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異世界の戦場医官、現代医療とタクティカル兵器で無双する〜ポイント稼いで地球の物資をポチったら、村の英雄になりました〜  作者: 月神世一


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EP 12

解剖学と、魔剣の絶対零度

 ブォォォォォォンッ!!

 空気を叩き潰すような不気味な風切り音と共に、大男の巨大な戦槌ウォーハンマーが優太の頭上から振り下ろされた。

 直撃すれば、人体などトマトのように弾け飛ぶ圧倒的な質量兵器。

 だが、優太の表情には微塵の焦りもない。

(……大振りすぎる。予備動作からインパクトまで〇・八秒。欠伸が出る遅さだ)

 優太はシステマの脱力した歩法で、ハンマーの軌道から半歩だけ身をずらした。

 ズドォォンッ! という轟音と共に、優太のすぐ横の地面がクレーターのように陥没し、土塊が弾け飛ぶ。

「チッ、すばしっこいネズミめ! だが、逃げ回るだけじゃ俺の装甲は傷一つつけられねえぞ!」

 大男が装甲越しに籠った声で咆哮し、すぐさま戦槌を横薙ぎに振るおうとする。

 だが、その時にはすでに、優太はハンマーの柄を滑るようにして、大男の懐——完全な『ゼロ距離デッドアングル』へと侵入していた。

「人間の骨格は二百六の骨と、三百六十以上の関節で構成されている。どれほど分厚い鋼で全身を覆おうと、可動域を確保するための『隙間』は必ず存在する」

 極寒の戦場医官の、冷酷な解剖学の講義。

 優太の右手に握られた『ワスプ薙刀・改』が、闇夜の中で妖しく赤い魔力の残光を引いた。

「なっ……!?」

 大男が反応するよりも早く、優太は薙刀の切先を、大男の右脇の下——装甲が薄く、鎖帷子しか露出していない関節の隙間へと正確に突き立てた。

 ガキンッ!

 ネギオの鍛冶技術と『太陽鉱石』の魔力コーティングにより、強度が飛躍的に向上したチタン合金の刃は、ルナミス帝国の鎖帷子を薄紙のように貫通し、大男の肉の浅い部分に到達する。

「ぐっ……! だが、その程度の浅い傷で俺が止まるかァッ!」

「……誰が、斬撃だけで終わると言った」

 優太は氷のように冷たい目で大男を見上げ、薙刀の柄に仕込まれた『特殊スイッチ』を親指で強く押し込んだ。

 プシュゥゥゥゥッ!!

 次の瞬間、大男の体内に突き刺さった刃の先端から、五十気圧に圧縮された『魔力冷却ガス』が爆発的な勢いで注入された。

 元々は対猛獣用のサバイバル兵器に、ネギオの魔力チューニングが加わった悪魔のギミック。

 注入されたガスは、大男の血中と筋肉の水分を瞬時に凍結させ、内部から細胞を破壊しながら急激に膨張していく。

「ガ、アアアアッ!? な、なんだ!? 体の中が、凍るッ、あががががッ!!」

 大男が戦槌を取り落とし、自らの胸を掻き毟るようにして絶叫した。

 分厚い鋼の装甲が、内側からの異常な冷気によって表面に霜を張らせていく。

 優太は刃を引き抜き、間髪入れずに左膝の裏(膝窩)、そして右肩の関節へと同様の刺突とガス注入を連続で叩き込んだ。

 致命傷(臓器)は的確に避けながら、四肢の運動機能を物理的・神経的に完全に『凍結』させる、医官としての精密すぎる制圧術。

「ひぃぃぃぃッ! た、助け……化け物ォォォッ!!」

「……安心しろ。法的証拠として尋問するために、命までは取らない。ただ、しばらくは氷像として冷や汗を流してもらうがな」

 バタンッ、という重い金属音と共に、大男の巨体が地面に崩れ落ちた。

 関節を完全に凍らされ、指一本動かすこともできない。その瞳には、目の前の『人間』に対する絶対的な恐怖だけが刻み込まれていた。

『——さあ! 私の歌で、どんどんお財布の紐を緩めてくださぁぁぁい!』

 広場の方からは、未だにリーザの甲高いアイドルソングと、狂信状態になった自警団員たちの熱狂的なコールが響き渡っている。

 優太は血糊一つついていない薙刀の刃を折りたたみ、深く溜め息を吐いた。

「……BGMが騒がしすぎるな。だが、仕事は完璧だ」

『パラパパパパーン!!』

 その時、優太の脳内で大ボリュームのファンファーレが鳴り響いた。

【善行を確認しました】

【対象:共同体を脅かす悪意(プロの傭兵部隊)の完全なる制圧、および被害の未然防止】

【地域社会への貢献度:特大】

【ポイントを加算します:+5000P】

【現在の所持ポイント:5100P】

(……よし。これでクレイモアの出費分は十分に回収できたな)

 優太はホログラムUIを閉じ、暗視ゴーグルを額へと跳ね上げた。

 周囲を見渡せば、ネギオの仕掛けた変異農作物のトラップと、イグニスたちの物理的暴力、そしてキャルルの飛び蹴りによって、十五人の傭兵部隊は一人残らず無力化され、麻縄で縛り上げられている。

『こちらネギオや。カカッ、インテリヤクザの指揮の賜物やな。こっちは全員パッケージング完了したで。キャベツのゴシップ攻撃で精神崩壊しとる奴もおるがな』

「ご苦労。逃げられないように見張っておけ。明日の朝、面倒な『事後処理』が待っているからな」

 優太は通信機越しに答え、アメリカンスピリットを取り出して火を点けた。

 深く紫煙を吸い込み、夜空へ向かって細く吐き出す。

 ポポロ村を狙ったルナミスの悪徳商人の武力侵略は、かくして、ただの一人の死者も出すことなく、完璧な形で迎撃された。

 ——翌朝。

 ポポロ村の広場に、部下の帰還を待ちわびていたはずの『ゴルド商会』の悪徳商人ガルドが、自警団によって首根っこを掴まれ、引きずり出されていた。

「は、離せッ! 俺を誰だと……ひぃッ!?」

 ガルドの目に飛び込んできたのは、自分が雇ったはずのルナミス最強の重装兵たちが、簀巻きにされ、ボロボロになって土下座させられているという、信じがたい光景だった。

「さて……」

 広場の中央に置かれた木箱に腰掛け、優太が冷酷な笑みを浮かべてガルドを見下ろす。

 その隣では、ネギオが分厚いルナミス帝国の六法全書を片手に、ニヤニヤと笑っていた。

「お待ちかねの、法的・経済的『制裁』の時間だ」

 ポポロ村が真の独立を果たすための、最後の交渉(蹂躙)が始まろうとしていた。

お読みいただきありがとうございます!


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