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血と絆 ~または記憶と祈り~  作者: 木庭七虹
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51.優美-1

【今回のあらすじ】

優美の過去。夏樹の予言が呪いとなって、優美は誰も愛することができない。

 山鹿優美(やまがゆみ)は、神護貴一(かみごたかかず)の妹である光江(みつえ)と山鹿宏明(ひろあき)の間に、1963年、昭和38年に生を受けた。優美の両親は互いに愛情を抱いていない。ふたりの結婚は、打算と計算によるものだった。

 そんな両親の間に生まれ育った優美は、両親から愛された記憶がない。大切にされてはいたが、それは神護家への生贄(いけにえ)としてであり、親子の愛情とは別ものだった。両親の間には冷たい溝があり、優美と両親の間にも温かな心の繋がりはなかった。

 優美を可愛がってくれたのは、同居している祖母と真悟(しんご)の祖母、そして真悟の母だった。特に真悟の母紀子(のりこ)は、自分の子供以上に優美を可愛がってくれた。

 優美は、生まれたときから、3歳年上のいとこ真悟との結婚が決められていた。紀子も、子供の頃から、いとこである貴一との結婚が決まっていたから、同じ立場の優美に強いシンパシーを感じていたのだろう。

 紀子は母親に代わって、優美に家事や女としての立ち居振る舞いを教えてくれた。自分の心を隠して、世間に好かれる笑みと優しさを振り()く方法も、紀子の姿を通じて身につけた。

 紀子は、夫を憎み、神護家を呪っていた。しかし、世間に向けては、神護の家の素晴らしい奥様であり続けた。

 この家は自分を(しば)り付けているが、心の中までは縛られないと、紀子は言う。

 自分をがんじがらめに縛り付ける、前時代的な家の泥沼の中にあって、紀子は美しく(りん)としていた。

 そんな紀子の姿勢は、優美にとってお手本であり、(あこが)れだった。


 優美は、自分が博貴(ひろき)に近付いたのは、敬愛する伯母と同じ道を歩きたかったからなのだろうと思う。

 紀子は夫ではなく、夫の弟である夏樹(なつき)を愛していた。

 伯母の愛を優美はうらやましく思う。伯母のように誰かを愛せたらよいと思うのだが、優美は人を愛することができない。

 愛するのが怖かったのだ。

 5歳の時、神護家の(おきて)に従って、山の館へ行き、曾祖父の記憶を授かった。

 儀式が終わり、家に帰るというその日、夏樹(なつき)伯父が、突然、優美をまっすぐに見つめて言ったのだ。


 ユミちゃん、残念だけれど、キミは、キミが愛した人に殺されます――。


 それを聞いた優美は幼心に思った。わたしは誰も愛してはいけないんだ、と。

 でも――と、優美は考える。

 愛することは許されなくても、愛されることは許されていいのではないか。誰も愛さず、誰にも愛されないのでは、あまりにも悲しすぎる。

 誰かに愛されたかった。抱きしめてくれる肌の温もりが欲しかった。

 愛されることを欲しながらも、愛に怯えた優美には愛がわからない。愛を感じ取ることができない。だから優美は言葉を求めた。愛する心がわからないから「愛している」という言葉に(すが)った。


 優美は、自分は淫乱(いんらん)なのかもしれないと思っている。

 はじめて男の子とキスをしたのは、小学5年生のときだ。

 同級生に「好きだ」と言われたので唇を許した。背中に回された腕の温もりと、触れ合う唇の熱が心地よかった。

 その少年とは何度も口づけを交わしたが、少年が交通事故に()い、寝たきりになったことで関係は終わった。


 はじめて体を許したのは、中学のときだ。

 相手は部活の先輩だった。夕暮れのひとけのない公園の低木の影で、「愛している」と言われて身を(まか)せた。何度も浴びせられる愛の言葉と、肌が触れ合う温もりが心地よかった。

 その先輩との関係も、彼の事故死で終わった。

 恋人をふたり失って、優美はようやく気が付いた。

 これは神護家の(のろ)いだ。

 わたしが、愛を求めれば、相手は死んでしまう。


 お前は真悟の嫁だ――。


 それは、子供のころから家の大人たちに言われ続けた言葉だ。


 真悟の嫁。

 神護家の嫁。


 それでもいいと思っていた。

 真悟が「愛している」と言ってくれて、この体を抱きしめてくれるのであれば。

 しかし、真悟はそんな言葉はくれないし、指先に触れることすらしない。大学に進学してからは、会うことすら稀になった。

【登場人物】

山鹿優美やまがゆみ:勇真と真澄の母。真悟と博貴のいとこ。山鹿は旧姓。

神護貴一かみごたかかず:勇真と真澄の祖父。曾祖父総一の長男。真悟と博貴の父。優美の伯父。

山鹿光江やまがみつえ:勇真と真澄の祖父貴一の妹。優美の母。

山鹿宏明やまがひろあき:光江の夫。優美の父。

祖母:神護かみごヒサノ。総一の妻。勇真と真澄の曾祖母。真悟と博貴の祖母。山鹿光江の母。優美の祖母。

真悟の祖母:神護房子かみごふさこ。勇真と真澄の曾祖母。曾祖父総一の弟雄二の妻。真悟と博貴の祖母。

神護紀子かみごのりこ:勇真と真澄の祖母。曾祖父総一の弟雄二と曾祖母房子のひとり娘。祖父貴一のいとこで妻。真悟と博貴の母。優美の伯母。

神護真悟かみごしんご:勇真と真澄の父。博貴の兄。優美のいとこ。

神護博貴かみごひろき:勇真と真澄の叔父。真悟の弟。優美のいとこ。

曾祖父:神護慎一郎かみごしんいちろう:勇真と真澄の高祖父。真悟と博貴と優美の曾祖父。

神護夏樹かみごなつき:勇真と真澄の大叔父。祖父貴一の弟。慎吾と博貴の叔父。優美の伯父。尸族。未来視。

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