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血と絆 ~または記憶と祈り~  作者: 木庭七虹
32/97

31.伯爵-2

【今回のあらすじ】

200年前、伯爵は、自分を血種にした王への復讐を誓った。

 ――他の誰にもあげない。この男はわたしとひとつになるのだ……。


 誰かの悲鳴が響いた。

 人々が駆けてくる音がする。

 アルジェーンは口を(あけ)に染め、愛する男の心臓を握りしめたまま、集まった人々を睥睨(へいげい)した。

 駆け寄ろうとしたものの、驚きに目を見張って立ち止まる父が見えた。

 アルジェーンは父に笑いかけ、そして、たった今男を殺したばかりのその同じ短刀で、自分の首を()き切った。


 噴き出す血しぶきの向こうから、その男は近づいてきた。誰もが怖気(おじけ)づくなか、平然とした顔で。

 父の客人だ。整えられた黒髪と口ひげ、ところどころに金色の粒が散る緑色の瞳が魅惑的な男だ。年齢はわからない。30代から50代の間のどの年齢を告げられても納得してしまう。若いようにも見えるし、老成しているようにも見える。父がこの男に娘を与える約束をしていたことをアルジェーンは知っていた。


 ――どうだ! 見よ! わたしは、あなたのものにはならない! 愛する男とここで命を終えるのだ!

 ――わたしは、他の誰にもわたしを与えることはしない!

 ――どんな力も、わたしを屈服させることはできない!


 心の中で叫び、アルジェーンは(わら)った。

 しかし、そばまで歩み寄った男は、片手で彼女の腰を支え、うっとりとした顔で彼女の血を(すす)ると、背後の父に向けて言った。

「伯爵、契約どおりご息女を頂戴(ちょうだい)する。我が血族として永遠の命を与えよう。そして、伯爵、あなたには、望みどおりの栄華をお約束しよう」


 その場で血を分け与えられ、死から引き()がされて、人でないものとして蘇った彼女のことを、その男――(おう)を名乗る血種の(おさ)は、アルジェーンと呼んだ。

 愛する男以外には、絶対に呼ばれたくないその名前を、知っていてわざと使う(ロワ)が憎かった。

 アルジェーンは、王のもとを飛び出した。


 ――わたしを動かすことができるのはわたしだけだ。

 ――誰の命令も聞かない。誰の下にも付かない。


 しかし、血種が人間に混じって暮らすのは難しかった。

 不死を悟られたアルジェーンは、魔女として人間に狩られた。

 襲い掛かってくる屈強な男たちを数十人(ほふ)ったが、何の武器も持たぬアルジェーンは、ついに手足を切り落とされ、捕縛(ほばく)され、火あぶりにされた。

 火にあぶられても死ぬことはない。ただ、苦痛だけがある。焼かれては再生し、焼かれては再生し、繰り返される苦痛から彼女を救ったのは王に命じられた公爵(デュック)だった。公爵と彼が率いるヴァンパイアたちによって村がひとつ壊滅した。

 公爵は、アルジェーンに(ささや)いた。

「王が憎いか? ならば俺と一緒に王を滅ぼそう」

 アルジェーンは、晴れやかな笑顔でそう言う公爵と手を組むことにした。


 それから約200年、彼女はずっと王と行動を共にしている。

 従うように見せかけているが、心は常に反逆の機会を探っていた。

 もちろん王は、そんな彼女の心などお見通しだろう。記憶を封印し、読まれないようにしていたが、王は察しているに違いない。人の心を察して、それを利用し動かすことができるがゆえに、(ロワ)は血種の(おう)として君臨している。

 自分もまた、この復讐心をいいように利用され、動かされているのだろう。でも――。

 このままずっと言いなりになっているつもりはなかった。

【登場人物】

伯爵コント/アルジェーン:王によって血種にされた、元伯爵令嬢。

ロワ:血種の王を名乗る男。

公爵デュック:王の配下。


【用語】

血種けっしゅ:血を媒介に特殊な力を操る者。

ヴァンパイア:血種。王の配下。

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