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血と絆 ~または記憶と祈り~  作者: 木庭七虹
87/97

86.突入

【今回のあらすじ】

忌族たちは、神護家の山の館に突入する。

 小雨が降る中、8台の車と3台のバイクが、山の館の門前に停まった。

 先頭の黒塗りのベンツから男爵(バロン)が降りてきて、後部座席の扉を開けた。そのドアから(ロワ)が降り、目の前を塞ぐ大きな鉄の扉を見つめた。

 別の車から降りてきた公爵(デュック)が、扉に近づいて蹴破る。扉はひしゃげ、人がひとり通れるだけの隙間が()いた。

 公爵が扉の隙間から中に入る。何の問題もなく入れたことに、逆に警戒しながら、道の先を探索する。森に囲まれた道はあまりにも静かだ。しかし、罠らしきものはないようだった。

 公爵は、門の外に戻って車に乗り込むと、アクセルを踏み込み、門に車をぶつけた。

 門は破壊され、大きく開いたが、散らばった残骸が邪魔して車は通れそうにない。

 無位のヴァンパイアたちに命じて残骸を撤去させようとしたが、敷地の境界を跨ごうとした者たちは、みな弾かれてしまう。

 伯爵(コント)が警戒しながら境界を跨いだ。問題なく通れる。

 別の無位の者が通ろうとしたが、やはり弾かれた。

 何人か試したが、無位の者の中に境界を越えることができる者はいなかった。

 男爵は止めたのだが、王が自ら境界を跨いだ。王も何の抵抗もなく中に入ることができた。

 王は、貴族たちに中に入るよう命じた。

 貴族たちは、全員境界を越えた。

「なるほど……」

 王は伯爵を見た。

博貴(ひろき)を呼んで来い」

「それは……」

 伯爵は目を見開き、拒否しようとしたが、王は許さなかった。

「ここに待機している我が血族全員に、博貴の血を飲ませるのだ」

 伯爵は、眉を上げ王を(にら)みつけたが、言葉を飲み込み、乗ってきたバイクにまたがると元来た道を引き返した。


「行くぞ」

 王は先頭に立って坂道を徒歩で登り始めた。

 慌てて男爵と貴族たちが後を追う。

 公爵は伯爵が去った方に一度チラリと目を向けたあと、王たちを追って坂を登り始めた。


 登り切った先に、乾いた血の色をしたレンガの家がそびえている。

 30人ほどの貴族たちは、周囲に散らばり警戒する。

 公爵が、正面玄関の扉を蹴破った。

 玄関ホールの階段の前に、赤い服を着た赤い髪の男が立ち、穏やかな顔で微笑(ほほえ)んでいた。

神護(かみご)……夏樹(なつき)……?」

 公爵が目を細め、確かめるように相手を見据えた。

 博貴の記憶の中にいた男だ。しかし、博貴の記憶とは様子が異なる。


「出ておいで、燭陰(しょくいん)

 夏樹が片手を斜め前に伸ばして命ずると、人間のような顔を持つ赤い大蛇が、夏樹の体に重なるように姿を現した。

 燭陰が目を(つぶ)り、周囲は闇に包まれた。

【登場人物】

ロワ:忌族を率いる王。

男爵バロン/キュイブル:王の配下。忌族。赤銅色の髪をした、憎めない顔立ちの男。

公爵デュック/オーレル:王の配下。忌族。金色の髪に褐色の肌をした、ハリウッドのアクションスターのような男。

伯爵コント/アルジェーン:王の配下。忌族。銀髪にアイスブルーの瞳を持つ美女。

神護博貴(かみごひろき):勇真と真澄の叔父。忌族。

神護夏樹かみごなつき:勇真と真澄の大叔父。祖父の弟。寅三の甥。尸族。89歳。外見は20代前半。

燭陰しょくいん:夏樹が使役する妖獣。人間のような顔を持つ赤い大蛇。目を瞑ると夜になり、目を開けると昼になる。


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