25.救命
【今回のあらすじ】
寅三は、勇真を救うため自らの血を飲ませた。
真澄のことが心配で、一瞬出遅れてしまったことを寅三は後悔した。
だが、勇真が心臓を止められていたのは1分に満たない。大丈夫だ。大丈夫でなければ困る。
寅三は、隣の席に座り、勇真の頭を支えて仰向けにした。
自分の指を噛み、滴る血を勇真の口に垂らしたが、歯を食いしばっていて入らない。唇から頬へと流れ落ちるだけだ。
「ああ、もったいないねえ」
寅三は、勇真の唇の上の血をペロリと舐めると、もう一度自分の指を噛み、今度はその指を勇真の口にねじ込んだ。
勇真が顔をしかめる。
確実に飲んだことを確認すると、寅三は立ち上がり、まだ指から流れている血を霧にして、車内に満たした。血の霧を吸った乗客たちが一様にトロリとした目になる。
「今のを撮影した人は出してくれたまえ」
寅三が命じると、数人がスマホを差し出した。それを受け取り、中身を確認して画像や動画を削除した。
「まったく。ヒロ君も余計なことをしてくれるもんだねえ」
寅三は愚痴った。兕が寅三の中で首を上下に思いっきり振って同意した。
【登場人物】
神護寅三:勇真の高祖父の三男。勇真の曾祖父の弟。111歳。外見は20代半ば。
神護勇真:主人公。33歳。神護家最後のひとり。
兕:寅三が使役する妖獣。牛に似た黒い獣で、額に一本の角を持っている。




