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血と絆 ~または記憶と祈り~  作者: 木庭七虹
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92.定めのままに

【今回のあらすじ】

勇真と真澄は大勢の忌族に襲われるが、伯爵と叔父のおかげで危機を免れる。

 扉が激しく叩かれ、蝶番(ちょうつがい)亀裂(きれつ)が入った。

 勇真(ゆうま)は壁に背を押し付けて、銃を構えた。

 扉と勇真の間に兄が立ちはだかる。


 ついに蝶番が壊れ、扉が大きな音を立てて倒れた。

雍和(ようわ)!」

 兄が、妖獣に命じる。

 妖獣の赤い(くちばし)から光の玉が飛び出て、入ってこようとしたヴァンパイアを吹き飛ばした。

 勇真も、軽機関銃を構えて引き金を引いた。

「ちょっ! 危ない、危ない! ボクに当たる! 当たる!」

 兄がダンスするようにステップを踏んで、弾を()ける。

 敵には一発も当たらなかった。

「お願いだから、ユウ君はおとなしくしてて!」

 兄が、敵の顔面に裏拳をかましながら、頬を(ふく)らませて言った。

 勇真は、銃を抱きしめ、おとなしく壁際まで下がった。


 兄が孤軍奮闘する。

 しかし、文字通りの多勢に無勢。

 じわじわと押され、部屋の中にヴァンパイアたちが入ってきた。

 勇真は腕を掴まれそうになって、慌てて銃を相手の顔面に向けると、引き金を引いた。

 どんなに素人でも、ゼロ距離なら外しようがない。

 相手の頭がぶっ飛んだ。

 だが、勇真の腕を掴んだ手は離れない。

「ユウ君!」

 兄が叫ぶが、兄も(おのれ)に迫ってくる敵をさばくので精一杯だ。

 腕をねじ上げられて、勇真は悲鳴を上げた。


 サクッとヴァンパイアの手首が切り取られ、勇真の腕を掴む手だけを残して、男の体が後ろへ倒れる。

 死神の鎌のような大鎌を持った美女が、その刃に数人ひっかけると、部屋の外に引きずり出した。

 廊下に引きずり出された者たちの頭が、廊下の向こうから発射された銃弾に撃たれてはじけ飛ぶ。

 それでも残ったヴァンパイアたちが部屋に侵入しようとする。その首を、女の鎌が次々と刈り取ってゆく。

 まだ廊下にヴァンパイアが残っているようだったが、薬莢が床に当たる音と、シリンダーを回す音に続いて、五発の銃声が響くと、廊下は静かになった。


「無事か?」

 と言って顔をのぞかせたのは、叔父だった。

 ごつい拳銃の銃口にフッと息を吹きかけ、くるくると銃を回転させると、こちらにウインクしてみせた。

 兄が、問答無用で飛びかかっていった。

 兄が繰り出した回し蹴りを叔父は銃身で防いだ。

 すかさず兄が拳を突き出すが、叔父は体をひねって避ける。

真澄(ますみ)、待て!」

 叔父は両手を上げて兄を制したが、兄は聞く耳を持たない。

「雍和!」

 妖獣が嘴から光の玉を発射した。

 美女の大鎌がそれをはじく。

 叔父の手から、黒いロープのような奴霊が高速で飛び出し、兄をぐるぐるに(しば)り上げる。

 兄は(なん)なく(いまし)めを弾き飛ばし、さらなる攻撃を加えようとしたが、その足が止まった。みるみるうちに顔が青ざめる。

 叔父が、勇真の肩を掴んで、こめかみに銃口を押し当てていた。


「真澄、聞け!」

 叔父が怒鳴る。

 兄は、悔しそうに唇を噛んだ。

「真澄、よく聞け! 聞くのは俺の言葉じゃない。血の声を聴け。お前が今から何をすべきなのか、お前の中の血種(けっしゅ)に問え!」

 叔父の体から青い龍が現れ、兄を見つめながら宙でうねる。

 美女の体から白い虎が現れ、姿勢を低くして兄を見つめる。

 兄は、目を見開き、宙を見据える。その体に重なるように炎の翼を持った鳥が姿を現した。

朱雀(すざく)……? いったい何を……」

 兄は(つぶや)き、心臓の辺りを押さえてうめくと、何かを探すように眼球が動いた。その後、一旦目を閉じ、今度は驚きに目を(みは)る。

「そんな……?」

 叔父は、ホッとしたように息を吐くと、銃を床に放り投げた。

 勇真は途中から、シリンダーが空っぽであることに気付いていた。


 叔父の手が勇真の肩から離れたと思った次の瞬間、叔父の首にナイフが刺さっていた。

 顔がつぶれた男が、叔父の首に噛みつき血を(すす)る。それに伴い、破壊された顔が少しだけ治癒する。

男爵(バロン)!」

 美女が叫び、大鎌を振るったが、男爵と呼ばれた男は、その攻撃をするりとかわし、廊下を走り去った。

 叔父が床に崩れ落ちる。

夏樹(なつき)さんを倒した毒か……」

 呟き、ふふふと笑った。

博貴(ひろき)! 私の血を……」

 美女が、叔父に首を差し出す。

 叔父は首を振った。

「どのみち消えるんだ。治療はいらない。尸皇(しこう)が滅ぶ前に、お前の役割を果たせ。俺は抵抗しないよ」

 女は指を噛み切ると、滴る血を叔父の口に含ませた。

 叔父は目を見開いて、笑った。

「伯爵……お前、まさか、本気で俺に()れていたのか?」

「バカ……」

 伯爵と呼ばれた女はつぶやき、叔父の唇に自分の唇を押し当てた。

「バカはお互いさまだろ?」

 叔父は笑いながら目を閉じた。

 伯爵は、泣きながら叔父の首に噛みついた。

【登場人物】

神護勇真かみごゆうま:主人公。33歳。尸皇によって作り出された〈種〉の継承者。

神護真澄(かみごますみ)。勇真の兄。35歳。外見は7歳。尸族。

雍和(ようわ):真澄が使役する妖獣。黄色い猿の姿で、赤い(くちばし)と赤い目を持つ。

伯爵コント/アルジェーン:王の配下。忌族。銀髪にアイスブルーの瞳を持つ美女。

神護博貴(かみごひろき):勇真と真澄の叔父。忌族。60歳。外見は30代前半。

男爵バロン/キュイブル:王の配下。忌族。赤銅色の髪をした、憎めない顔立ちの男。

神護夏樹かみごなつき:勇真と真澄の大叔父。祖父貴一の弟。尸族。

老師/尸皇しこう:血種の祖。尸族を率いる。

白虎:神獣で四神のひとつ。白と秋を司り、西方を守護する。伯爵に宿り導く。

青龍:神獣で四神のひとつ。青と春を司り、東方を守護する。博貴に宿り導く。

朱雀:神獣で四神のひとつ。赤と夏を司り、南方を守護する。真澄に宿り導く。


【用語】

ヴァンパイア:忌族に対する人間による呼称。

奴霊(どれい):忌族が操る霊体。黒くてどろどろ。

血種けっしゅ/たね:血の中に潜み、世界を観測する存在。または血の中に種を宿し、血を媒介に特殊な力を操る者たち。

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