56.襲撃
【今回のあらすじ】
門を開けた勇真は、黒いどろどろとした物体に拘束される。
「帰りたいかね?」
背後で声がした。
振り向くと、寅三が立っていた。
「帰らせてあげたいのはやまやまなんだがね、今は、キミの身が危険なんだ。堪えてくれたまえ」
「危険?」
寅三は頷いた。
「忌族が、キミを狙っている」
「どうして、俺を?」
わけのわからないことに巻き込まれたくなかった。
「神護家の最後のひとりであるキミを、忌族の王が欲しがっている。老師を滅ぼすために、力の源たる神護の血を、自分のものにしたがっているのさ。私たちとしても、大切な家族であるキミをあいつらに渡したくはないのだよ」
寅三の顔は、いつもどおりにこやかで、真偽は測りがたい。
「俺がここにはいたくないと言ったら、どうします?」
「キミにお願いするしかない。ここにいてほしいと、ね」
「俺は帰ります」
勇真ははっきりと宣言した。
「どうしても、かね?」
「どうしても、です」
「キミのために言っているということを、理解してもらえないだろうか?」
勇真は首を振った。
寅三は肩をすくめた。
「致し方ないね。警告はしたよ」
どうぞと言うように、門へ下る道を示す。車の鍵をくれる気はないようだ。
「車はちゃんと返しておいてください」
勇真は言い残すと、リュックを背負い、寅三に背を向けて歩きだした。
くねくねとした道を下っていく。舗装されてはいるが、斜度がきつくて歩きにくい。
左右を囲む森の木々が、風に揺れて不穏な音をたてる。
一度振り向いてみたが、やはりあの屋敷に戻るという選択肢を選ぶ気にはなれない。
勇真は前を向き、足を速めた。
汗ばんで、息が切れてきたころ、ようやく門に辿り着いた。
鍵が掛かっている。
勇真は鍵束から〈門扉〉のタグが付いている鍵を選び、鍵穴に差し込んだ。
鍵は硬く、回すのに力を要したが、なんとか開けることができた。
鉄の扉の片方を力を込めて押した。
重たい扉が軋み、隙間が開く。
門扉を押して境界線から外へ出た腕に、何かが絡みついてきた。
ドロドロとした不快な感触の漆黒の存在。
門の外へ引っ張られる。
反対側の扉にしがみつき、踏ん張ろうとしたが、扉はあっけなく開き、支えを失った勇真は門外の道路に転がった。
その体を、黒い塊が襲う。手足に巻きつき、自由を奪う。
実家に現れ、両親の遺体を溶かした黒いオオサンショウウオを思い出す。形は違うが、放っている気配が酷似していた。
自由を取り戻そうともがくが、さらに体に巻きつき、喉を締められた。
【登場人物】
神護寅三:勇真の真澄の高祖父の三男。曾祖父の弟。111歳。外見は20代半ば。
神護勇真:主人公。33歳。神護家最後のひとり。
老師/尸皇:血種の祖。尸族を率いる。
忌族の王:王。忌族を率いる王。
【用語】
忌族:血種の一派。尸皇と袂を分かち、敵対する王に従う者たち。
黒い塊:奴霊。忌族が操る霊体。黒くてどろどろ。




