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血と絆 ~または記憶と祈り~  作者: 木庭七虹
33/97

32.最低最悪の絆

【今回のあらすじ】

博貴と伯爵の魂は、血を介して密接に絡み合っている。

 血種(けっしゅ)は不死だが不老ではない。

 ただ、その老化は遅く、100年で1歳か2歳ほどのゆるやかなペースで歳を取るらしい。尸皇(しこう)がどれほどの年月を生きてきたのかと思うと気が遠くなる。自分も死ぬことが許されぬまま、同じように長大な時間を生きていかねばならないのかと思うと博貴(ひろき)はぞっとする。

 いつだったか、伯爵(コント)(うめ)くように言ったことがある。

「失った悲しみは時が(いや)してくれるかもしれないけれど、罪と後悔はどんなに月日が経っても消えないの。200年経っても消えないのよ」

 決して(つぐな)うことのできない罪を抱えたまま、ただ生き続けるのはどれほどの地獄だろうか。

 博貴は、体を起こして伯爵を見た。

 彼女はもう17歳の乙女ではない。成熟した女だ。

 夢を見たのか、彼女の頬にひとしずくの涙が伝っていた。博貴はそれを指でそっと(ぬぐ)ってやった。


 伯爵は博貴に「同じ悲しみを生きている」と言ったが、確かに伯爵と自分はどこか似通っていると博貴は思う。似ているからこそ、彼女は博貴を憎み、(さげす)み、(あわ)れみ、そして、同志愛とも、きょうだい愛ともいえる親愛の情を(いだ)いている。彼女は、博貴と同じ悲しみを持ち、そして、博貴と同じく自分を血種に変えた(ロワ)を憎んでいる。

 博貴は、あまりにも彼女のことを知りすぎた。互いの血は混ざりすぎている。もはや危険なほどに。


 3か月前、博貴は愛する女を自分の手で殺した。

 それには、伯爵の血が強く影響していたのではないかと思う。

 伯爵から血をもらったときに得た記憶から、彼女があの場にいたことを知った。

 博貴の監視役を王から任されているにもかかわらず、伯爵は、神護(かみご)の人間を(あや)める博貴を止めなかった。止めようと思えば止めることができる近さにいながら、あのとき伯爵は、愛する女を手にかける博貴を黙って見つめていた。憐れみを含む慈悲の目でもって。

 伯爵は、己と同じ罪と後悔という地獄を魂に抱えた仲間が欲しくて、混ざり合った血を介して博貴の心を操作したのではないかと、博貴は勘繰っている。

 神護の家に連なる者たちを、この世から解放してやるべきだというのは、間違いなく博貴自身の信念だった。その信念と実行との間を隔てる心理的な分厚い壁を乗り越えさせたのは、伯爵の血ではないかと思うのだ。愛する女を手にかけたときの激情は、自分のものであったのか、それとも恋人の心臓を食べたアルジェーンのものだったのか、博貴にはまったく区別がつかない。

 伯爵の魂と博貴の魂は、あまりにも密接に(から)まりすぎている。自分の想いは彼女の想いであり、彼女の想いは自分の想いだった。これは、愛でも恋でもない、何か別種の結合だった。おそらく他にはない、この世で最もいびつで、最低最悪の絆だ。

【登場人物】

神護博貴(かみごひろき):勇真と真澄の叔父。王によって血種にされた。

伯爵コント:王の配下。

尸皇しこう:神護家を守護する神を名乗る老人。

ロワ:血種の王。

博貴が愛する女:神護由美かみごゆみ。勇真の母。博貴の兄の妻。


【用語】

血種けっしゅ:血を媒介に特殊な力を操る者。

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