94.滅びと再生
【今回のあらすじ】
勇真は〈種〉を与えられる。
血をすべて飲み干される寸前に、博貴は目を開けた。
どこか遠いところを見るように瞳をさまよわせると、フッと微笑んだ。
「愛してる……」
今まで一度も口にしたことがない愛の言葉を呟いて、博貴は目を閉じた。
次の瞬間、体が崩れ、塵になる。
伯爵は、残されたシャツを抱きしめて泣いた。
彼が、最期の瞬間に誰を見て、誰に愛の言葉を告げたのか、彼と深く血が混ざり合い心が溶け合っていた伯爵は知っている。
「バカみたいに一途な男なんだから……あなたのそんなところに、惚れたんだよ……」
しばし、自分に泣くことを許した伯爵だが、涙を拭って立ち上がると勇真に近づいた。
「あなたにとって理不尽であることはわかってる。納得がいかないってことも承知している。でも、これは、あなたの一族の存在意義であって、あなたが生まれた意味であり、避けることができない運命だから……ごめんなさいね」
伯爵はそう言うと、勇真の首に噛みついた。
自分の体の中で混ざり合い、変質した自分と博貴の血。その血の結合が生み出した新たな〈種〉を、勇真に注ぎ込む。
気を失い崩れ落ちる勇真を、そっと床に横たえる。
「あなたも共に行くのよ」
伯爵は、真澄の首に噛みついた。
血の囁きによって自分の役目を知った真澄は、素直に伯爵の血を受け入れた。
血種の父と母、ふたりの血が混じり合って生まれた新たなふたつの〈種〉。
ひとつは勇真の中に、もうひとつは真澄の中に。
かつて地球に降り立ったふたつぶの〈種〉と同じように、このふたつの〈種〉は同じくらい長い時をひたすら観測するために存在し続けることとなる。この世界を揺るがぬものとするために。地球の未来を消さないために――。
尸皇が死んだ。
それに呼応して、山を囲んでいたヴァンパイアたちが消える。
屋敷にいた僵尸も消える。
遠い国で、それぞれ孤独に観測を続けていた尸族たちも消えた。
寅三は、尸皇の塵に頬を寄せ、微笑みながら逝った。
同じ部屋で男爵も泣きながら消え、階段で倒れていた夏樹も、静かに塵となった。
そして、伯爵も、博貴のシャツを抱きしめたまま、彼の塵の上に崩れ落ちた。
真澄も同時に塵となる。
しかし、その瞬間、彼の中に潜んでいた朱雀が塵の中から立ち上がった。
数度羽ばたき、燃え盛る炎で辺りをまぶしく照らした神獣は、翼を抱えるように閉じると再び姿を消した。
朱雀が消えた跡に塵はなく、代わりに真澄が元の姿で丸まって眠っていた。




