86.突入
【今回のあらすじ】
忌族たちは、神護家の山の館に突入する。
小雨が降る中、8台の車と3台のバイクが、山の館の門前に停まった。
先頭の黒塗りのベンツから男爵が降りてきて、後部座席の扉を開けた。そのドアから王が降り、目の前を塞ぐ大きな鉄の扉を見つめた。
別の車から降りてきた公爵が、扉に近づいて蹴破る。扉はひしゃげ、人がひとり通れるだけの隙間が開いた。
公爵が扉の隙間から中に入る。何の問題もなく入れたことに、逆に警戒しながら、道の先を探索する。森に囲まれた道はあまりにも静かだ。しかし、罠らしきものはないようだった。
公爵は、門の外に戻って車に乗り込むと、アクセルを踏み込み、門に車をぶつけた。
門は破壊され、大きく開いたが、散らばった残骸が邪魔して車は通れそうにない。
無位のヴァンパイアたちに命じて残骸を撤去させようとしたが、敷地の境界を跨ごうとした者たちは、みな弾かれてしまう。
伯爵が警戒しながら境界を跨いだ。問題なく通れる。
別の無位の者が通ろうとしたが、やはり弾かれた。
何人か試したが、無位の者の中に境界を越えることができる者はいなかった。
男爵は止めたのだが、王が自ら境界を跨いだ。王も何の抵抗もなく中に入ることができた。
王は、貴族たちに中に入るよう命じた。
貴族たちは、全員境界を越えた。
「なるほど……」
王は伯爵を見た。
「博貴を呼んで来い」
「それは……」
伯爵は目を見開き、拒否しようとしたが、王は許さなかった。
「ここに待機している我が血族全員に、博貴の血を飲ませるのだ」
伯爵は、眉を上げ王を睨みつけたが、言葉を飲み込み、乗ってきたバイクにまたがると元来た道を引き返した。
「行くぞ」
王は先頭に立って坂道を徒歩で登り始めた。
慌てて男爵と貴族たちが後を追う。
公爵は伯爵が去った方に一度チラリと目を向けたあと、王たちを追って坂を登り始めた。
登り切った先に、乾いた血の色をしたレンガの家がそびえている。
30人ほどの貴族たちは、周囲に散らばり警戒する。
公爵が、正面玄関の扉を蹴破った。
玄関ホールの階段の前に、赤い服を着た赤い髪の男が立ち、穏やかな顔で微笑んでいた。
「神護……夏樹……?」
公爵が目を細め、確かめるように相手を見据えた。
博貴の記憶の中にいた男だ。しかし、博貴の記憶とは様子が異なる。
「出ておいで、燭陰」
夏樹が片手を斜め前に伸ばして命ずると、人間のような顔を持つ赤い大蛇が、夏樹の体に重なるように姿を現した。
燭陰が目を瞑り、周囲は闇に包まれた。
【登場人物】
王:忌族を率いる王。
男爵/キュイブル:王の配下。忌族。赤銅色の髪をした、憎めない顔立ちの男。
公爵/オーレル:王の配下。忌族。金色の髪に褐色の肌をした、ハリウッドのアクションスターのような男。
伯爵/アルジェーン:王の配下。忌族。銀髪にアイスブルーの瞳を持つ美女。
神護博貴:勇真と真澄の叔父。忌族。
神護夏樹:勇真と真澄の大叔父。祖父の弟。寅三の甥。尸族。89歳。外見は20代前半。
燭陰:夏樹が使役する妖獣。人間のような顔を持つ赤い大蛇。目を瞑ると夜になり、目を開けると昼になる。




