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異世界の戦場医官、現代医療とタクティカル兵器で無双する〜ポイント稼いで地球の物資をポチったら、村の英雄になりました〜  作者: 月神世一


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EP 7

優太のカレーと、愛と金の哲学

 ルナミス帝国の悪徳商人ガルドを追い返した日の、昼下がり。

 村長宅の台所からは、これまでのポポロ村では嗅いだことのない、複雑で暴力的なスパイスの香りが漂っていた。

 優太は大きな寸胴鍋の前に立ち、木べらで静かに鍋底を掻き回している。

『地球ショッピング』で購入した数十種類のスパイスをブレンドした特製カレールー。そこに、あの『たまんネギ』を飴色になるまで炒めて投入してある。人間の煩悩と水着グラビアの妄想を吸い込んで極限まで糖度を高めたたまんネギは、カレールーに狂気的なほどの深いコクと甘みを与えていた。

 具材は、表面を強火でカリッと焼き上げたトライバード(完全家畜化魔獣)の肉と、ホクホクの太陽芋。それらがスパイスの海の中で、ホロホロになるまで煮込まれている。

「よし。完成だ」

 優太が火を止め、深皿に炊きたての米麦草ブレンドご飯を盛り、その上から熱々のカレーをたっぷりと注ぎ込む。

 スパイシーで刺激的な香りが、村長宅の居間に運ばれた瞬間。

「きゅるるるるるるるるるッ!!」

 特売の芋ジャージを着たリーザの腹の虫が、雷鳴のような轟音を立てた。

 テーブルには、キャルル、イグニス、ネギオ、そしてリーザがスプーンを握りしめて待機している。

「脅威は去った。食って、嫌な気分ごと胃袋に流し込め」

 優太の号令と共に、四人は一斉にカレーにがっついた。

「んんんんんッ!? なんだこれ、口に入れた瞬間は野菜のすっげえ甘みが広がるのに、後から舌がビリビリして……うおおお、スプーンが止まんねえッ!」

「優太君のスパイス……私の体の中が、熱く、熱く燃えていくみたい……はふっ、んっ♡」

「カカッ! 見事な香辛料の配合や! たまんネギの限界効用をスパイスで無限に引き上げとる!」

 イグニスが汗をかきながら貪り、キャルルが吐息を漏らし、ネギオが舌鼓を打つ。

 だが、誰よりも激しい反応を示したのは、極度の飢餓と貧困を知る人魚姫だった。

「はふっ、はむっ! んっ、んぐっ……ああああっ!」

 リーザは一口食べるごとに、アクアマリンの瞳から大粒の涙をポロポロとこぼしていた。

 スパイスの刺激と、圧倒的な旨味の暴力。細胞の隅々にまで染み渡るようなカロリーの温かさが、彼女の心を容赦なく揺さぶる。

「優太さん……っ、これ、これ……金貨が取れますわッ!!」

「……は?」

 感動の言葉かと思いきや、リーザの口から飛び出したのは極めて資本主義的な評価だった。

 彼女は涙を拭い、どんぶりを抱え込みながら熱弁を振るう。

「この刺激的で病みつきになる味! ルナミス帝国の貴族や富裕層に出せば、一杯で銀貨十枚、いや、金貨一枚でも行列ができますわ! 優太さん、これを屋台で売りましょう! 私が看板娘として歌えば、売上は百倍ですのよ!」

「……売る気はない」

 優太は自分の分のカレーを淡々と口に運びながら、即座に切り捨てた。

「俺は医官であって、料理人でも商人でもない。俺が飯を作るのは、お前たちの健康状態を維持し、士気を高めて生存率を上げるためだ。金稼ぎの道具にする気はない」

 その冷徹な返答に、リーザは不満そうに頬を膨らませた。

「またそれですの。優太さんって、本当に商売っ気がありませんわね。怪我の治療も、あんな凄い防衛陣地も、ぜーんぶ無償タダでやってあげるなんて……お人好しすぎますわ。少しは自分の利益を要求したらどうですの?」

 リーザの言葉は、悪気のない純粋な疑問だった。

 ルナミスの路地裏で、パンの耳一つを野良犬と奪い合ってきた彼女にとって、優太の『見返りを求めない無償の奉仕』は、あまりにも異常に見えたのだ。

「……お人好し、か。そんな高尚なものじゃない」

 優太はスプーンを置き、ふっと自嘲するような笑みを浮かべた。

「俺は昔、目の前で大事な人間が死ぬのを見ていることしかできなかった。……何もできない無力さが、どれだけ惨めで残酷か。俺は誰よりも知っている」

 アメリカンスピリットを取り出し、指先で弄りながら、優太は静かに語る。

「だから俺は力をつけた。目の前で失われようとしている命があるなら、俺は俺の持てるすべての技術を使って救い出す。それに値札をつける気はない。命を金で天秤にかけた瞬間、俺はあの日路地裏で震えていた無力な俺に逆戻りしてしまう気がするんだ」

 冷徹な戦場医官の奥底にある、ひどく不器用で、重いトラウマと倫理観。

 食卓に静寂が落ちる。イグニスは真剣な顔で聞き入り、キャルルは「優太君……」と切なそうに胸の前で両手を組んだ。

 だが、極貧のサバイバーであるリーザだけは、その言葉を神妙に受け取ることはしなかった。

「……優太さんの過去は、悲しいですわ。でもね」

 リーザがどんぶりをドンッとテーブルに置き、真っ直ぐに優太を見据える。

「タダで施されるのって、すごく『みじめ』なんですのよ」

「みじめ?」

「ええ。公園で鳩の餌をもらう時も、炊き出しの列に並ぶ時も……皆、同情の目で私を見ましたわ。命を繋ぐためには仕方なかったけれど、施されるたびに、自分の誇りが削り取られていくのが分かりましたの」

 芋ジャージの襟を正し、リーザは胸を張った。

 その姿には、特売品に身を包んでいても隠しきれない、本物の『王族』と『トップアイドル』としての強靭なプライドが輝いていた。

「だから、私はアイドルをやめませんの! 同情なんかじゃなく、私の歌と魅力で、お客さんに『お金を払いたい』って熱狂させる! 彼らの財布からおスパチャを奪い尽くす代わりに……私は、彼らの心から『辛い現実』や『悲しみ』を全部奪い去って、最高の笑顔にしてあげますわ!」

 愛も金もすべて奪い、その対価として圧倒的な夢と救済を与える。

 それこそが、どん底を這いずり回った人魚姫が見つけた『等価交換(アイドル哲学)』だった。

「……ふっ」

 優太は思わず、声に出して笑っていた。

「強欲だが……極めて理にかなった、見事な哲学だ。俺の完敗だな」

「えっへん! 分かればいいんですの! だから優太さんも、たまには私にお小遣いを……」

「それはそれ、これはこれだ。居候のタダ飯食いが調子に乗るな」

「きびしーっ!?」

 ネギオが「カカッ! 限界消費性向を刺激する悪魔のメソッドやな。ええ商売人になれるで」と手を叩いて笑う。

 和やかな空気が食卓に戻った。

 だが、優太の目は笑っていなかった。

「……さて。腹も満たしたことだし、俺は少し『仕事』をしてくる」

「仕事? 怪我人ならいないわよ?」

「医療行為じゃない。害虫駆除の準備だ」

 優太は立ち上がり、ネギオへ視線を向けた。

「ネギオ、お前の鍛冶の腕を見込んで頼みがある。俺の武器を『強化』してほしい」

「ほう……あのルナミスの悪徳商人への備えか」

「ああ。法で追い返された商人が、あのまま引き下がるはずがない。今夜あたり、傭兵のプロを雇って村の特産品とリーザを強奪しに、夜襲をかけてくる確率が極めて高い」

 優太の冷酷な予測に、食卓の空気が再びピリッと張り詰める。

 ポポロ村の黄金の未来を守るため。

 指揮官・中村優太は、自らの牙をさらに鋭く研ぎ澄ます決断を下した。

お読みいただきありがとうございます!


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