43.予言
【今回のあらすじ】
未来視の力を持つ夏樹が、終わりの日を予言する。
「合格だ」と老師が言った。他の者にも聞こえるような声で。
老師が背を向け、倒れそうになった勇真の体を寅三が支える。
わけがわからない。いったい自分は何に合格したのだろうか。
「老師!」
涼やかなよく通る声が老師を呼んだ。
階段に座っていた青年が立ち上がり、真っすぐな目でこちらを見ている。
「終わりです」
きっぱりとした口調で言い、青年はちょっと斜め上を見て付け加えた。
「2025年11月3日」
兄と寅三が、ハッと息をのむ。
「そうか」と言って、老師は勇真たちに目を向けた。「お前たち、それまでは好きにするがいい」
老師は再び背を向けると、階段を上っていった。階段の半ばにいた青年がその後を追う。
11月3日――明後日。
その日付にいったいどんな意味があるというのだろうか。
「ユウ君、おいで」
兄が手を差し伸べてきた。
「キミが知りたいことを全部教えてあげるよ。尸族のことも、神護の家のことも、あの夏の日ボクとキミに何が起こったのかも」
2階のひと部屋に連れていかれ、勇真は兄とふたりきりになった。
血で汚れた白いTシャツを、リュックから出したチャコールグレーの長袖シャツに着替えたあと、ベッドに座るように言われ、素直に腰をかけた。
「何から知りたい?」と、ベッドサイドに置かれた木製の丸椅子に座って兄が言う。
「じゃあ、父さんと母さんのことだ。ふたりは本当に事故死だったのか?」
兄は首を振った。
「ふたりを殺したのは、博貴叔父さんだよ」
殺人というショッキングな話を、兄は日常の話をするかのような気軽な口調で言った。
「叔父さんが? なぜ……?」
「それを知るために、まずは、父さんの記憶を、そして母さんの記憶を見るといい」
兄はナイフで指を傷付けた。滴る血をガラスの盃に受ける。
「ボクら尸族は、血を介して記憶を得て、血を使ってそれを伝えることができる。父さんと母さんが死んだあと血をもらった。あの日だよ。小田原の家に行った日だ。ボクの血の中には、ふたりが生まれてから死ぬ瞬間までの記憶がある。さあ、これを飲み干して。そして知るがいいよ。父さんの想いを、母さんの秘密を。そして、キミが傷付けられ、ボクが殺されたあの夏の日の悪夢を」
兄の目は真剣だった。
からかっているわけでも、何かを企んでいるようにも見えない。たとえ何かを企んでいるとしても、もう勇真に逃げ道はなかった。
勇真は盃を見つめた。
ほんの数ミリリットルの赤黒い液体。
受け取ると、目をつぶってひと息に飲み干した。
【登場人物】
神護勇真:主人公。33歳。神護家最後の生き残り。
老師/尸皇:血種の祖。尸族を率いる。
青年:神護夏樹。勇真と真澄の大叔父。祖父の弟。89歳。外見は20代前半。尸族。未来視。
兄:神護真澄。勇真の兄。35歳。外見は7歳。尸族。
神護寅三:勇真の高祖父の三男。勇真の曾祖父の弟。111歳。外見は20代半ば。尸族。
神護博貴:勇真と真澄の叔父。
父さん:神護真悟。勇真と真澄の父。博貴の兄。
母さん:神護優美。勇真と真澄の母。真悟と博貴のいとこ。真悟の妻。
【用語】
尸族:血種の一派。血種の祖である尸皇に従う者たち。




