45.慎吾-2
【今回のあらすじ】
慎吾の過去。慎吾は由美との結婚を回避する方法はないかと悩む。
自分は傲慢だったのだ、と真悟は思う。
優美は自分のものであると確信していたからこそ、彼女の心を掴む努力を怠り、よそに気持ちを散らしたりしていた。彼女のことを見ず、彼女のことを知ろうともしなかった。
彼女が自分のものではないと知った途端に、欲しくなるなど、なんと浅ましい心を持っているのだ、俺は。
――これは宿命か?
父の記憶が、真悟を悩ませた。
真悟と優美がそうであるように、父と母もいとこ同士だった。そして、母は、ひとまわりも年上の父ではなく、父の弟で5歳年上の夏樹を慕っていた。
夏樹叔父が母のことをどう思っていたかはわからない。父の記憶の中にその情報はない。叔父は、そのことについてはなにひとつ父に話していないし、素振りから読み取ることもできなかったようだ。
ただ、父は、母の気持ちだけは痛いほど知っていた。
それでも父は母と結婚した。叔父は山の館に奉仕する身だったから、母がどうあがこうと、叔父と添い遂げることはできない。
父は母を妻として愛したが、母が父を受け入れることはなかった。義務として子をなしたが、心は絶対に許すことはなかった。
母は、神護の家を憎んでいた。そして、意に反して産むことになった自分の息子たちを疎んじていた。
優美に、同じ思いをさせるわけにはいかない、と真悟は思う。
自分の子を愛せない母親ほど切ない者はいないと思う。
母親に愛されない子供たちほど悲しい者はいないと思う。
それに、なによりも博貴は大事な弟だった。母の愛は得られなかったが、父がくれる愛と、自分を慕ってくれる弟の心が真悟を支えていた。
家族の愛に報いたい。
恥ずべき劣情は捨てて、正しくありたい。
だから、優美のためにも、弟のためにも、なんとかしてやりたいと思った。大切なふたりであるからこそ、幸せになってほしいと願った。
自分が神護家の当主となり、優美がその妻となり、博貴が山へ行くという定めを、真悟には変えることができない。
ならば、どうする? どうすればいい?
優美と博貴のために何かできることはあるだろうか?
真悟は、せめて結婚までの時間を稼ごうと、大学卒業後にアメリカに留学をした。そのままアメリカで就職し、滅多に帰国しなかった。
その間に博貴も成人した。成人後はいつ山への奉仕を言いつかるかわからない。せめてそれまでは、ふたりで悔いなく過ごしてほしかった。
博貴を神護家の当主にすることはできないだろうか? 自分がこのまま帰国しなければ、父や祖父は諦めてくれるのではないか。
そんな淡い期待を抱いたが、期待というのはいつでも裏切られるものだ。
ボスに呼ばれて、日本支社のポストを打診された。打診とはいえ、断るという選択肢は与えられていない。日本支社は急遽できた。
真悟は会社を辞めて、他の企業に移った。
ほどなく転職先の会社でも、真悟を日本に派遣するという話が持ち上がった。その時になってようやく、自分の勤める会社の動きの影には、上層部の経営的な判断の他に老師の力が働いていることに気が付いた。
そうなのだ。老師が神護の血を手放すはずがない。真悟を見逃すはずはなかった。どんな手を使っても手元に戻すだろう。
逃れることはできないと観念した。
真悟は転職先の会社も辞め、覚悟を決めて帰国した。
【登場人物】
神護真悟:勇真と真澄の父。博貴の兄。
山鹿優美:勇真と真澄の母。真悟と博貴のいとこ。のちに真悟の妻。山鹿は旧姓。
父:神護貴一。勇真と真澄の祖父。曾祖父総一の長男。真悟と博貴の父。
母:神護紀子。勇真と真澄の祖母。曾祖父総一の弟雄二と曾祖母房子のひとり娘。祖父貴一のいとこで妻。真悟と博貴の母。
神護夏樹:勇真と真澄の大叔父。祖父の弟。
神護博貴:勇真と真澄の叔父。真悟の弟。
老師/尸皇:血種の祖。尸族を率いる。神護家の神。




