表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
血と絆 ~または記憶と祈り~  作者: 木庭七虹
28/97

27.山の館

【今回のあらすじ】

勇真は寅三にいざなわれ、山の館に踏み入れた。

 車の窓に肘を載せ、流れてゆく景色をぼんやりと見る。

 空はよく晴れて、紅葉(こうよう)が美しい。何もかもがキラキラと輝いている。

 こんな光にあふれた景色を見るのは久しぶりだ。この3か月ほど、勇真は天気も風景も意識することなく、ただ暗闇にいたような気がする。世界はこんなにも朗らかで、まばゆいというのに。


 寅三(とらぞう)は、最初に言ったとおりに、諏訪大社へ行き、諏訪湖を巡ってから、そば屋に入った。

 おいしそうにそばをたぐる姿を見て、こいつらも物を食べるんだな、と妙なところに感心した。

「血はねえ、薬みたいなものなのだよ。治療薬とか、強壮剤とか。力の(みなもと)ではあるけれど、普段は人間と同じご飯を美味(おい)しく頂いているよ」

 勇真の視線の意味に気付いたのか、寅三が言った。

「やっぱり、血を、吸う……?」

「キミが望むなら、吸ってあげてもよいのだよ?」

 寅三はふふふと意味ありげに笑い、上目遣いで勇真を見ながら、自分の唇を親指の腹でこすった。唇の隙間から牙が(のぞ)く。

 それを見て、絶対に自分が関わってはいけない世界なのだと勇真は思った。


「じゃあ、館へ行くとしようか。みんなが待ってる」

 そば屋を出ると、寅三が言った。

「みんな……?」

 寅三は微笑むだけで何も答えず、車に乗り込んだ。勇真もためらいながら助手席に座った。

 車は、あの千峨戸(ちがと)大橋を渡り、どんどん山奥に入っていく。

 寅三は、あれからひとことも(しゃべ)らない。冷えた沈黙が続く車内で、勇真は自分の意志で山の館へ行こうとしているのか、それとも、この高祖叔父(こうそしゅくふ)拉致(らち)されようとしているのかわからなくなった。

 やがて道の脇に門が見えてきた。

 私有地につき立ち入り禁止と書かれた看板が掛かっている。

 門扉の鍵が必要なのかと、勇真はリュックを取ろうとしたが、門は車が近付くとひとりでに開いた。電気的な仕掛けなどない、ただの鉄の門にしか見えないのだが。

 車が通り過ぎると門は大きな音を立てて自動的に閉まった。


 門から数分登ってゆくと、山の頂上に館が見えてきた。あのビデオに写っていた、乾いた血の色をしたレンガ造りの洋館だ。

 玄関前に車を止め、降りたふたりが近付くと、観音開(かんのんびら)きの大きな扉が勝手に開く。


――バイオハザード……?


 一歩踏み込んだ瞬間、ホラーゲームを思い出す。そこは、広く天井の高い空間で、正面に階段がある。シャンデリアに明かりが(とも)って明るいのだが、どこかおどろおどろしい。くすんだ色合いの大理石の壁のせいか、装飾を施された木製の手すりのせいか、床のタイルのせいか、緋色の絨毯のせいか。


 階段のてっぺんに老人が立ち、こちらを見下ろしていた。

 階段の半ばに見知らぬ青年が腰を掛け、階段の下には兄が立っている。

 背後で、大きな音を立てて玄関の扉が閉まった。

「ようこそ、われら尸族(しぞく)の館へ。今日から、ここがキミの家だよ」

 寅三の声がした。

 振り向くと、寅三が扉を守るように立っている。

 ここから自分の意志で外に出ることは、もうできないのだと勇真は悟った。

【登場人物】

神護勇真かみごゆうま:主人公。33歳。神護家最後のひとり。

神護寅三かみごとらぞう:勇真の高祖父の三男。勇真の曾祖父の弟。111歳。外見は20代半ば。

老人:尸皇しこう。神護家を守護する神を名乗る老人。

見知らぬ青年:詳細は後に判明。

神護真澄(かみごますみ):勇真の兄。35歳。外見は7歳。


【用語】

千峨戸ちがと大橋:勇真の両親が死亡した現場。(物語上の架空の橋)

尸族しぞく:血種の一派。詳細は後に判明。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
冬木です。こっちでも少しずつ読んでます。私の好きな寅三さんの出番だ!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ