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異世界の戦場医官、現代医療とタクティカル兵器で無双する〜ポイント稼いで地球の物資をポチったら、村の英雄になりました〜  作者: 月神世一


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EP 5

絶対無敵スパチャアイドル伝説!!

「……おい、なんだあの騒ぎは」

 畑での『狂気の農作物制圧訓練』を終え、村の広場へ戻ってきた優太は、コンバットグラスの奥で怪訝そうに目を細めた。

 広場の中央には、どこから拾ってきたのか『木製のリンゴ箱』がぽつんと置かれている。

 その上に立ち、木の枝で作ったダミーのマイクを握りしめているのは、特売の芋ジャージに健康サンダルという極限の底辺スタイルを貫く人魚姫——リーザだった。

『さあ皆さぁぁぁん! 今日も笑顔と夢をお届けする、深海のマーメイド・リーザの路上ライブにようこそーっ! 二曲続けて聴いてください、「絶対無敵スパチャアイドル伝説!!」と「パンの耳より君が好き」ですわーっ!』

 きゅるるるるるっ。

 歌い出しの前に、マイク越しに盛大な腹の虫の音を響かせながらも、リーザは信じられないほどの声量と圧倒的な歌唱力で熱唱し始めた。

「……何をやってるんだ、あいつは」

「路上ライブやな。ルナミス帝国でも、ああやって路地裏で小銭を稼ぐ『地下アイドル』っちゅう底辺労働者がぎょうさんおるわ」

 ネギオがポポロシガーを吹かしながら、呆れたように解説する。

『——愛してるなら形で見せて! 言葉よりも硬貨ゴエンが欲しいの! あなたの財布の紐を断ち切る、私だけの魔法〜♪』

 あまりにも直接的で強欲な歌詞。

 だが、その歌声は透き通るようなソプラノで、聴く者の魂を震わせるような不思議な魔力を帯びていた。

 広場に集まった獣人の村人たちは、最初はポカンとしていたが、次第にその歌声に引き込まれ、手拍子を打ち始めている。

『ありがとうございまぁす! さあ、感動した方はこちらの「お布施箱」に、皆様のスパチャを投げ込んでくださいな! 銅貨でも野菜でも、パンの耳でも大歓迎ですわ! でも一番嬉しいのは金貨ですのよ!』

 曲の合間のMCで、リーザがウインクと共に箱を指差す。

 すると、熱狂した村人たちが「姫様ー!」「最高だぜー!」と叫びながら、ポケットの小銭や、先ほど収穫したばかりの野菜を次々と箱に投げ込み始めた。

「……市場の等価交換の原則を無視して、感情という非合理な価値で富を吸い上げとる。恐ろしい集金システム(ビジネスモデル)やで」

「止めさせてこい、優太。あの強欲人魚、村の備蓄まで吸い尽くす気だぞ」

 イグニスが顔を引き攣らせる。

 優太も溜め息を吐き、ライブを中止させるために広場の中央へと足を踏み出そうとした。

 ——だが、その時。

 優太の冷徹な戦術眼と、医官としての観察力が、村人たちの『異常な変化』を捉えた。

(……なんだ? 連中の顔色が、急激に良くなっている。呼吸が深くなり、筋肉の緊張が解けている……?)

 先ほどまで農作業や自警団の訓練で疲労困憊だったはずの村人たちが、リーザの歌を聴いた途端、活気に満ち溢れ、飛んだり跳ねたりしているのだ。

 さらに、異変は村人だけではなかった。

「お、おい優太、畑を見ろ!」

 イグニスが指差した先。

 防壁の近くにある農地から、土を盛り上げるような轟音が響いていた。

 リーザの歌声の波紋が届く範囲で、『人参マンドラ』たちが土の中で歓喜の絶叫を上げながら巨大化し、『たまんネギ』たちは糖度を極限まで高めて発光すら始めている。

「……人魚の歌声に宿る、精神干渉と細胞活性化の魔法か。広域の回復バフ(AOE)と、農作物の成長促進ブースト効果……」

 優太は歩みを止め、顎に手を当ててロジカルな分析を開始した。

 疲労回復と士気高揚を同時に行い、さらにキャッシュカウである特産品の生産効率を爆発的に引き上げる。

 特売の芋ジャージを着た強欲なアイドルは、優太の目には『極めてコストパフォーマンスの高い、戦術的軍楽隊タクティカル・バード』として映っていた。

『パラパパパパーン!!』

 その瞬間、優太の脳内に陽気なファンファーレが鳴り響いた。

【善行を確認しました】

【対象:村の文化振興、士気向上、および農業生産の劇的改善(※プロデュース・環境提供としての間接的貢献)】

【地域社会への貢献度:中】

【ポイントを加算します:+600P】

【現在の所持ポイント:2100P】

(なるほど。この狂ったライブを『容認』し、環境を提供しただけで、俺にも間接的な善行ポイントが入るのか)

 これほど美味しい話はない。

 優太は口元に微かな笑みを浮かべ、リンゴ箱の上で息を切らして歌い終えたリーザに向かって歩み寄った。

「ぜぇ、ぜぇ……っ。皆さま、たくさんのスパチャ、本当にありがとうございますぅっ! これで今夜は、塩かけご飯から昇格できますわ……っ!」

 箱の中の野菜と小銭を抱きしめ、感涙に咽ぶリーザ。

 その頭上から、優太が「お疲れ」と声をかけ、水筒のスポーツドリンクを差し出した。

「ゆ、優太さん……っ! もしかしてライブ、邪魔でしたの……?」

「いや。お前のその歌声は、この村の防衛と経済において極めて『有益』だ。今後も一日二回、朝と夕方にその箱の上で歌え」

「えっ?」

「お前をポポロ村の専属『戦術音楽隊員』に任命する。ライブによるスパチャは全額お前の取り分にしていい。さらに、歌った分のカロリー消費は、俺の作る飯で完全補給してやる」

 その言葉を聞いた瞬間、リーザの瞳が星のように輝いた。

 ルナミス帝国でどれだけ歌っても見向きもされず、鳩とパン屑を争っていた彼女にとって、それは『世界一の契約プロデュース』だった。

「ほ、本当ですか!? 私、歌ってもいいんですの!? しかも三食付きで!?」

「ああ。だが手は抜くな。村人の疲労回復と、作物の成長度合いをデータ化して評価するからな」

「やりますわ! 私、命を懸けて歌い上げますわーっ!!」

 リーザが優太の手を両手で握りしめ、ブンブンと振り回す。

 ネギオが「タダ飯で広域魔法使いを囲い込むとは、えげつないインテリヤクザやで……」と呟いているが、優太は気にする素振りも見せない。

 村の士気は最高潮。

 狂気の特産品は、リーザのバフによって最高品質の状態で豊作を迎えた。

 あとはこれを輸出し、外貨を獲得するだけだ。ポポロ村の黄金時代は、すぐそこまで来ているように見えた。

 ——だが。

 この『美味すぎる特産品』と『奇跡の歌声を持つ人魚』の噂は、風に乗って隣国のルナミス帝国へも届いていた。

 そして、その甘い匂いを嗅ぎつけた強欲な「捕食者」が、ポポロ村へ向けて馬車を走らせていた。

「へっへっへ……辺境の村に、美味い野菜と極上の人魚だと? 奴隷として売り捌けば、金貨の山になるぜぇ……」

 資本主義の闇。

 ルナミス帝国の悪徳商人の影が、平和な村に忍び寄っていた。

お読みいただきありがとうございます!


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