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血と絆 ~または記憶と祈り~  作者: 木庭七虹
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54.滅びの願望

【今回のあらすじ】

勇真は兄に、叔父の真意を問う。

「うっ!」

 勇真(ゆうま)が叫んで飛び起きた。

 顔は青ざめ、額に汗が浮かんでいる。口元を手で覆い、苦痛に耐えているようだ。

「童貞には、両親の、特に母親の恋愛事情なんてキツいよねぇ」

 真澄(ますみ)は、わざとのんきな声で言った。

「うるせぇ。そっちだって童貞だろ?」

「さあ、それはどうかな?」

 ドヤ顔で答えたものの、どこからどう見ても子供だ。経験者には見えないことは自分でも承知だ。

「はあ……」

 勇真が両手で顔を覆う。真澄は勇真の肩を抱き、その背中をそっと()でてやった。

「どうする? これで満足した? それとも、まだ何か知りたい?」

 勇真は顔を上げると眉を寄せた。

「やっぱりわからない。博貴(ひろき)叔父さんは、なんで兄さんを殺して、父さんと母さんも殺して、そして俺まで殺そうとしているんだ?」

「叔父さんの血は飲んでないし、飲ませてももらえないから、本心はわからないけれど、神護(かみご)の血に恨みを持っているみたいだね。神護家は滅ぶべきだって言ってたから。神護の血筋は生きている限り血種(けっしゅ)に利用される。それは地獄だって」

「言ってた?」

「もう何度も叔父さんとはやりあっているんだよ」思い出して真澄はげんなりする。「今日……じゃなくて、もう昨日か。昨日も電車の屋根の上でユウ君を守ろうと叔父さんと戦ったんだけれど、ボクの妖獣の雍和(ようわ)がアホで、単純な言葉に引っかかって出てきちゃうものだから、ボクが吹っ飛ばされちゃったんだよ。子供の体では太刀打ちできないから、老師が雍和をくれたっていうのに、肝心のところで役立たずなんだから。寅三(とらぞう)さんがいなかったらユウ君は死んでたよ」

 言いながらぞっとする。あれは本当に危なかった。二度とあんなことはごめんだ。

『アホとはなんだ、アホとは!』

 と、体の中で雍和がわめいているが、真澄は無視した。


「母さんも、紀子おばあさまも、滅ぼしたがってたな……」

 顔をしかめて勇真が言う。

「神護家の人間はみんな思っているよ。こんな家、滅んでしまえばいいってね」

 真澄は苦笑する。

「確かに。クソくらえな家だ」

 勇真が投げやりに言い、両手を広げて後ろへ倒れた。

「疲れただろう? 叔父さんに殺されそうになるし、親の秘密を見させられるし。まだ夜明けには間があるから、もう少し寝るといいよ。起きたらまた神護家の秘密を教えてあげよう」

「うんざりだ」

 そう言って、勇真は布団を(かぶ)ると目を閉じた。

 やがて寝息を立て始めた勇真の顔を真澄は静かに見守っていたが、布団に潜り込むと、弟をそっと抱きしめた。


――ユウ君、キミのことは、ボクが守ってあげるからね。


 次は絶対にあんなヘマはしない。絶対に。

【登場人物】

神護勇真かみごゆうま:主人公。33歳。神護家最後のひとり。

神護真澄(かみごますみ):勇真の兄。35歳。外見は7歳。尸族。

神護博貴(かみごひろき):勇真と真澄の叔父。60歳。外見は30代前半。忌族。

雍和(ようわ):真澄が使役する妖獣。黄色い猿の姿で、赤い(くちばし)と赤い目を持つ。

老師/尸皇しこう:血種の祖。尸族を率いる。

父さん:勇真と真澄の父。博貴の兄。

母さん:勇真と真澄の母。真悟と博貴のいとこ。真悟の妻。

神護寅三かみごとらぞう:勇真の高祖父の三男。勇真の曾祖父の弟。111歳。外見は20代半ば。

神護紀子かみごのりこ:勇真と真澄の祖母。曾祖父総一の弟雄二と曾祖母房子のひとり娘。祖父貴一のいとこで妻。


【用語】

血種けっしゅ:血を媒介に特殊な力を操る者。

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