48.神で魔物で
【今回のあらすじ】
勇真は寅三に老師とは何者なのか尋ねる。
「はっ……」
勇真は意識を取り戻した。どうやらベッドの上で気を失っていたようだ。
「へぇ~」兄の声がした。
「驚いた。もう目が覚めたんだ」
体を起こしてみたが、頭が重い。父の記憶が悪夢のように心の隅にへばりついている。
「ボクがはじめてひいひいおじちゃんの記憶を飲まされたときは、まる3日起きられなかったよ。父さんもそうだったみたいだけれど、ユウ君は大人で自我が確立しているから、子供よりも影響が少ないのかなぁ」
「どのくらい寝ていたんだ?」
「半日」
半日か。そういえば腹が減っているなと気が付く。
「じゃあ、ごはんを食べて、お風呂に入って、続きはそのあとでいいかな?」
兄の言葉に、勇真は頷いた。
兄のあとに続いて階段を降りると、寅三が、割れた窓に板を打ち付けて補修していた。
「おっ! 目を覚ましたんだ。ずいぶん早いねぇ。私が最初に記憶を飲まされたときは、半月寝ていたらしいからね。あのときは死ぬかと思ったよ。ユウ君は優秀だねぇ。さすがだねぇ。偉いねぇ。素晴らしいねぇ」
ニコニコしながら寅三が勇真を褒めまくる。
「褒めすぎ。寅三さんの最初は老師の6000年の記憶だったでしょ。こっちはたかだか父さんの60年だよ」
と、兄が言うと、寅三はカカカと笑った。
乗っていた脚立から飛び降り、寅三は腕を組んで補修の状態を確認した。
出来栄えに満足したのか、うん。と言って頷くと、勇真の方を向いて肩をすくめてみせた。
「まったく、老師も後先考えずに壊してくれるから困ってしまうよ。これだから神様ってやつは!」
寅三は、ぷんぷんと口で言ったが、顔はにこやかで、まったく怒っているようには見えない。
「老師というのは、いったい何者なんですか?」
勇真は尋ねた。
「あれは神様だよ。そして、人間の血を糧とし、人の人生を狂わせる魔物だ」
セリフとは裏腹に、寅三の顔はあくまでもにこやかだ。
「魔物……」
脚立をたたんで隅に置くと、ついてくるように指で示して、寅三は歩き出した。
「神様であり魔物でもあるから、未来を読み、人を超えた身体能力を持ち、使霊を使役し、妖獣を従え、血を介して人の記憶を読み、血を使って人を操る。人に恩恵を与えることもあれば、災厄をもたらすこともある。人の法も倫理も道徳も人情もなにも通用しない。そして、なによりも、あれは死なない。ただし、今までは」
「今までは?」
寅三は笑みを消して勇真を見た。人の良さそうな雰囲気がかき消え、老獪さがうかがえる視線が勇真に注がれた。
「老師の寿命は尽きかけている」
理解が追いつく前に、寅三はまた元のにこやかな笑顔に戻り、たった今言った言葉など知らないというような顔をしているので、勇真はその言葉の意味を確認しそこねてしまった。
「さて、飯にしようじゃないか。お腹が空いただろう?」
観音開きの大きな扉を寅三が開けると、中は食堂のようで、テーブルと椅子が並び、三人分の食器が用意されていた。
【登場人物】
神護勇真:主人公。33歳。神護家最後の生き残り。
兄:神護真澄。勇真の兄。35歳。外見は7歳。尸族。
神護寅三:勇真の高祖父の三男。勇真の曾祖父の弟。111歳。外見は20代半ば。尸族。
父さん:神護真悟。勇真と真澄の父。
老師/尸皇:血種の祖。尸族を率いる。神護家の神。
【用語】
使霊:尸族が操る霊体。白くてひらひら。




