8.叔父と甥
【今回のあらすじ】
神護家に戻った真澄は、家に入りたがる叔父を追い払う。
勇真の前から姿を消した少年は、神護家へ戻った。
幹線道路から外れ、だらだらと続く坂道を登ってゆく。そこそこ広い道の左右には、大きな古い家や、数軒の新築住宅の集まりや、アパートなどが建っているが、次第に畑や藪が増えて、家はまばらになっていく。突き当たりにある、神社へ上る長い階段の手前を右に折れ、片側に竹藪、反対側に数軒の家が並ぶ道を行くと、その先に神護家の屋敷はあった。
屋根付きの古風な門をくぐり、敷石を踏んで進んだ少年は、玄関前で足を止めた。両手を腰に当てると、扉の前にしゃがんでいる咥えタバコの男を見下ろす。
「博貴叔父さん……」
少し茶色がかったくせ毛を肩まで伸ばし、あごに無精ひげ風のひげを生やした叔父は、にやりと笑い、金色の瞳で少年を見上げた。今朝、橋の上で出くわしたときとは異なり、きっちりと喪服を着ている。サングラスもかけていない。
「よう、真澄」
気軽に名前を呼ばれて少年は、嫌そうに顔を歪めた。
叔父の外見は30代前半に見える。茶目っ気のある表情をしてみせて、楽しい親戚のおじさんの振りをしているが、しかし、中身はそんなものではないことを真澄は知っている。
「こいつらをどけてくれないか? 家に入れない」
叔父は、タバコを携帯灰皿にねじ込むと、立ち上がり、背後の扉を、くいっと親指で指して言った。
真澄が使役している使霊たちが、白い不定形の体を大きく広げて、何者の侵入も許さぬという構えで、扉の前をがっちりと固めている。
「叔父さんを、ボクたちの家に入れるわけにはいかないよ」
「俺の家でもあるんだがね。自分の家にぐらい自由に帰らせてくれよ。何しろ28年ぶりの帰国なんだから」
眉を下げ、憐れみを乞う表情をする。
「ダメだよ。父さんと母さんにあんな仕打ちをしておきながら、どの面下げてこの家に帰ってきたの?」
「忌族たちが求めていることを知れば、お前だって同じことをするさ」
叔父は瞳を曇らせた。
「ボクと戦いたいの?」
真澄は牙を剥き出し、叔父を睨み付けた。
「それは、ご遠慮願いたいな」
叔父は両手を挙げて降参のポーズをとった。
「父さんと母さんに、これ以上手出しはさせない。ユウ君にも手出しはさせないよ」
「あんな場所で勇真に手出しできるはずないだろ? まったくこの国は変わっちまって、どこに行ってもスマホで撮影されるわ、防犯カメラはあるわ、しかも、ドライブレコーダーまであるとか、まったく証拠隠滅に手がかかりすぎる」
叔父はぼやいた。
「ボクの前から消えて」
真澄が凄むと、叔父は素早く真澄に近寄り、耳元に唇を寄せて囁いた。
「ふたりの遺体は、きっちり始末しろ。忌族どもには絶対に渡すな。もちろん尸族にもな」
叔父は一歩下がって体を遠ざけると、奴霊を呼び出した。地面から湧きだした黒い粘液の塊に体を包み込まれたと思うと、奴霊もろとも姿を消した。
真澄は叔父の気配が完全に消えるのを待ってから、使霊に扉を開けるように命じると、屋敷の中に入っていった。
【登場人物】
神護真澄:勇真の兄。35歳。外見は7歳。2.で勇真の名刺を警察に届けた少年。3.で親子連れに見えた子供。5.で勇真の前に現れ、6.7.で兄を名乗った少年。
神護博貴:勇真と真澄の叔父。60歳。外見は30代前半。0.で勇真の両親の殺したサングラスの男。3.で親子連れに見えたサングラスの男。
【用語】
尸族:血種の一派。詳細は後に判明。今はナイショ。
忌族:血種の一派。詳細は後に判明。今はナイショ。
使霊:血種が操る霊体。
奴霊:血種が操る霊体。




