表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
血と絆 ~または記憶と祈り~  作者: 木庭七虹
96/97

95.新たな〈種〉

【今回のあらすじ】

勇真は新たな〈種〉として目覚める。

 目を覚ますと、ベッドの上だった。

 2日ほどを過ごした山の館のあの部屋の、木製のベッドだ。

 勇真(ゆうま)は周囲を見回しスマホを探す。

 サイドテーブルの上に置いてあった。見るとバッテリーが切れていた。日付も時間もわからない。


 首筋に手を当ててみたが、何の痕跡もない。

 あれは夢だったのだろうか?

 起き上がって下の食堂へ行けば、寅三(とらぞう)夏樹(なつき)も兄も、にこにこしながら座っていて、僵尸(キョンシー)の使用人がとびきり美味(おい)しい食事を用意してくれているのではないか。

 そんな風に思って、勇真はベッドから降りようとした。

 足元がふらついて転ぶ。

 その音を聞きつけたのか、パタパタと足音が近づいてきて、扉が開いた。

「ユウ君、目が覚めたんだね! よかった! 心配したよ! 転んじゃったのかい? 大丈夫? 怪我はしていない? 立ち上がれる? ベッドに戻ったほうがいいよ?」

 兄がまくしたてる。

 大人びた口調の兄ではなく、あの、子供のままの兄だ。

「何がどうなったんだ?」

 兄に手伝われてベッドに戻った勇真が尋ねた。

「ん。みんな()っちゃったよ」

 しんみりした声で兄が言う。

「寅三さんも、夏樹さんも、博貴(ひろき)叔父さんも、忌族(きぞく)の人たちも、老師も……」

「あれは、夢ではなかったのか……? 俺は、叔父さんと一緒にいた美女に何かを植え付けられた……?」

「夢じゃないよ。残念ながら、ユウ君はもう人間じゃなくて尸皇(しこう)だから」

 尸皇と聞いて、血が騒ぐ。

 体中をめぐる血が(ささや)いてくる。自分が何者なのか、何のために存在しているのか、何を行わなければならないのか。

「ウソだろ……」

 (うつむ)いて、片手で顔を(おお)う。

 信じられない。


 不意に気が付いて、兄に尋ねる。

「あれは昨日か? 今日は何日で、今は何時だ?」

「残念ながら、昨日じゃないよ。今日は2025年11月8日土曜日。時間は午前11時。天気は晴れ!」

 それを聞いてハッとする。

「無断欠勤――⁉ 1週間も⁉」

 ヤバい!

 血の気が引いた。

「心配するの、そこ?」

 兄が笑う。

「レンタカーも返してない……」

「ユウ君は、もう人間じゃないから、尸皇だから、神様だから」

 わかっている。

 自分がとんでもないものになってしまったということは。

 血が伝えてくる。お前の役割を果たせと。これから先、命が尽きる数千年先まで、この惑星を見つめ続けろと。この世界の未来を確定するために、観測し続けろと。


「とりあえず、山を下りて、車を返して、延滞料金を払って、それから、ゆっくりゴハンでも食べようよ」

 兄が気楽に言う。

 その顔を見ていると、深刻に考えるのが馬鹿らしくなった。


 勇真は充電器を取り出して、スマホをコンセントにつなぐと、風呂場に行って体を洗い、ひげを剃って、着替える。

「牙があるみたいなんだけれど?」

 兄に尋ねる。兄は(うなず)く。

「しょうがないよ。血種(けっしゅ)になっちゃったんだから」

「これ、目立たないか? 人に見られたら怪しがられない?」

「案外大丈夫。大口開けて笑ったりしなければ」

 確かに、寅三さんと食事したときも、()き出しにしない限りわからなかった。

「たまに、下唇に刺さるんだけれど?」

「慣れて!」

 兄が笑う。笑われた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ