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血と絆 ~または記憶と祈り~  作者: 木庭七虹
51/97

50.小休止

【今回のあらすじ】

兄弟仲良くお風呂でおしゃべり。

 館の浴室は広かった。10人ぐらいは同時に入れそうな広さだ。

 大理石でできており、ライオンの形をした吐水口から湯が常時流れ出て、湯船を満たしている。

「温泉だよ~」と、兄が自慢気な顔で言った。「どこから引いてきているのか知らないけれど、源泉かけ流しだよ」

 一緒に入ろうと言われたときは、普通の家庭風呂を想像していたので、ご遠慮願いたかったが、これだけ広い風呂なら問題ない。

「ひゃっほう!」

 と叫んで、兄が湯船に飛び込む。お湯が飛び散り、勇真(ゆうま)にかかった。

「もう少しお上品に入れないものなのか?」

 勇真が小言を言うと「その言い方、父さんそっくり!」と言って笑った。

「なあ、疑問がまだ山ほどあるんだけれど……」

 先に体を洗いながら兄の方を見ると、兄は湯船で泳いでいた。

「え? 何か言った?」

 勇真は苦笑するしかない。

「まるで子供だな。35歳じゃなかったのか?」

「あと1000年もすれば体も大人になるから、それまではせっかくだから子供時代を楽しむことにしたんだよ」

 1000年――。

 兄が生き続けるかもしれない時間の長さを思うと、気が遠くなる。

「兄さんにも、老師の6000年の記憶があるのか?」

 湯船に入ると、勇真は(たず)ねた。

「それがね、ボクはまだもらっていないんだよ。夏樹(なつき)さんがあんなんになっちゃったから警戒しているのか、それともボクの体が子供のままだから育つのを待っているのか。老師の考えていることはわからない」

「夏樹さんがあんなって?」

「ああ、ユウ君はちょっとしか会っていないから気付かなかったか。夏樹さんは、目の前の現実だけじゃなく、同時に過去や未来を見ているらしいんだ。マルチウインドウというか、複数モニターっていうか、レイヤーっていうか……。今見えている現実の世界の上に、何層にも別の世界が見えている状態らしい。だから、いっつも俯いてひとりでぶつぶつ言っている。はたから見れば、おかしな人に見えるけど、夏樹さんは正気だし、本当は頭の良い人なんだよ」

 尸族(しぞく)の先読みの能力が暴走しちゃってるらしい、と兄は言った。

「どうも夏樹さんには老師以上の先読みの能力があるみたい」

「11月3日っていうのは、何なんだ? 何が起こる?」

 夏樹が言った言葉を思い出し、聞いてみた。

「それはボクが知りたいよ。夏樹さんは予言はしても、日時や場所を言ったことがない。それがいきなり日付を宣言するなんて、びっくりというか……」

 兄は少し言い(よど)んでから、ぼそりと付け加えた。

「少し、怖い……」

 兄の怯えに、熱い湯船の中にいるのに背筋がゾクリとした。

「あ~ のぼせちゃう! 出るよ~」

 兄はそう言うと、湯船を飛び出し、脱衣場へ走っていった。

 あいつ、体を洗っていないじゃん、と思ったが、そんなささいなことはどうでもいいかと思った。

 勇真は肩をすくめると、風呂から出た。



 部屋に戻ると、またベッドに座るように言われた。

「母さんの記憶だよ」

 丸椅子に座った兄が、ガラスの(さかずき)に血を満たす。

「父さんの記憶よりも、もっとつらいよ? どうする? やめるなら今のうちだよ?」

 勇真は黙って手を伸ばした。

 その手に盃が渡される。

 勇真は、赤黒い液体を一気にあおった。

【登場人物】

神護勇真かみごゆうま:主人公。33歳。神護家最後のひとり。

兄:神護真澄(かみごますみ)。勇真の兄。35歳。外見は7歳。尸族。

父さん:神護真悟かみごしんご。勇真と真澄の父。

神護夏樹かみごなつき:勇真と真澄の大叔父。祖父貴一の弟。

老師/尸皇しこう:血種の祖。尸族を率いる。神護家の神。


【用語】

尸族しぞく:血種の一派。血種の祖である尸皇に従う者たち。

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