82.武器
【今回のあらすじ】
寅三が、勇真に護身用の武器を与える。
「は?」
勇真は思わず聞き返した。
朝食のあと、勇真は1階の奥の方にある窓のない部屋に連れていかれた。
「拳銃を使った経験はあるかね?」
寅三が、たった今言ったのと同じ言葉を繰り返す。
「日本に住んでいて、なんでそんな機会があると思うんですか?」
呆れるしかない。
「やはりマグナムは無理か」寅三は笑った。「あれなら頭を破壊できるのだけれどね。ミドルサイズのオートマチック9ミリの反動が少ないやつなら初心者でも使えるかもだが、当たらないだろうし、たとえ当たっても威力が弱すぎて役に立ちそうにないしねぇ……」
嫌な予感がする。
「サブマシンガンならなんとかなるだろうかねぇ。クリスヴェクターとMP7があるから……」
寅三が、嬉しそうに「私のコレクションだよ」と言って壁に据え付けられている扉を開けると、銃や刃物が並んでいた。思わずヒッと叫んでしまう。
寅三は、武器の中から小ぶりの機関銃を一丁取り出すと、勇真に差し出した。
「やっぱり、MP7だねぇ。これはPDWって言われる種類のやつでね」
と、嬉しそうに早口で説明をはじめたが、聞いても勇真には何ひとつわからない。
銃を受け取ったものの、想像していた以上の重さに、危うく落としそうになる。無骨な黒い塊は見るからに危険なにおいを放っている。これは本物なのか? エアガンとかではなく?
「我々血種は、銃で撃たれても死なない。ただし動きを止めることはできるのだよ。頭を狙って撃ち抜きたまえ。それでしばらくは動けなくなる」
使い方は、と言って説明をはじめる。
ここにマガジンを装着。装弾数は30発。弾が切れたら交換。交換方法はこう。弾は予備を含めて210発。使い切ったら終わりだから、大事に使うのだよ。撃ち方は、ここを肩に当てて、この辺を頬にしっかり当てて固定して、これが安全装置で、照準のここを見て、と説明が続く。
「簡単だろう? ほら、構えてごらんよ」
と言われ、見よう見真似で構えてみる。なんとか構えることはできたが、撃つのは無理だ。しかも、人間の姿をしている者に向かってなど。
「頭を狙うんだよ」と言いながら寅三は、銃口を掴んでクイッと兄の方へ向けた。「セミオートにして、引き金を引くんだ。やってごらん」
言われたままに引き金を引くと、肩に反動がきた。いや、待て、実弾が入っていたのか?
驚いて兄の方を見ると、雍和が弾を掴んでいた。兄の頭に当たる寸前で。
『やめろ! 心臓に悪い。冗談じゃねぇ』
雍和が怒ってわめき散らしている。
「やればできるじゃないか」
頭を撃ち抜かれかけた兄は、笑いながら雍和を褒めている。
勇真は心臓がバクバクして、手が汗で滑った。
「こんな風に止められてしまうかもしれないから、セミオートで続けて撃つか、フルオートでちょっとずつ。撃ちすぎないように気を付けて」
と、寅三が目を輝かせて説明する。
「撃ち終わったら、ちゃんとセーフティをかけるんだよ。自分の足を撃ち抜いたら笑えないからね」と、にこにこしながら兄が言った。
「いや、無理……」
情けないが泣きそうだ。本当に無理。
「頑張れ、ユウ君!」
兄が、両手を頬の横でぎゅっと握って、無責任に応援する。こういうところは、口調が違うだけで子供っぽかったときと変わらない。
「まあ、頑張るしかないねぇ」
寅三も気軽に言う。
「頑張ってくださいね」
夏樹も爽やかな笑顔で言う。
勇真は、銃を抱えたまま天を仰いだ。
「この部屋は簡易なセーフティルームになっているのだよ」と寅三が言った。「わずかだが食料と水もある。奥にトイレもあるから安心したまえ。ただ、ある程度は頑丈な扉なんだがね、血種の力ならば、簡単とはいかないものの壊せてしまうだろうよ。壊されたら、あとは自分で自分を守るしかない」
脅すつもりはないのだろうが、脅されている気分になる。
「大丈夫だよ。ボクが守るから」
兄がにこやかに言う。
「さて、もう夜が明けたころだ。ユウ君、これでサヨナラだよ」
「必ず生き延びてください。それでは」
寅三と夏樹が部屋を出ていき、扉が閉まる。
兄とふたり残された勇真は、銃を抱え、なるべく扉から離れた場所へ行き、床に座りこんだ。
兄が扉の鍵を閉め、閂をかける。
そうして、2025年11月3日、夏樹が予言した運命の日の夜が明けた――。
【登場人物】
神護勇真:主人公。33歳。神護家最後のひとり。
神護真澄:勇真の兄。35歳。外見は7歳。
神護寅三:勇真の真澄の高祖父の三男。曾祖父の弟。尸族。111歳。外見は20代半ば。
神護夏樹:勇真と真澄の大叔父。祖父の弟。寅三の甥。尸族。89歳。外見は20代前半。
【用語】
マグナム:大型の薬莢を使い威力と飛距離を上げた銃弾、およびそれを使用する銃。
サブマシンガン:拳銃弾を使用し、抱えて射撃できる小型の機関銃。
クリスヴェクター:クリス USA社(前:TDI社)が開発したサブマシンガン。反動吸収システム搭載。
MP7:H&K MP7。ドイツのヘッケラー&コッホ社が開発したPDW。
PDW:個人防衛火器。拳銃よりも貫通力の強い専用の弾丸を使う。
血種:血を媒介に特殊な力を操る者。
セーフティルーム:住宅や施設内で不法侵入者や災害から身を守るために設置される安全な避難部屋。




