表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
血と絆 ~または記憶と祈り~  作者: 木庭七虹
80/97

79.吸血

【今回のあらすじ】

勇真は兄に吸血される。

 勇真(ゆうま)が意識を取り戻したとき、寅三(とらぞう)の姿はなかった。

 スマホで時間を確認すると4時前だった。日の出にはまだ間がある。

 勇真はベッドの中で寝返りを打ち、目を(つぶ)った。

 (まぶた)の裏に、ついさっき見た寅三の過去が蘇る。


 寅三から与えられた記憶は、寅三がまだ子供の頃のものだった。母親とふたりの姉が生きていた頃の記憶。

 寅三は老師から与えられた膨大な記憶の圧力とアイデンティティの崩壊に苦しんでいたが、母や姉たちと一緒にいるときだけは、ただの子供に立ち返ることができた。母とふたりの姉の存在が、寅三を人間の側に引き留めてくれるよすがだった。

 1923年、大正12年の8月末に、寅三の母は、体調を崩した親を()るために、ふたりの姉を連れて東京の実家に行った。母は寅三も連れていくつもりだったが、老師がそれを許さなかった。

 そして、関東地方を襲ったあの大震災に()う。母の実家のあたりは火事で完全に焼け落ち、母も長姉も次姉も見つからなかった。

 彼女たちが生きていれば、寅三は傾きかけていた心の均衡を取り戻すことができたかもしれない。3人の死が、寅三の心を引き裂き、胸の真ん中に大きな穴をあけた。穴は底知れぬ闇につながっていた。

 それ以降の記憶は、見せてくれなかった。

 寅三は、優しい母とふたりの姉だけを、覚えていてほしいと言っていた。3人の記憶は、寅三が失いたくない大切な大切な宝なのだ。


――ちゃんと、みんな連れていきます。


 勇真は心の中でそっと誓う。

 残念ながら、自分にできることといったら、それぐらいしかない。


 ふと、部屋の扉が開く気配がした。

 誰かが部屋に入ってきて、勇真が眠るベッドに近づいてきたようだ。

 いや、気のせいか?

 まったく音がしない。振り向けば誰もいないのかもしれない。

 そう思った瞬間、頬に誰かの手が触れた。

 目を開けるが、真っ暗で相手の顔は見えない。

 身を起こそうとすると、肩を掴まれ、強い力でベッドに押し付けられた。

 逃れようともがいた拍子に、腕が枕の横にあったスマホに触れた。画面が点灯し、光に兄の顔が浮かび上がる。

「兄さ……」

 兄は残忍な笑みを浮かべていた。

 何をすると言おうとした瞬間、首筋に噛みつかれた。


「あ、あぁ……」

 思わず声が()れる。首筋から全身に、甘い(しび)れが走る。

 何だこれは? やめろ、やめろ……!

 心の中で叫ぶが、口から拒絶の言葉は出ず、自分のものとは思えない(なま)めかしい吐息(といき)が漏れるだけだ。

 血を吸われていることはわかる。官能の波を心は拒否するが、体がその快楽を求めてしまう。(たち)が悪い。(あらが)えない。

 気が付くと勇真は、兄の背中に両腕を回して抱きしめていた。

【登場人物】

神護勇真かみごゆうま:主人公。33歳。神護家最後のひとり。

神護寅三かみごとらぞう:勇真と真澄の高祖父の三男。勇真と真澄の曾祖父の弟。111歳。外見は20代半ば。尸族。

寅三の母:神護かみごマツ。勇真と真澄の高祖母。高祖父慎一郎の妻。

寅三のふたりの姉:神護かみごタエと神護かみごユキ。

老師/尸皇しこう:血種の祖。尸族を率いる。

兄:神護真澄(かみごますみ)。勇真の兄。35歳。外見は7歳。尸族。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ