EP 14
雷神の月兎と、最後の一手
圧倒的な質量と、強固な装甲。
死蟲将軍機の巨大な鎌が振り上げられ、防衛線を破られたポポロ村の広場に絶望の影を落とす。
「……地球の軍事力を、舐めるなよ」
優太は後退しながら、ホログラムUIの最下層に存在する『特殊・重火器ガチャ(一回10000P)』のボタンを、血に濡れた指で強く押し込んだ。
【所持ポイントを10000P消費します。実行しますか?】
(YESだ。とっとと回せッ!)
今まで大事に貯め込んできた命の対価が、一瞬にして『1500P』へと激減する。
ガチャは完全なランダム。出てくるのが拳銃の弾薬一つか、それとも戦車の主砲か、誰にも分からない。
だが、この『地球ショッピング』には隠されたシステムが存在する。
打算なく、ただ純粋に誰かの命を守るために勇気を振り絞った時、その行動は『運命力』として最高の乱数調整を引き起こす。あの日、横断歩道で子供を庇った時と同じように。
光の粒子が猛烈な勢いで収束し、優太の両腕にズシリとした重みを与えた。
全長一メートルほどの、オリーブドラブ色に塗られた無骨な円筒形の物体。
(『AT4』対戦車無反動砲……一回使い切りのロケットランチャー。上出来だ!)
現代の戦場で、歩兵が戦車の分厚い装甲をぶち抜くために設計された極悪な携行火器。
優太は迷うことなく安全ピンを引き抜き、発射管を肩に担いだ。
「な、なんだあの筒は!? ルナミス帝国の最新魔導バズーカか!?」
「そんなとこだ! イグニス、耳を塞いで口を開けろ! 鼓膜が破れるぞ!」
負傷したイグニスの驚きの声を肯定の偽装で上書きし、兵器の正体を『ルナミスの魔導兵器』へと隠匿する。
優太はコンバットグラスの奥で、将軍機の分厚い胸部装甲に照準をピタリと合わせた。
「吹き飛べ」
引き金を引く。
ドゴォォォォンッ!!
凄まじい爆発音とバックブラスト(後方爆風)が巻き起こり、発射管から飛び出した84ミリ対戦車榴弾が、一条の閃光となって将軍機に直撃した。
現代の成形炸薬弾の恐るべき貫通力。ミスリルのように硬い将軍機の装甲が、まるで薄い紙のようにドロドロに溶けながらぶち抜かれる。
「ギ、ギギィィィィッ!?」
将軍機が、耳を劈くような断末魔のノイズを上げ、後方へと大きくよろめいた。
胸部には、内部の機械構造が丸見えになるほどの巨大な風穴が空いている。周囲の死蟲機たちも、その圧倒的な破壊力に恐れをなしたように動きを止めた。
「やったか……ッ!」
使い切ったAT4の空チューブを放り捨て、優太は息を吐く。
だが、将軍機の生命力——あるいは機械の予備動力は、優太の想定を上回っていた。
「……ッ、まだ動くのか!」
胸をぶち抜かれながらも、将軍機の左腕のタンクが不気味な光を放ち始めた。
残存するすべての強酸を、至近距離にいる優太たち目掛けて放射しようとする最期の自爆攻撃。
回避する暇はない。防ぐ手立てもない。
(ここまでか——)
優太がワスプ薙刀を構え直した、その瞬間だった。
「優太君の村を……壊さないでッ!!」
トリアージ所に残っていたはずのキャルルが、弾丸のような速度で優太の前に飛び出してきた。
その姿を見た優太は、思わず息を呑んだ。
夜空を覆っていた厚い雲が、強風によって一気に晴れ渡り、漆黒の空に巨大な『満月』が顔を出していたのだ。
月光を全身に浴びたキャルルの姿は、劇的な変貌を遂げていた。
白い髪は銀色に輝き、ピンと立ったウサギの耳からは、膨大な闘気が陽炎のように立ち上っている。瞳はルビーのように赤く輝き、彼女の小柄な身体から放たれる威圧感は、目の前の将軍機すら凌駕していた。
「キャルル、やめろ! そいつは酸を——」
「大丈夫。全部、私が守るから!」
キャルルが、タローマン製の特注安全靴の踵を強く打ち鳴らす。
その瞬間、安全靴に仕込まれていた雷竜石が共鳴し、彼女の全身を紫電の雷光が包み込んだ。
「月影流奥義——」
クラウチングスタートの姿勢から、大地が爆発したかのような踏み込み。
満月の力によってリミッターを完全に外された彼女の速度は、音速(マッハ1)の壁をあっさりと突破した。
鼓膜を破壊するソニックブームが広場を吹き荒れる。
キャルルの身体が空高く舞い上がり、空中で一回転。紫電の雷光と、限界突破した闘気をその右足の安全靴に完全に集中させる。
「『超電光流星脚(スーパー・ライトニング・メテオ・ストライク)』ッ!!」
一億ボルトの雷撃と、二百七十七トンの質量を伴った、絶対破壊の飛び蹴り(ライダーキック)。
酸を吐き出そうとしていた将軍機の頭上から、一条の雷となってキャルルの足が突き刺さる。
ズドォォォォォォォンッ!!!
村が揺れた。いや、大地そのものが悲鳴を上げた。
将軍機の分厚い装甲も、内部の機構も、そして溜め込んでいた強酸のタンクごと。すべてが雷光と圧倒的な運動エネルギーによって、文字通り『原子の塵』となって消滅した。
爆心地を中心に、クレーターが広がり、残存していた死蟲機たちも雷の余波を浴びて一瞬でショートし、機能停止して崩れ落ちていく。
「……嘘、だろ」
優太は、強風に吹き飛ばされそうになりながら、その規格外の破壊力に呆然と呟いた。
将軍機が跡形もなく消え去ったクレーターの中心。
土煙が晴れたそこには、安全靴の底から微かに煙を上げながら、キャルルが静かに着地していた。
『パラパパパパーン!!』
『パラパパパパーン!!』
優太の脳内で、今まで聞いたこともないほどの大音声で、勝利のファンファーレが鳴り響く。
黄金色に輝くホログラムUIが、視界を埋め尽くした。
【特大の善行を確認しました】
【対象:共同体『ポポロ村』の完全防衛、および致命的脅威の排除】
【地域社会への貢献度:限界突破】
【ポイントを加算します:+30000P】
【現在の所持ポイント:31500P】
三万ポイント。
一個の集落の命を、現代戦術と協力によって救い切ったことで得られた、桁違いの報酬。
「……あはは。終わった、ね……優太君」
満月の光の下。
銀色に輝く髪を揺らしながら、キャルルが優太に向けて極上の笑顔を向けた。
その瞳の奥にある、常軌を逸したハイテンションなヤンデレの光に、優太が気づくのは、この数秒後のことだった。
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