18.届いた荷物
【今回のあらすじ】
勇真の元に、兄から荷物が届く。
自宅マンションの入口で、勇真はふと足を止めた。
何かの気配を感じて空を見上げたが、コウモリが1匹、夜空を背景に飛んでいるだけだった。せわしなく飛び回るその黒々としたシルエットに勇真は顔を顰めたが、小さな生き物が飛び去ると、片手で首筋を揉んでマンションに入っていった。
夕飯を済ませ、また高祖父の手記を見ていると、インターホンが鳴った。応答すると宅配便だった。買い物をした覚えもなく、荷物を送ってくる相手に心当たりもなく、首をかしげながらオートロックを解除する。
配達員が持ってきたのは、100サイズほどの段ボール箱だった。宛名を確認して受け取る。さほど重い荷物ではなかった。
部屋に運び、ローテーブルに乗せてから、差出人の名前を見た。そこに書かれている名前に勇真の心臓がぎゅっと縮む。
神護真澄
兄の名だ。
そして、差出人住所は、あの信州の山の屋敷のものだった。
梱包を開けると、勇真の子供のころの写真を収めたアルバムや、卒業証書などが入っていた。あの火事で失ったと思っていた思い出の品々。残念ながら、両親や家に関する品は入っていない。
なぜか一緒に兄の遺影も入っていた。間違いなく実家の仏壇に飾ってあったものだ。勇真は眉を寄せて、小さな額に入ったその写真を手に取った。
この部屋に飾っておけということだろうか? 両親の写真も、その他の先祖の写真も失っているのに、自分のものだけは大事に飾れと兄は言いたいのか?
少年のニヤリと笑う顔を思い浮かべ、勇真は写真を伏せると、荷物の一番下に押し込んだ。
荷物の中にはDVDも入っていた。ケースには〈1997年8月〉とだけ書かれている。ご親切にもUSB接続のDVDプレーヤーまで入れてあるところを見ると、必ず見ろということなのだろう。
無性にイラつき、DVDも少年の写真も、そのまま捨ててしまおうかと思ったが、ケースに書かれた年月が気になった。1997年は、兄が失踪した年だ。
ノートパソコンにプレーヤーを接続し、DVDを再生した。
白い雲が浮かぶ夏空。生い茂る樹々。蝉の声。かすかに子供の声らしき音も入っている。ビデオテープをダビングしたものらしく、画面はややくすんだ色をして、画像が粗い。
カメラが斜め下に移動し、2階建ての古い洋館を映し出す。レンガ造りの館は乾いた血のような色をしていた。
カメラはさらに移動し、洋館の前に立つ幼い子供を抱いた30代ぐらいの男性と、彼よりも少し若く見える男性に焦点が移る。
若いほうの男性の足にひとりの少年がしがみついてはしゃいでいる。子供の声はその少年のもののようだ。
――父さん……?
カメラが寄り、顔の判別がつくと、男性は父で、抱かれている幼児は自分であることがわかった。では、父の隣にいるのは叔父なのだろうか?
兄と似たくせっ毛で、くりっとした目と、笑ったときの表情が兄と似ている。兄が大人になっていれば、こんな感じではないかと思わせる風貌だ。
叔父の足にじゃれついている少年は兄に間違いない。カメラが寄って兄の顔がアップになった。口を大きく開けて笑っているが、綺麗に並んだ歯列に牙は見えない。
この映像は誰が撮影したものなのだろうか。
これが兄が失踪した日のものであるなら、母ではないはずだ。友人の父で税理士の河合浩一の話では、このとき母は一緒に行っていない。父と叔父と自分たち兄弟のほかに、誰が屋敷にいたのだろうか。
姿が映っているということは、自分もこの場にいたはずだが、山の屋敷に行った記憶はまったくなかった。
何か思い出せないかと、記憶の底を探ってみる。
「たくない……」
ふいに、父の声が蘇った。記憶の底から蘇ってきた声。
いや、違う。画面の中で父がしゃべったのだ。
巻き戻し、父の言葉を確かめる。
「この子には、継がせたくない……」
カメラの撮影者に向かって、父が悲痛な顔でそう言った。
【登場人物】
神護勇真:主人公。33歳。1997年当時5歳
神護真澄:勇真の兄。1997年当時7歳
神護慎吾:勇真の父。1997年当時37歳
神護博貴:勇真と真澄の叔父。1997年当時32歳
ビデオの撮影者:後に判明。今はナイショ。
河合浩一:神護家の税務を担当している税理士。勇真に1997年に起こった事件のあらましを伝えた。
【用語】
100サイズ:宅配荷物のサイズ。縦×横×高さの合計が100㎝以内。
DVD:デジタル多用途(多目的)ディスク(Digital Versatile Disc)の略。光ディスクを利用した記憶媒体。
ビデオテープ:1980~90年代に主流だった撮影、録画に用いられた磁気テープ。




