90.白虎と青龍
【今回のあらすじ】
尸皇が召喚した白虎と青龍が、伯爵と博貴に役割を告げる。
寅三に向けて微笑んだ尸皇は、さらに笑みを深くした。
「すべて揃ったな……」
目を瞑ると、再び両手を高く掲げた。
「来い」
尸皇の呼びかけに、宙に滲むように神獣が姿を現した。
出現したのは、2柱の神だ。
白と秋を司り、西方を守護する白虎。
青と春を司り、東方を守護する青龍。
「それぞれの役目を果たせと伝えよ……」
尸皇が目を開け両手を下すと、青龍と白虎が飛び去った。
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一服したあと、館への坂道を駆け上がった。
玄関前に到達したとき、博貴と伯爵は、雷に打たれたかのようにビクリと体を震わせて立ち止まった。
2柱の神獣が降臨し、博貴と伯爵の体に入り込んだ。
博貴の体に入り込んだ青龍が彼に囁く。
(お前は、父となり、次世代の〈種〉を生み出す)
伯爵の体に入り込んだ白虎が彼女に囁く。
(お前は、母となり、次世代の〈種〉を産む)
「クソッ、何なんだ!」
博貴は呻いた。なんでわけのわからない要求ばかり俺にするんだ!
声を無視しようとするのだが、青龍が博貴の心臓をがっちりと握り、逆らうことを許さない。自由意志は奪われ、血管の中で騒ぐ血の欲求を果たそうとする。
「ああ……」
伯爵が、うっとりとした顔で博貴を見た。
「私たちは、行かねば……」
博貴の手を取り、玄関に向かう。
博貴の足はそれに従ってしまう。感情は理不尽な要求を拒絶しているのに、体は喜んで従ってしまう。
玄関の扉は壊されていた。
操られるように博貴は、伯爵と共に館に足を踏み入れた。
寸前まで真っ暗だった玄関ホールが、まぶしい光に満たされる。
博貴が目にしたのは、夏樹の首に男爵のナイフが刺さるところだった。
王が放った奴霊が、夏樹の日本刀を分厚く包み込み、公爵の左腕がその奴霊ごと日本刀を受け止めていた。
夏樹は、博貴に気付いて微笑むと、その場に倒れた。
博貴は、考える間もなく、男爵に向けて銃弾を放っていた。
5発の弾丸が、男爵の頭部を粉々に砕いた。
男爵が撃たれたのを見て、王は顔を顰めたが、そのまま2階に上がっていった。刀が腕まで達していたらしく、血を滴らせた公爵は、警戒するように博貴を見たが、博貴の目が夏樹だけに注がれていることに気付くと、そのまま王のあとを追った。
「夏樹さん!」
博貴が駆け寄り抱き上げると、夏樹はうっすらと目を開けた。
「やられちゃいました。ナイフに毒が塗ってあったようです」
「血を……」
博貴が、腕を差し出したが、夏樹はフフフと笑って首を振った。
「今日は、僕が死ぬ日です。この未来は変わりません。そして、キミの未来も変えてはなりません。ヒロ君、言ったでしょう? キミはいいお父さんになりますって。キミはそうならねばいけないんです。迷ったり拒んだりしているヒマはありません。僕ら神護の子供は世界を救うヒーローなんですよ」
夏樹は、博貴の手をポンポンと励ますように叩いた。
「ユウ君は、この奥のセーフティルームにいます。急いで。忌族が彼を汚さないうちに、きちんと〈種〉を届けてください」
「ヒーローになんて、なりたくない」
博貴は唸った。
「生まれた意味を果たさないと、キミは後悔します。キミが拒んで次世代の〈種〉が生まれないと、この地球は滅びます。そうなれば今度こそ、本当の地獄ですよ?」
夏樹はそのまま気を失った。
「クソッ! クソッ! クソッ‼」
博貴は、思いつく限りの罵詈雑言を吐きながら、勇真のもとへ走った。その後を伯爵が追った。
【登場人物】
神護寅三:勇真の真澄の高祖父の三男。曾祖父の弟。尸族。111歳。外見は20代半ば。
老師/尸皇:血種の祖。尸族を率いる。
神護博貴:勇真と真澄の叔父。忌族。60歳。外見は30代前半。
伯爵/アルジェーン:王の配下。忌族。銀髪にアイスブルーの瞳を持つ美女。
神護夏樹:勇真と真澄の大叔父。祖父の弟。寅三の甥。尸族。89歳。外見は20代前半。
男爵/キュイブル:王の配下。忌族。赤銅色の髪をした、憎めない顔立ちの男。
王:忌族を率いる王。
公爵/オーレル:王の配下。忌族。金色の髪に褐色の肌をした、ハリウッドのアクションスターのような男。
神護勇真:主人公。33歳。尸皇によって作り出された〈種〉の継承者。
白虎:神獣で四神のひとつ。白と秋を司り、西方を守護する。
青龍:神獣で四神のひとつ。青と春を司り、東方を守護する。
【用語】
血種/種:血の中に潜み、世界を観測する存在。または血の中に種を宿し、血を媒介に特殊な力を操る者たち。
忌族:血種の一派。尸皇と袂を分かち、敵対する王に従う者たち。
奴霊:忌族が操る霊体。黒くてどろどろ。




