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血と絆 ~または記憶と祈り~  作者: 木庭七虹
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91.王

【今回のあらすじ】

寅三と公爵は、力を合わせて王に挑む。

 腕の傷は深いが大したことはないようだ。骨には達していない。出血はほぼ止まっている。傷もじきに癒(い)えるだろう。

 公爵(デュック)は、2階の扉を次々に蹴破(けやぶ)ってゆく。そしてついに尸皇(しこう)の部屋に辿(たど)り着いた。

 豪奢(ごうしゃ)な両開きの扉を蹴破ったとたん、角が飛んできた。

 寸(すん)でのところでそれを避(よ)ける。

 部屋の中には、カウチにもたれかかる尸皇と、守るように立ちはだかる神護寅三(かみごとらぞう)。ふたりの姿は博貴(ひろき)の記憶の通りだ。

 寅三は2体の妖獣を引き連れて、こちらを睨(にら)みつけていた。

 1体は、大きな角が1本生えた牛のような妖獣。もう1体は、亀と蛇が一体になったような妖獣だ。牛の方の名は知らないが、亀と蛇のほうは確か中国の伝説の妖怪で、玄武(げんぶ)とか言うやつだ。


 公爵は、飛んでくる角を軽いステップで避(さ)けつつ寅三に迫り、拳を打ち込んだ。

 その拳を玄武が防ぐ。亀の甲羅は岩のように固く、公爵の拳が裂けて血が滲(にじ)んだ。

「ほう……」

 公爵は、後ろに飛んで距離をとると、目を細めて寅三を観察した。

 小柄ですぐに吹き飛ばせそうな見た目だが、侮(あなど)るのは危険だと本能が囁(ささや)く。

 公爵は、シャツの裾を裂くと、裂けた拳(こぶし)に巻きつけた。

 左の拳を顔の前、右の拳を顎(あご)の横に据(す)えて脇を締め、右足を一歩下げると膝を軽く曲げて構える。

 牛のような妖獣が、息つく暇もないほど、次から次へと角を飛ばしてきた。

 その軌道を見極め、拳で叩き落したり、軽いステップと上下運動でかわしてゆく。

 かわしながら、相手の懐に飛び込むチャンスを狙う。もちろん、今度はあの硬い岩のような妖獣も出し抜かねばならない。

 隙を狙っているのは相手も一緒で、防御に徹している公爵に、角の軌道に合わせて寅三が瞬時に迫り、腕を下から殴り上げる。腕を跳ね上げられて防御が緩んだ公爵の腹めがけて角が飛んできた。

 くるりと回転し、寅三の影に入って角を避(よ)けると同時にしゃがんで寅三の足を払う。

 寅三は予見していたかのようにジャンプして避(さ)け、バックステップで距離を取る。


 ふたりの一進一退の攻防が続くのをしり目に、王(ロワ)が尸皇に近づいた。

 けだるげにカウチにもたれかかる尸皇を、王は見下ろした。

 尸皇は、期待に満ちた目で王を見上げ、微笑(ほほえ)む。

「おい!」

「待て!」

 公爵と寅三が同時に叫ぶ。

 互いに顔を見合わせ、相手の出方を探った。

「俺の望みは、王を殺すことだ」

 公爵は言った。

「だから、尸皇を守りたいお前とは、仲良くできると思うんだがな」

 公爵の言葉に、寅三は目を細める。

「なるほど……」

 寅三は、公爵を警戒しながらも、玄武を尸皇と王の間に割り込ませた。

 公爵は微笑み、寅三に向かって一礼すると、王に歩み寄った。


「邪魔をするか……」

 王は、目を細めて公爵を見た。

「お前を殺すのは俺だ、お前自身じゃない」

 公爵の言葉に、王は嘲笑(ちょうしょう)を浮かべた。

「では、まずお前を倒さねばな。その後、尸皇を殺す」

 王の言葉を聞いて寅三が牙を剥(む)く。

「老師は殺させない」

 王は、寅三を見て、公爵を見る。

「では、ふたり揃って来るがいい。受けて立とう」

 王は、上着を脱ぎ胸元を緩めると、カフスを外して無造作に床に落とした。袖をまくり鍛えられた前腕をさらすと、だらりと両手を下げた。

 奴霊(どれい)が湧き出て長剣を形作り、王の手に収まった。

 剣を握ったものの、構えるでもなく、そのまま無防備な姿で立ち尽くしている。一切の表情を排した顔で、王は闇そのもののように静かにそこにいた。


 寅三が、ズボンのベルトの背中側にはさんでいたM19 コンバット・マグナムを引き抜くと、6発連射した。同時に兕(じ)が角を飛ばす。

 王は、剣を軽く振って弾丸と角を弾いていく。

 その隙に、公爵が反対側から急接近し、拳を打ち込む。

 その拳を、王は剣を持たぬ方の腕でなんなく止めた。

 公爵は、すぐにバックステップで距離を取った。

 寅三は拳銃を捨てて、使霊(しれい)を呼び出し、王に向けてけしかけた。公爵も奴霊を呼び出し、王に向けて放つ。

 王の足元にわだかまっていた黒い影が一気に膨張する。明らかに自分の奴霊とは格が違うことを公爵はすぐに悟った。王の奴霊は邪悪な気配を濃厚にまき散らしながら、蠕動(ぜんどう)を繰り返し、部屋に広がってゆく。

 王の奴霊と接触した場所から、寅三の使霊が溶けてゆく。公爵の奴隷は、王の奴霊に絡めとられ、その一部として取り込まれてしまった。

 公爵と寅三の額に汗が滲(にじ)む。勝ち筋が見えない。


 王が持つ剣と奴霊のせいで接近するのが難しい。拳で戦うのはいかにも不利だった。

 寅三が、壁にかけられた武器のうち月牙鏟(げつがさん)を手に取った。なるほど、それなら相手の剣の間合いの外から攻撃できる。寅三も公爵と同じく徒手格闘を好むようだが、間合いに入れない以上打つ手がない。

 公爵は寅三に視線を送った。寅三が目で頷(うなず)く。公爵は奴霊を伸ばして壁から偃月刀(えんげつとう)を取った。

 手にした武器を構え、ふたり同時に打ちかかる。

【登場人物】

公爵(デュック)/オーレル:王の配下。忌族。金色の髪に褐色の肌をした、ハリウッドのアクションスターのような男。

老師/尸皇(しこう):血種の祖。尸族を率いる。

神護寅三(かみごとらぞう):勇真の真澄の高祖父の三男。曾祖父の弟。尸族。111歳。外見は20代半ば。

兕(じ):寅三が使役する妖獣。牛に似た黒い獣で、額に一本の角を持っている。

玄武(げんぶ):神獣。四神のひとつ。黒と冬を司り、北方を守護する。

王(ロワ):忌族を率いる王。


【用語】

M19 コンバット・マグナム:S&W社の回転式拳銃。マグナム弾を撃てる。

使霊(しれい):尸族が操る霊体。白くてひらひら。

奴霊(どれい):忌族が操る霊体。黒くてどろどろ。

月牙鏟(げつがさん):柄の先端に鏟(シャベル)のような平たい刃と、月牙(三日月)状の刃が組み合わさった中華の武器。

偃月刀(えんげつとう):長い柄に、半月のような幅広の湾曲した刃がついた中華の武器。

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