88.戦闘開始
【今回のあらすじ】
屋敷に乗り込んだ忌族と、待ち構えていた夏樹との戦闘が始まる。
夏樹が使役する妖獣、燭陰が目を瞑ると暗闇になり、目を開けると真昼の明るさになった。同時に、妖獣が息を吐くと氷点下と思われる極寒の風が吹き、息を吸うと砂漠の風を思わせる灼熱の烈風が吹く。
それにより視界と感覚を奪われた敵に、夏樹は日本刀で襲い掛かった。
貴族がひとり首を切り落とされて倒れ、もうひとりが肘から先を飛ばされる。
「オーレル! キュイヴル!」
黒髪の男が、金髪の男と赤銅色の髪の男をそれぞれ見て言った。
「階段を守っているということは、目標は2階にいる。お前たちはあの男の気を引いて隙を作れ」
夏樹は、おそらくこの黒髪の男が王なのだろうと判断する。
オーレルと呼ばれた男は軽く頷き、夏樹と対峙した。
キュイヴルは、王を守ろうと、王と夏樹の間に滑り込む。
「ここは俺と男爵で突破する。その間にお前たちは1階を探れ」
オーレルは、わざと声高く貴族たちに命じた。王はそれを黙認した。
左右に散らばった貴族たちに、夏樹の気が一瞬削がれた。
オーレルはその隙を見逃さない。重い蹴りが夏樹の腹をめがけて飛んだ。
闇――。
夏樹は、峰に手のひらをそえて、蹴りを受けようと刀を構えた。
見えてはいないはずだが、何かを察したのか、オーレルは刃に当たる寸前で蹴りを止めた。闇を警戒したのかもしれない。
極寒の風が吹く。夏樹以外の全員が凍えているはずだ。
光――。
夏樹は、素早くふたりの立ち位置を確認する。
右側でキュイヴルが、片手で目を覆い、顔を顰めている。夏樹はキュイヴル目掛けて刀を振るった。
斬り付ける寸前に、背後からオーレルの拳が迫っていることに気づき、切っ先を翻してオーレルに向ける。オーレルは目を瞑っているが、その切っ先を難なく避けた。この男、厄介だ。
灼熱の風が吹く。敵は肌をチリチリと焼く痛みを感じているはずだ。
王の様子を素早く確認する。キュイヴルの背後でこちらを見ているが、参戦する意思はなさそうだった。
闇――。
夏樹は使霊を呼び出し、周囲を警戒させる。相手も奴霊を呼び出したようだ。闇の中で双方の使役霊がぶつかり合う気配がした。
極寒の風。
光――。
オーレルを警戒していた夏樹に向けて、反対側からナイフが飛んでくる。使霊がナイフを絡めとる。キュイヴルもこの状況に少し慣れてきたのか。
灼熱の風。しかし、敵は肌を焼く痛みも意に介さないようだ。
光と闇が激しく入れ替わる。同時に灼熱と極寒が繰り返される。
相手がコマ撮りアニメのようにかくかくと動いて見える。だが、その動きから予想される先にオーレルはいないに違いない。夏樹は未来視を失ってしまったことを少し残念に思った。
光――。
案の定オーレルは、通常予想される位置よりも遥かに接近していた。
夏樹は使霊に掴まり、上に逃げる。天井が高い玄関ホールだからこそ可能な3次元機動。オーレルの頭上を飛び越え、背後に降り立ち、そのまま袈裟懸けに刀を振った。
闇――。
夏樹は、確かな手応えを感じた。
【登場人物】
神護夏樹:勇真と真澄の大叔父。祖父の弟。寅三の甥。尸族。89歳。外見は20代前半。
燭陰:夏樹が使役する妖獣。人間のような顔を持つ赤い大蛇。目を瞑ると夜になり、目を開けると昼になる。
王:忌族を率いる王。
公爵/オーレル:王の配下。忌族。金色の髪に褐色の肌をした、ハリウッドのアクションスターのような男。
男爵/キュイブル:王の配下。忌族。赤銅色の髪をした、憎めない顔立ちの男。
【用語】
使霊:尸族が操る霊体。白くてひらひら。
奴霊:忌族が操る霊体。黒くてどろどろ。




