと!?」

イグニスは咄嗟に斧の腹を盾にして炎を防いだ。竜人族の硬い鱗と、生来の炎への耐性のおかげで、直撃を食らっても致命傷にはならない。

「へっ! 俺様は竜だぜ! この程度の火遊びじゃ、俺様の鱗は――」

だが、キマイラの攻撃はそれだけではなかった。

獅子の火炎の死角に隠れるように、背後から鎌首をもたげた『大蛇』が、イグニスの足元へ向けてシューシューと牙を剥き出しにした。

プシュゥゥゥゥゥッ……!!

大蛇の牙から噴射されたのは、毒液ではない。

空気に触れた瞬間に霧状に気化する、どぎつい紫色の『毒霧』だった。

「――イグニス! 息を止めろ!!」

優太が叫んだが、遅かった。

「……は? なんだこの、甘ったるい煙……ゴホッ! ゲホォッ!!」

イグニスは火炎の熱に気を取られ、無防備にその毒霧を肺の奥深くまで吸い込んでしまったのだ。

直後、彼の二百キロの巨体が、ビクンッ!と痙攣した。

「あ、あれ……? 力が……」

イグニスの手から両手斧がすっぽりと抜け落ち、地面にドスンと重い音を立てて落ちた。

「お、おい……俺様の腕が、言うこと聞かねぇ……! 足の感覚も……!」

イグニスは自分の手を見つめたまま、白目を剥き、そのまま糸が切れた操り人形のように、ドサリとその場に崩れ落ちた。

「イ、イグニス!?」

リーザが悲鳴を上げる。

「チッ……! ニコチン受容体を阻害する『クラーレ(筋弛緩毒)』の強力な変異種か!」

優太は瞬時にガスマスクを顔面に装着し、毒の成分を看破した。

「呼吸筋が麻痺する前に解毒薬を打たないと、窒息死(トリアージ・赤)するぞ!」

『ガァァァァッ!』

『シャァァァァッ!』

厄介な外敵を一人無力化したキマイラは、獅子の獰猛な瞳で、茂みに隠れている優太たちを完全に捕捉した。

先ほどのドジっ子ぶりはどこへやら、自分たちの身体の制御よりも『目の前の敵を排除する』という一点において、獅子と蛇の連携が取れ始めている。

「キャルル! 迂闊に踏み込むな! あの毒霧の範囲内に入れば、お前のスピードも封じられる!」

優太がキャルルの肩を掴んで制止する。

「ですが、優太さん! このままじゃイグニスが……それに、私の人参の無念が!」

キャルルはダブルトンファーを強く握りしめたまま、ギリッと歯噛みした。

彼女の月影流は超接近戦インファイトが主体だ。獅子の炎を躱せても、広範囲に散布される蛇の筋弛緩毒の霧を吸い込めば、どれだけ闘気を高めていようと数秒でダウンしてしまう。

前衛の最強火力が倒れ、スピードアタッカーが踏み込めない。

ポポロ村自警団の陣形が、開戦十秒で完全に崩壊した瞬間だった。

「……ふふっ。やっぱり、私がいないとダメですわね」

緊迫した空気の中、背後から場違いなほど明るい声が聞こえた。

優太とキャルルが振り返ると、臙脂色の芋ジャージを着たリーザが、自分の背丈ほどもある『みかん箱』を地面にドンッと置いていた。

「リーザ? お前、まさか……」

「アイドルは、どんな逆境でもステージを諦めませんのよ」

リーザは首からトリアージタグ(緑)を誇らしげに下げたまま、みかん箱の上にヒラリと飛び乗った。

そして、ドワーフ鋼製の魔導マイクを強く握りしめ、ふわりと微笑む。

「優太さん、キャルル様。私、この村に来て、優太さんからお掃除のお仕事をいただいて……自分の手で銀貨を稼ぐことの尊さを知りましたの。だから……」

リーザの瞳が、深海の王族としての、純度百パーセントの『強欲』でギラリと光った。

「だから! 私から時給の発生する大事な労働時間(ファンとの交流)を奪うような、あんな不細工なバケモノ……この私が、歌の力で完膚なきまでに叩き潰して差し上げますわ!」

「……強欲のベクトルの向け方が相変わらず極端だな。だが、今はそれが必要だ」

優太はガスマスクの奥で、小さく口角を上げた。

「リーザ、イグニスの解毒デトックスまで時間を稼げるか?」

「お任せくださいませ! 五円玉スパチャがなくても、私の全魔力を乗せた『森のアコースティック・ライブ』をお見せしますわ!」

リーザはマイクを口元に寄せ、大きく息を吸い込んだ。

「さぁ、聴きなさい! 私の強欲な愛を! 『Love & Money』!!」

大自然のルールを無視した合成獣キマイラに対し、資本主義と承認欲求の化身(地下アイドル)が真っ向から激突する。

優太は折りたたみ式のワスプ薙刀をシャキィンと展開し、医官としての冷静な瞳でキマイラの『解剖図』を脳内に描き始めていた。

「……大自然のバグには、現代のロジック(解剖学)をぶつける。手術開始(オペ、スタート)だ」

読んでいただきありがとうございます。

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