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血と絆 ~または記憶と祈り~  作者: 木庭七虹
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26.ドライブ

【今回のあらすじ】

寅三は、勇真を山の館まで案内すると言う。

「ユウ君、ユウ君。起きたまえよ」

 誰かに呼ばれて、勇真は目を覚ました。自分をユウ君と呼ぶ者は兄ぐらいだと気が付き、慌てて身を起こす。

 どうやら自分は相手の膝を枕にして寝ていたようだ。

 同時に叔父のことを思い出し、左の胸に手を当てる。間違いなく叔父に何かをされた。何をされたのか、まったくわからないが。

「もうじき駅に着くよ」

 隣の席でニコニコ笑っているのは叔父ではなかった。見たこともない青年だ。しかも、自分のことを知っているらしい。

「誰だ……」

 勇真は相手を睨みつけた。叔父も笑顔で親しげに近寄ってきた。油断はできない。

「キミにとってははじめましてだねえ。私は寅三(とらぞう)。キミの曾祖叔父(そうそしゅくふ)。ひい爺さんの弟だ。よろしく頼むよ」

 満面の笑みは、どこからどう見ても人畜無害に見える。それでも勇真は警戒を緩めなかった。

 寅三という名前に覚えがある。家系図の中で〈()〉の文字が記されていた3人のうちのひとりだ。

「そんなに睨まないでくれたまえ。博貴(ひろき)がキミを殺そうとしていたから、私が助けてあげたんだ。感謝と信頼を寄せてくれてかまわないんだよ?」

 そんな風に言われても、はい信頼しますと言えるわけがない。

 顔立ちはまったく違うし、口調も違うのに、兄と話しているような気分になった。血は争えないというやつだろうか。

「ほら、駅に着いたよ」

 寅三が立ち上がる。

「山の館まで案内しようじゃないか。私に付いてきたまえ」

 列車が停止して、車内の人々が順々に降りはじめた。勇真も、棚から大きな黒いリュックを下ろすと、寅三に続いて外に出た。


 電車を降りると、勇真は寅三を無視してさっさと駅を出た。

 レンタカーの営業所へ行き、予約していた車を借りる。乗ろうとすると、当たり前のように寅三が待っていて、鍵を開けると先に運転席に乗り込んだ。

「俺が借りたんだ。他の人間は運転できない」

「大丈夫さ。アプリで契約内容を確認したまえよ」

 しぶしぶスマホを開いてみると、運転者登録に寅三の名前がある。平成11年生まれ、26歳。彼が本当に系図にあった寅三ならば、1914年生まれの111歳のはずだ。

「嘘ばっかり」

 思わずつぶやくと、寅三は楽しそうに笑った。

「免許は持っているんですか?」

「当然だろう?」

 何を言っているんだこいつは? という顔をされて勇真はムッとした。何をどうやっても運転席から降りそうになく、諦めて助手席に乗り込んだ。

「諏訪に来たことはあるかい? 時間はたっぷりあるんだから、少し観光でもしようよ」

 そう言って寅三は車を出した。運転は滑らかで、丁寧だ。

「諏訪大社に行って、諏訪湖を見て、お昼には信州そばを食べようじゃないか。楽しみだなあ」

 ウキウキした口調で言う寅三。

 いったい、何がどうして曾祖叔父を名乗る青年と仲良くドライブをするハメになってしまったのか。まったくわけがわからなかった。

【登場人物】

神護勇真かみごゆうま:主人公。33歳。神護家最後のひとり。

神護寅三かみごとらぞう:勇真の高祖父の三男。勇真の曾祖父の弟。111歳。外見は20代半ば。

神護真澄(かみごますみ):勇真の兄。35歳。外見は7歳。

神護博貴(かみごひろき):勇真と真澄の叔父。60歳。外見は30代前半。


【用語】

山の館:勇真の高祖父が信州の山に建てたという洋館。


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