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異世界の戦場医官、現代医療とタクティカル兵器で無双する〜ポイント稼いで地球の物資をポチったら、村の英雄になりました〜  作者: 月神世一


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EP 7

狂気のバフ空間『Love & Money』

「貴方たちの全てを私にちょうだい♡」

みかん箱という名のステージに立つ、シーラン国第一王女リーザ。

色褪せた鱗ドレスを纏った彼女が、ドワーフ製の魔導マイクを握りしめ、甘く、そして底知れぬ強欲を込めたウィンクを放った瞬間――ポポロ村の防衛線は、狂気のライブ会場へと変貌した。

『さぁ、いくわよ! 私の虜になりなさい!』

リーザが息を吸い込むと、彼女の周囲の空間が物理的に歪んだ。

人魚族の王族が放つ、因果律すら書き換える『超広域神聖魔術』。それが、地下アイドルとしての生存本能と異常結合した結果生み出された、最凶のバフ・デバフ空間の幕開けだった。

『愛! アイ! 愛! アイ! ラ〜ブラブ!』

(Fu Fu!)

『マネー! マネ! ローン! ダーリン! グ!』

(Yeah!!)

リーザの歌声が、空気を震わせ、大地を揺らし、戦場にいる全生物の鼓膜と脳髄に直接叩き込まれる。

クイーンメロロンが放っていた芳醇で甘い腐敗臭など、リーザの歌声が放つ圧倒的な『強欲のオーラ』の前に一瞬で掻き消された。

『朝に目覚ましがなったわ (ジリリリ!)』

『私はまだ眠いわ (おはよー!)』

『さぁショーの始まりよ (It’s Show Time!)』

『のんびりな私は 1LDKに置いて行くわ (バイバイ!)』

「な……なんだこの歌は……!?」

真っ先に異変が生じたのは、クイーンメロロンに洗脳され、両手斧を構えていたイグニスだった。

彼の脳内に直接、リーザの歌声と『ダイヤが欲しい♪ 土地も欲しい♪ 早く課金しろ♪』という強烈な思念がエコーし始めたのだ。

クイーンメロロンが慌てて身をよじり、イグニスに甘い香りを放つ。

『だ、ダメよ私の騎士様! あんな小娘の歌なんか聴かないで! 私を見て! 私の果肉を――』

「うるせぇッ!!」

イグニスが、クイーンメロロンに向かって激しく吠えた。

彼の竜の瞳から、洗脳の濁りが完全に吹き飛んでいた。いや、正確には『別の何かに上書き』されていた。

「メロンは所詮メロンだろォが! 喋る果物より、俺様はステージで輝くアイドルを推すぜェェッ!!」

イグニスは両手斧を天に掲げ、リーザに向かってサイリウムのように激しく振り下ろし始めた。

「オ・レ・の! アイドルーッ!!」

洗脳が解けたというより、別の狂気に染まっただけだが、防衛線の最大の脅威がこちら側に戻ってきたことには変わりなかった。

『扉を開ければ 私が主人公』

『今日も私の為に世界が動く (まわって! まわって!)』

『全て上手くいくわ (絶対!)』

『愛も富も一つの物 (どっちもちょーだい!)』

リーザの歌がサビに突入すると、戦場に『奇跡』が起きた。

リーザの強欲さ(金への執着)に比例して、彼女の歌を聴いた味方の全ステータスが、爆発的に跳ね上がったのだ。

「こ、これは……ッ! 体の底から、力が湧いてきます……!」

キャルルが驚愕に目を見開く。

彼女の体内を巡る月兎族の闘気が、通常の200%……いや、300%にまで膨れ上がっていた。

さらには、先ほどのイグニスの衝撃波で擦りむいていた手足の傷口が、細胞の強制活性化(超超回復・リジェネレイト)によって、みるみるうちに塞がり、元の白い肌を取り戻していく。

「すごい……痛みが完全に消えた……! リーザちゃん、貴女の歌、本当にすごいバフ効果です!」

キャルルがダブルトンファーを構え直すと、紫電の闘気が周囲の空気をプラズマ化させ、バチバチと火花を散らした。

一方、敵であるメロロンの群れは絶望的な状況に陥っていた。

『い、いやぁぁっ! 頭の中がお金とダイヤで埋め尽くされていくわぁっ!』

『課金……課金しなきゃ……! 株券を買わなきゃ……!』

リーザの歌声デバフを受けた完熟メロロンたちが、パニックを起こして互いにぶつかり合い、果汁を撒き散らして混乱の極みに達している。

『ダイヤが欲しい♪ 土地も欲しい♪ (Want You! Want You!)』

『貴方の(とキャッシュ)で生きていける (Fuuu〜!)』

後方のトリアージエリアで、優太は防毒マスクと耳栓を装着したまま、この阿鼻叫喚の狂気ライブを冷静に観察していた。

(……音波を媒介とした超広域の精神操作と、内分泌系の強制操作か。味方の脳下垂体に直接働きかけ、アドレナリンとエンドルフィンを致死量スレスレまで過剰分泌させている。一時的に痛覚を麻痺させ、筋限界を解除する『リミッター外し』だ)

優太のG-SHOCKのセンサーが、前衛にいるキャルルやイグニスの心拍数が180を超え、異常な数値を叩き出していることを警告している。

(だが、このバフは前借りに過ぎない。曲が終われば、強制的に分泌された脳内麻薬の反動で、急激な血糖値低下と極度の筋疲労が襲いかかってくる。……準備を急ぐか)

優太はタクティカルリュックを開き、自身のユニークスキル【地球ショッピング】を猛スピードで回し始めた。

止血帯や包帯ではなく、筋肉の破壊を防ぐためのBCAA(分岐鎖アミノ酸)の大量の粉末、ブドウ糖の点滴パック、そして何より、消費された莫大なカロリーを補填するための『超高カロリー食』の素材を引き寄せていく。

『だから私は 銀河の果てまで歌って行けるわ』

『だから、何処までもついて来てね♡ (一生ついていくよー!!)』

「一生ついていくドスゥゥゥッ!!」

「愛してるぞ、リーザちゃぁぁんッ!!」

魅了から覚めた(そしてヲタクにクラスチェンジした)ポポロ村の農家やドワーフたちまでが、くわやハンマーをサイリウム代わりに激しく振り回し、完璧な統率で合いのコールを入れ始めた。

「さぁ、アンコールはさせませんよ! 一気に片付けますッ!」

リーザのバフによって完全なハイ状態になったキャルルが、大地を蹴った。

普段でもマッハに迫る彼女の速度が、バフの恩恵で完全に音速を超えた。ソニックブームが巻き起こり、メロロンたちが吹き飛ばされる。

「月影流――乱れ流星脚ッ!!」

キャルルの身体が空中で幾重にも分裂したかのような残像を生み出した。

木々の幹、村の防壁、そして空気を文字通り『蹴り』ながら、ピンボールのように軌道を目まぐるしく変え、死角から無数の飛び蹴りを放つ。

ドゴォォォォンッ!! ブチャァァッ!!

「あぁぁんっ♡」

甘い悲鳴を上げながら、完熟メロロンたちが次々と破裂し、森の大地を極上の100%メロン果汁で染め上げていく。

「キャルルの姉御ばっかりに良い所を持っていかせるかよォッ! 俺様の熱い推し活(物理)を見せてやるぜェェッ!!」

イグニスが、自らの両手斧に紅蓮の火炎を纏わせた。

リーザの歌によって闘気が三倍に跳ね上がった竜人族の炎は、すでに通常の赤やオレンジを超え、数千度に達する『青白い炎』へと変異していた。

「燃え尽きろォォ! 【イグニス・ブレイク】ゥゥゥッ!!」

イグニスが空中高く跳躍し、青白い炎を纏った両手斧を、クイーンメロロンの頭上めがけて一刀両断に叩き込んだ。

『いやぁぁぁっ! 焼きメロンになっちゃうぅぅぅっ!!』

クイーンメロロンの断末魔と共に、大爆発が起きた。

強大な炎の衝撃波が森の入り口を焼き払い、残存していたメロロンの群れごと、全てを香ばしい消し炭(と焼きメロン)に変えてしまった。

『世界中が私の為に愛を叫ぶ (まわって! まわって!)』

『全部抱きしめるわ (最強!)』

『ダイヤも株も♪ 土地も愛も♪ (All Need! All Need!)』

『貴方の全て(人生)を背負って生きていける (Fuuu〜!)』

爆炎をバックに、リーザの歌声がクライマックスを迎える。

『だから私は 銀河の果てまで歌って行けるわ』

『だから、何処までもついて来てね♡』

『ダーリン! (チュッ♡)』

(ジャーン! …ジャン!)

(チャリーン♪)

最後の決めポーズと共に、リーザがみかん箱の上でウインクを放つ。

その瞬間、空から金色のキラキラとした魔力の紙吹雪が舞い散り、熱狂していた村人たちから「うおおおおっ!」「リーザ最高ォォッ!」という地鳴りのような大歓声が巻き起こった。

圧倒的な破壊力と、圧倒的な強欲。

それは間違いなく、ポポロ村の防衛戦線が、たった一人の地下アイドルの『狂気』によって完全勝利した瞬間だった。

だが――。

「……終わったか」

歓声の中、優太だけが冷静に時計のタイマーを止めた。

彼の手には、すでに大量の点滴パックと、筋肉弛緩剤のシリンジが握られている。

『――ピロリン♪』

『重篤なアドレナリン・クラッシュに対する事前準備、および完全なる医療的予測を確認しました。善行ポイント【+600 P】を獲得。運命力のチャージが完了しました』

「よし。これで十分だ」

優太が呟いたその直後。

「やった……やりましたわ! 最高のステージ……」

みかん箱の上で勝ち誇っていたリーザの顔から、スッと血の気が引いた。

「……あ、あれ? なんか、急に……お腹が、空いて……」

グラリ、とリーザの身体が傾く。

本気の魔力(強欲)を放出し、味方に莫大なバフを与えた代償。それは、術者であるリーザ自身の極限の魔力枯渇と飢餓状態の急激な進行だった。

「もう……パンの耳すら、噛む力が……ありませんわ……」

白目を剥いて、みかん箱から崩れ落ちるリーザ。

「あ、れ……? 急に、身体が鉛みたいに……」

「お、俺様もだ……腕が上がらねぇ……」

同時に、バフの恩恵を受けて無双していたキャルルとイグニスも、糸が切れたマリオネットのようにその場にパタリと倒れ込んだ。アドレナリンの過剰分泌による強制リミッター解除の反動クラッシュが、彼らの筋肉と神経を容赦なく襲ったのだ。

「あーあ。言わんこっちゃない」

優太はアメスピの火を消し、救急キットを片手にゆっくりと歩み寄る。

ファンから「時間」を奪うと言いつつ、結局は身を削って村を守った強欲で不器用な人魚と、己の限界を超えて戦い抜いた馬鹿な相棒たち。

「……よくやった。後は医官(俺)の仕事だ」

優太は倒れたリーザを抱き上げ、これまでの善行で貯め込んだガチャポイントを完全に解放した。

狙うは、消耗した細胞を一気に蘇らせる、最強の『超高カロリー食』の素材。

空間が歪み、優太の手元に落ちてきたのは――地球の最高級食材【A5ランク黒毛和牛のブロック肉】と、自衛隊秘伝の【特製カレースパイスセット】だった。

「さて……地獄の底を綺麗にしたご褒美だ。特効薬を作ってやる」

優太は倒れる仲間たちを見下ろし、口角をわずかに上げた。

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