66.記憶と自我
【今回のあらすじ】
高祖父と曽祖父と祖父の記憶を与えられた勇真が目覚める。
「お目覚めかね?」
意識を取り戻すと、ベッドの端に腰を掛けた寅三が、こちらをのぞきこんで微笑んでいた。
勇真は体を起こした。
喉に少し違和感があるが、体調に問題はなさそうだった。
「ユウ君は、本当に目覚めが早いね。記憶が混同して自分が誰だかわからなくなったりはしないのかね?」
勇真は少し考える。
自分の中にいる高祖父と曾祖父と祖父。そして父と母。
「混同はしませんね。映画やドラマを見たり、小説を読んだり、ゲームをしたりするとき、登場人物にどんなに感情移入したとしても、自分と混同しないのと同じですかね? いや、夢の中で他人になっていても、自分を見失うことはないのと同じような?」
「ふむ」寅三は首を傾げた。「なるほどねぇ。5歳は、文字も読めないし、昔はテレビもゲームもなかったし、物語は大人が聞かせてくれるおとぎ話ぐらいだったからねぇ。そういう脳みその使い方がわかっていなかったかもしれないねぇ」
「兄も、5歳で記憶を与えられたらしいけど、辛いもの、なんですか?」
「辛くないように、わざと自我が確立する前に記憶を与えたのかと思っていたんだけれどね。それが老師の優しさなのだと信じていたんだが。でも、キミを見ていると、どうやら逆だったみたいだねぇ」
寅三の顔を見て、勇真はドキリとした。いつものように笑っているのだが、どう見ても怒っているようにしか見えない。いや、怒っているというような生易しい感情ではなく、憤怒とでも言うような凄まじさを感じる。
「何か、あったんですか?」
恐る恐る尋ねると、寅三は笑った。今度は本物の笑顔だ。
「うん。そうだねぇ。やっと自分を見つけたってところかねぇ。100年かかってやっとだなんて間抜けだよね。嘘偽りのない私は、カッコ悪い、結構しょうもないやつだったけど、それがわかってすっきりしたところさ」
寅三は立ち上がった。
「立てるかい?」
手を差し伸べてくる。
「たぶん……」
寅三の手を借りて、勇真はベッドから出た。少しふらついたが、歩けないほどではなさそうだった。
「キミの兄貴がうるさいのさ、ユウ君と一緒にゴハンを食べるーってね。食欲がないかもしれないけれど、夕飯に付き合ってくれたまえよ」
兄の顔が目に浮かぶようで、勇真は笑い、寅三の後について部屋を出た。
食堂に入ると、暖炉で薪が燃えていて暖かかった。扉から入って正面にある、背の高さほどある大きな時計は、8時を指していた。
テーブルで兄が夏樹とトランプをしていた。七並べらしい。兄が劣勢?
兄は振り向き、勇真に気付くと、手札を放り投げ、椅子をひっくり返して立ち上がり、駆け寄ってきた。
「ユウ君、大丈夫? 具合は悪くない? 自分がユウ君だってちゃんとわかってる? ユウ君はユウ君であって、ひいひいお爺ちゃんじゃないからね?」
勇真の周囲をぐるぐるまわりながら、あちこちペタペタと触りまくる。
「大丈夫だよ、ちゃんとわかってるから」
勇真は、兄を引き剥がすと、苦笑しながら答えた。
【登場人物】
神護勇真:主人公。33歳。神護家最後のひとり。
神護寅三:勇真と真澄の高祖父慎一郎の三男。曾祖父総一の弟。尸族。
高祖父:神護慎一郎。勇真と真澄の高祖父。寅三の父。
曽祖父:神護総一。勇真と真澄の曾祖父。高祖父慎一郎の長男。寅三の兄。
祖父:神護貴一。勇真と真澄の祖父。曾祖父総一の長男。寅三の甥。
父::神護真悟。勇真と真澄の父。
母:神護優美。勇真と真澄の母。
兄:神護真澄。勇真の兄。35歳。外見は7歳。尸族。
神護夏樹:勇真と真澄の大叔父。祖父貴一の弟。寅三の甥。




