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3.事故現場

【今回のあらすじ】

勇真は、両親が事故に遭った橋を見に行く。

 おそらく昨日は規制線が張られ、警察が近辺を捜査していたのだろうが、今は事故が起こった形跡などかけらもない。

 勇真は橋の中ほどまで行き、欄干から下を覗いてみた。昨日は水嵩が増していたと聞いたが、今日は穏やかな姿を見せている。その、単調でありながら千変万化してとどまることを知らない流れを見ていると、引き込まれそうになる。ふわりとこのまま手すりを乗り越えて、落ちていくのは気持ちいいだろうか?

 深呼吸をして、そんなバカげた考えを振り払う。


 手すりの高さは、勇真の胸よりも少し低い程度だ。この高さを、バランスを崩したからといって、乗り越えられるものだろうか? 本当に事故だったのだろうかという疑念が、どうしても晴れない。現場を訪れたところで、自分には何もできないことはわかっている。プロ集団である警察以上の捜査が、素人の個人にできるわけもない。

 小さな竜巻のような局地的な突風に巻き込まれた不運、というのが警察の見解らしい。複数の目撃者の証言から、そうとしか言えないとのことだった。何年か前に、軽トラが突風でひっくり返ったこともあったと刑事は言っていた。確かに橋の上は、谷川を渡ってくる風が、周囲の地形にぶつかるためだろうか、頻繁に向きを変えて吹き抜ける。やはり、警察の見解を信じるしかないのだろう。


 ふと、視線を感じて、勇真は振り向いた。

 周囲には数組の観光客がいて、橋の写真を撮ったり、昨日の事故を見聞きしたらしい数人が、下流の河川敷を指さしたりしていたが、勇真の方に注意を向けている者はいなかった。


――気のせいか。


 神経がだいぶ参っているのだと自覚した。

 車に戻ろうとしたとき、小学生とその父親らしきふたり連れが目に入った。小学生が、平日のこの時間に? と疑問に思ってから、もう夏休みが始まっていることに気づく。

 子供は黒い半ズボンに袖まくりしたワイシャツを着ていて、父親と思しき男は青いピンストライプのシャツに紺色のスラックスをはいている。ふたりとも革靴で、あまり観光地を歩き回る服装には見えない。そういう自分も通勤のスーツのままだったので、観光地には不似合いだなと気づいて苦笑する。

 子供は怒っており、父親に食ってかかっていた。父親は、子供の言葉を聞く素振りすら見せず、顔は子供の方を向いてすらいない。そのサングラス越しの視線が、勇真の視線とぶつかった。

 じろじろと見てしまっていた無礼に気づいて慌てて視線を逸らしたその瞬間、男がニヤリと笑ったような気がした。

 思わず振り向いたが、男は身を屈めて子供に何か話しかけていた。

 こちらを嘲笑あざわらったように見えたのは、やはり気のせいか。


 車に戻った勇真は、スマホを取り出して、近くに休める場所がないか検索した。インターネットカフェでもまんが喫茶でもカラオケでも休憩所がある温泉施設でも、なんでもいい。少し横になれる場所さえあれば。両親を引き取りに行く前に、少し休んでおきたかった。


 レンタカーを返した後、そこから一番近いまんが喫茶に入り、横になれる個室を借りた。昼食をった後、スマホのアラームを設定して寝転びながら漫画を読むつもりだった。読んでいる間は余計なことを考えないで済む。それなのに、昼飯の惣菜パンを頬張りながら、何の気なしに備え付けのパソコンを起動したのがいけなかった。

 YouTubeユーチューブを開くと、「何これ?」というタイトルのショート動画が目に入った。

 鉄骨で組まれた赤いアーチ橋が映る。ドライブレコーダーの映像らしい。

 画面の端、ほとんど見切れそうな場所に男女ふたりが映っている。

 次の瞬間、もやもやした黒い物体が路面から湧きあがり、ふたりに絡みつくと、橋から放り投げた。

 ハッとして、もう一度見ようとしたが、次の動画に変わってしまい、戻っても、検索しても見当たらない。

 Xエックスを開き、捨てメアドで作った捨てアカでログインし、「何これ?」で検索する。

 なかなか見つからなかったが、調べ続けると、同じ動画が出てきた。コミュニティノートがついていて、AIによる加工だと説明されている。

 リプ欄には、不謹慎とかAI加工に反対というようなコメントがいくつか並び、あとはインプレゾンビばかりだ。

 もう一度、動画を見る。

 橋から下を覗く男の姿が映っている。遠目で人相はわからないが、サングラスをかけていることはわかった。

 さっき見た子供を連れた男に似てやしないか? 体型も髪形も。


 アラームが鳴り、勇真はパソコンを閉じた。

 店を出て病院へ向かう。

 午後3時。

 葬儀社の担当者はすでに来ており、挨拶を交わして名刺を受け取る。40代ぐらいの男性と30代ぐらいの女性だった。

 手続きをして遺体を引き取るとき、担当の刑事にあの動画のことを聞いてみた。加工前の映像はないのかと。

 刑事は困った顔をして、動画をアップした本人は、アップした記憶がないと言っており、元の動画も存在しなかった、と言った。

 刑事も不可解なものを感じているらしいが、事件性はないという調査結果に変わりはないという。

 それ以上の情報を得られないと悟った勇真は、礼を言って刑事と別れた。

【登場人物】

神護勇真かみごゆうま:主人公。33歳。IT企業に勤めるサラリーマン。

サングラスの男:察してくださいw 詳細は後に判明。今はナイショ。

少年:詳細は後に判明。今はナイショ。

刑事:諏訪警察署の、今回の事故の担当者。モブ。

葬儀社の男女:神護かみご家の葬儀の担当者。モブ。


【用語】

規制線:事故や事件、火事などの現場の保存や安全確保のための立入制限用に張られる黄色いテープ。

橋:千峨戸ちがと大橋。(物語上の架空の橋)

川:茅埜ちの川。(物語上の架空の川)

YouTube:動画共有サイト。

Xエックス:大手SNS。元Twitter。

コミュニティノート:Xの投稿に対して補完情報を提供できるサービス。

捨てメアド:メインで使っていない、いつ捨ててもよいメールアドレス。

捨てアカ:メインで使っていない、いつ捨ててもよいアカウント。

インプレゾンビ:収益を得るために、多くの人が注目している投稿に対し意味のない返信を書き込む人たち。

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