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異世界の戦場医官、現代医療とタクティカル兵器で無双する〜ポイント稼いで地球の物資をポチったら、村の英雄になりました〜  作者: 月神世一


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15/59

EP 15

地獄の終わりと、次なる騒がしい影

 クレーターの中心に降り立ったキャルルが、銀色の髪を揺らしながらこちらへ極上の笑顔を向けた。

 一億ボルトの雷撃と二百七十七トンの物理的破壊力。死蟲将軍機ネクロジェネラルを一撃で原子の塵に帰した、月兎族の真の力。

 勝利の余韻に浸る間もなく、優太はキャルルの瞳の奥に灯った『異常な光』に気づいた。

「ふふっ……あはははっ! 終わったね、優太君! 私の村、守れたよ!」

 キャルルが両手を広げ、弾むような足取りで優太の方へと歩み寄ってくる。

 だが、その前に、負傷して肩を押さえていた竜人族のイグニスが立ちはだかった。

「そ、村長……すげえ力だな。俺様も驚い——」

 バキィッ!

「グハァッ!?」

 イグニスの言葉は、キャルルがノーモーションで放った右足の回し蹴り——月影流・鐘打ちによって強制的に遮られた。

 巨体を持つ竜人族の青年が、凄まじい衝撃音と共に数メートル後方へ吹き飛び、土嚢の残骸に激突して白目を剥く。

「な、何すんだ村長!?」

「イグニス! おい、大丈夫かッ!?」

 自警団の若者たちがパニックに陥り、優太も慌てて制止に入ろうとした。

 だが、倒れたイグニスの身体を、眩いばかりの『治癒の光』が包み込んでいることに気づき、優太は足を止めた。

 将軍機の鎌でざっくりと切り裂かれていたイグニスの肩の傷が、光と共に細胞レベルで超速再生し、数秒で完全に塞がったのだ。

「みんな、怪我してるね! 痛いの痛いの、全部私が治してあげるからねぇっ!!」

 キャルルが、恍惚としたヤンデレの笑みを浮かべながら、残りの自警団員たちに向かって猛然とダッシュした。

 満月の夜、月兎族の自己犠牲の精神と『人を助けたい』というテンションが限界突破した結果引き起こされる、悲劇的喜劇。

 打撃と共に強制的に治癒魔法を叩き込む、地獄のヤキ入れが始まった。

「ひぎぃッ! あばらが折れ……治ったァ!?」

「村長、顔はやめて、顔は——ぎゃあああッ、でも肩こりが治ってるぅぅっ!」

「姉御の、ご熱いご指導! 感激しましたァァァッ!!」

 広場に響き渡る、自警団員たちの断末魔と感謝の絶叫。

 殴る蹴るの暴行を受けながら、同時にすべての傷と疲労を全回復させられるという、脳の処理限界を超える拷問。

 数分後、そこには無傷でピカピカの身体になりながらも、精神的なダメージで土下座をしてひれ伏す屈強な男たちの山ができあがっていた。

「ふう、すっきりした! ……あ、優太君♡」

 暴走状態のキャルルが、返り血一つない笑顔で優太に振り返る。

 冷徹な戦場医官である優太の背筋に、氷を当てられたような悪寒が走った。格闘術の理合で防ぐことは可能だが、あのマッハの蹴りをまともに受け流せば、ただでは済まない。

「優太君は……怪我してないね。よかった」

 身構える優太に対し、キャルルは蹴りを見舞うことなく、ふにゃりと顔を綻ばせて優太の胸に勢いよく飛び込んできた。

「優太君は、私が守るからね……。ずっと、ずっと一緒にいるんだから……」

「……あ、ああ。わかった。よくやったな、キャルル」

 胸に顔を埋めてグリグリと擦り寄ってくる月兎の少女の頭を、優太は冷や汗を流しながら優しく撫でた。

 どうやら、満月の暴走状態にあっても『優太への絶対的な愛と依存』だけはリミッターが外れないらしい。

 上空の雲が再び満月を覆い隠すと、キャルルは糸が切れたように優太の腕の中でスヤスヤと寝息を立て始めた。

「……たく。とんでもないヒロインだな」

 地獄のような夜が、ようやく終わりを告げた。

     * * *

 翌日。

 ポポロ村の広場は、これまでにない熱気と歓喜に包まれていた。

 死蟲機の残骸は村の広場から完全に片付けられ、代わりに設置されたのは、優太が『地球ショッピング』で購入した大量のバーベキューコンロと、木製の長テーブルだった。

 昨夜の完全防衛による特大ポイント——31500P。

 優太はそこから躊躇なく500Pを消費し、地球の酒と極上の食材を大量に買い込んだ。

 キンキンに冷えた生ビールの金属樽、炭酸が弾けるレモンチューハイ。そして、分厚くカットされたA5ランクの霜降り牛肉、太いソーセージ、山盛りのフライドポテト。

「さあ、食ってくれ! 今日はポポロ村の勝利を祝う大宴会だ!」

 優太がトングを片手にコンロの前で肉を焼きながら叫ぶと、村人たちから割れんばかりの歓声が上がった。

 獣人たちは地球のビールの喉越しと、極上の焼肉の味に狂喜乱舞した。

「なんだこのシュワシュワする麦酒は!? イモッカよりずっと飲みやすくて、最高じゃねえか!」

「先生! この肉、歯がなくても口の中でとろけるぞ! 魔法の肉か!?」

 門番のバウがジョッキを片手に踊り出し、村の子供たちがフライドポテトを奪い合って笑い声を上げる。

 その光景の中心で、キャルルは顔を真っ赤にしながら村人たちに土下座をして回っていた。

「昨日は本当に、本当にごめんなさぁぁい!! 私、満月を見るとテンションがおかしくなっちゃう病気で……っ!」

「頭を上げてください村長! おかげで持病の腰痛まで完全に治っちまいました! これ、うちの畑で採れた太陽芋です、どうか受け取ってください!」

 謝罪するキャルルに対し、昨晩ボコボコにされたイグニスやバウたちは、なぜか涙を流しながら野菜や果物を貢物として捧げている。奇妙だが、これがこの村の愛の形なのだろう。

「……優太」

 コンロの前で肉を焼く優太の隣に、ジョッキを持ったイグニスが並んだ。

 竜人族の巨体は、地球のビールを何杯飲んでもケロリとしている。彼は静かにジョッキを優太のそれと合わせた。

「あんたが陣地を作って指揮してくれなかったら、俺たちは全滅してた。それに……俺様の斧の使い方を教えてくれたから、あの化け物どもと渡り合えた」

 イグニスは、村人たちの笑顔を見渡しながら、ふっと優しげな笑みをこぼした。

「俺は逃げねえ。ルナミス帝国で偽物の像を建てるより、この村を守り抜く。ここで、本当の英雄になってみせるさ」

「ああ。お前ならなれるさ、イグニス」

 優太は自分のジョッキのビールを煽り、煙草アメスピに火を点けた。

 紫煙を夜空に吐き出すと、昨日手術をして命を救った青年の父親が、涙ぐみながら優太の手を握ってきた。

「先生、本当にありがとうございました。どうか、ずっとこのポポロ村にいてくだせえ。あんたは俺たちの誇りだ」

『パラパパパパーン!』

【善行を確認しました】

【対象:宴会を通じた共同体の絆の強化、および精神的ケア】

【地域社会への貢献度:中】

【ポイントを加算します:+300P】

 脳内で鳴り響くファンファーレの音は、もはや皮肉な警告音ではなく、優太の行動を肯定する優しい賛美歌のように聞こえた。

(……俺の戦場は、ここだ)

 ハワイの路地裏で友人を死なせてしまったあの日から、優太の時間は止まっていた。

 命を救うための技術と、命を奪うための武術。矛盾する二つの刃を抱え、恐怖に震えながら生きてきた。

 だが、この異世界で、打算なき自己犠牲から始まった善行の連鎖が、優太に確かな『居場所』を与えてくれた。

 隣では、土下座の行脚を終えたキャルルが「優太くーん、お肉食べさせてー!」と甘えた声で袖を引っ張っている。

「ほら、食え。火傷するなよ」

 優太は呆れたように笑いながら、焼きたての肉をキャルルの口に運んだ。

 三十六時間の連続勤務の末に刺されて死んだあの日からは想像もつかない、騒がしくも温かい日常。

 最強の戦場医官・中村優太の異世界ライフは、こうして最高のスタートを切ったのだった。

     * * *

 ——それから、数日後。

 死蟲機の残骸も完全に土に還り、ポポロ村はいつもの平和な朝を迎えていた。

 だが、このカオスな世界が、いつまでも平穏を許してくれるはずがない。

 村の外れの畑では、麦わら帽子を被った毒舌の樹人——ネギオが、ポポロシガーを吹かしながら、鋼鉄すら両断する『ネギカリバー』をシャッシャッと砥石で研いでいる。

 そして、ルナミス帝国へと続く街道の向こうから。

 特売の芋ジャージに身を包み、足元に健康サンダルを突っかけた、一人の美しい『人魚』がふらふらと歩いてきていた。

「きゅるるるるる……っ」

 彼女の腹の虫が、盛大な咆哮を上げる。

「あぁ……キャルルちゃ〜ん……お腹すいたぁ……。パンの耳じゃ、もう限界ですぅ……」

 飢えと強欲を宿した地下アイドル人魚姫・リーザの襲来。

 ポポロ村に、次なる騒がしい嵐の影が忍び寄っていた。

お読みいただきありがとうございます!


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