38.博貴-6
【今回のあらすじ】
博貴の過去。博貴は由美と罪の契りを結んでしまう。
やがて年月が経ち、兄と優美の結婚が正式に決まった。
優美は助けを求めるように博貴を見たが、博貴は目を逸らした。
もう、あの瞳を受け止めることはできない。受け止めたら最後、秘められてきたゆえに大きく育ってしまったこの情念は、行き場を失い、すべてを壊してしまうだろう。
結婚式は山の館で行われることになった。
一族が全員、山の館に集まった。
博貴も参加するしかなかった。
広間に宴席が設けられ、皆が盛り上がっている中、花嫁はひどく静かに座っていた。
博貴は祝う気分にはなれず、じっと時間が過ぎ去るのを待った。
酒が入ると、宴はお上品な和やかさから、にぎやかな喧騒に変わってゆく。
博貴は、座り続けるのが苦痛になり、席を外した。
外でタバコを吸おうと玄関ホールへ行くと、部屋に引きこもっているはずの夏樹が階段の下にいることに気が付いた。
相変わらず赤い奇妙な服を着ていて、今は髪まで赤く染めている。
夏樹は、博貴を見ると近付いてきて、嬉しそうな笑みを浮かべた。
「ヒロ君、キミはいいお父さんになります。あと、優美ちゃんを殺すのは、やっぱり可哀想だと思います」
「え?」
聞き返したが、夏樹はいつものようにぶつぶつつぶやきながら、階段を昇っていった。
――お父さん? この俺が? 兄ではなく?
――それに、優美を殺す?
未来視を持つ叔父には、いったい何が見えていたのだろうか?
その晩、博貴は罪を犯してしまう。
父や祖父にしこたま酒を飲まされて泥酔した兄を、博貴が部屋に運んだ。花嫁も兄と同じ寝室で寝るためについてきた。
兄をダブルベッドに横たえて、体を揺すって声をかけたが、正体なく眠ってしまっている。
博貴は優美を見て肩をすくめた。
「今日はもう、起きそうにないな」
「ん。ありがとう」
そう言って、兄に布団をかけようとした優美の手に、同じく布団をかけてやろうとした博貴の指が触れてしまった。
「あ……」
思わず出てしまったであろう優美の声が、あまりにも淫靡だった。
そんなつもりはかけらもなかったはずなのに、気が付けば博貴は優美の手を握って引き寄せていた。
花嫁衣装の優美は美しかった。息が止まりそうなほど美しかった。
優美の、あの静かな熱を秘めた瞳が、博貴の瞳をとらえる。視線が絡まり、もうほどくことができない。
博貴は優美の唇を奪っていた。
何度も何度も、互いの唇を欲し、そして、ふたりしてずるずると床に倒れ込んだ。
声を殺して求めあう。寝ている兄が起きないように。兄に気付かれないように。ふたりは罪の契りを結んでしまった。
契りはあのひと夜だけだった。同じ家に住みながらも、ふたりが触れ合うことは二度となかった。
やがて真澄が生まれる。
いまさらながら、夏樹の予言が思い出された。
真澄の自分に似たくせっ毛をなでながら、博貴は喜びと愛おしさと罪の意識で気が変になりそうだった。
――それで、いったいいつ、俺は叔父の予言どおりに兄嫁を殺してしまうのだろうか……?
【登場人物】
神護博貴:勇真と真澄の叔父。
神護優美:勇真と真澄の母。真悟と博貴のいとこ。真悟の妻。
兄:神護真悟。勇真と真澄の父。博貴の兄。
神護夏樹:勇真と真澄の大叔父。祖父貴一の弟。慎吾と博貴の叔父。




