40.博貴-8
【今回のあらすじ】
博貴の過去。博貴は兄と勇真を斬りつけ、真澄を橋から放り投げ、自分も身を投げた。
神護家の男である、兄と、真澄と、勇真と、俺が、みな死ねば、それで神護家の呪いは終わる。間違いなく終わる。父が残されるが、近ごろすっかり体が弱った父が、これから新たに子供を作ることはないだろう。
それで終わるのだ。神護家の呪いは。呪いの連鎖は。
真澄と勇真が死ねば、優美は悲しむだろう。
兄が死んだら、優美は悲しむだろうか?
俺が死んだら優美は、少しは涙を流してくれるだろうか?
ナタを振るって勇真の首を斬り、そのまま兄の肩から袈裟懸けに振り下ろす。
肩の骨に引っかかり、ナタが抜けなくなった。
老師が気づき、こちらへ戻ってくる。
寅三も呼んだのだろう。玄関の扉が音を立てて開く。
博貴は、真澄を抱え上げた。
泣きながらもがく真澄を押さえながら、車に乗る。
猛スピードで発車し、門への道を下る。
閉まりかけている門に、スピードを上げて突っ込む。
門は曲がり、車は大破した。
車のドアの隙間からにじり出ると、真澄を引っ張り出し、抱えて走った。
真澄は気を失っている。
天使のような真澄の顔を見ていると、涙がこぼれる。
――夏樹さん、どうやら俺は、いいお父さんにはなれそうにないです……。
兄は死んだだろうか? 勇真は?
生きていれば、老師がすぐにふたりを治癒してしまうだろう。
そして神護家の呪いは続くのだろうか? このままずっと。永遠に。
だが、それももう、博貴にはあずかり知らぬことだ。
追っ手が来る前に、終わらせよう。
死ねば、尸族として蘇らされる可能性は残るが、もう子孫は残せない。
兄と甥っ子も、無事に死んでいることを祈るばかりだ。
前方に千峨戸大橋が見えてきた。全長90メートル、高さ30メートルの赤いアーチ橋。
博貴は橋まで来ると、確実に殺すために真澄を頭を下にして放り投げた。そして、自分も欄干を越えて身を投げる。川岸の岩に頭から落ちれば、まず助かることはないだろう。
遠ざかる鉄製の赤いアーチと、その向こうの青い空を見ながら、地面に激突する瞬間を待った。
が、希望どおりにはいかない。腹に激痛が走った。それは地面に激突した痛みではない。倒木だか流木だかの太い枝が、背中から腹まで貫通し、博貴は串刺しになっていた。皮肉なことに、枝に刺さったことによって勢いが削がれ、博貴は即死を免れ、まだ意識を保っていた。
数メートル先の岩の上に、倒れている真澄が見えた。首があらぬ方向に曲がり、血が流れている。
――真澄! 真澄! 真澄!
涙でかすむ目に、真澄を抱き起こす寅三の姿が映った。
寅三さん……。
ならば、真澄は蘇るだろう。
殺そうとしたくせに、そのことになぜか博貴はホッとする。
寅三が、こちらを怒りに燃える目で見ている。
いつも温厚な寅三がそんな顔をするのを初めて見た。それほどのことを自分はしてしまったのだ。だが、今さら謝罪しても意味がないし、後悔すべきでもない。神護の家は、やはり滅ぶべきだ。
寅三が、何か叫んでいる。
寅三は、チッと舌打ちをし、顔をゆがめると、真澄を抱えて飛び去った。
何か黒くねばねばしたものが、博貴の体を包み込んだ。
ひどく不快な闇に包まれて、博貴は意識を手放した。
【登場人物】
神護博貴:勇真と真澄の叔父。
兄:神護真悟。勇真と真澄の父。博貴の兄。
神護真澄:勇真の兄。博貴の甥。
神護勇真:主人公。博貴の甥。
父:神護貴一。勇真と真澄の祖父。曾祖父総一の長男。真悟と博貴の父。
神護優美:勇真と真澄の母。真悟と博貴のいとこ。真悟の妻。
老師/尸皇:神護家を守護する神を名乗る老人。
神護寅三:勇真と真澄の高祖父の三男。曾祖父総一の弟。博貴の大叔父。
神護夏樹:勇真と真澄の大叔父。祖父貴一の弟。慎吾と博貴の叔父。未来視。
【用語】
尸族:血種の一派。
千峨戸大橋:勇真の両親が死亡した現場。(物語上の架空の橋)




