12.戸籍謄本
【今回のあらすじ】
戸籍謄本を取得した勇真は、兄が死亡ではなく、失踪宣告により除籍されていることを知る。
周佑の父親と勇真の父は税理士と顧客というだけではなく、同世代なうえに、子供が同学年ということもあり、仕事の関係を超えた付き合いがあったらしい。もしかすると、勇真が知らない我が家の実情を彼は知っているかもしれない。
家が焼け、我が家に関する資料や書類、家族の記録は失われてしまった。母が付けていた家計簿も、父のスケジュール手帳も、家族の写真をおさめたアルバムも、勇真の子供のころを撮影したビデオも、両親のスマホの中身も、父のパソコンのHDDの中身も。何もかも文字通り灰燼に帰した。勇真自身で家族のことを調べる手段は途絶えている。ならば、我が家のことを知っている人物に頼るのもひとつの手段だ。
準備するように言われた戸籍謄本と住民票と印鑑証明を、マイナンバーカードを使ってコンビニで取得した。手にした戸籍謄本を、勇真はその場でしばらくじっと見つめた。
戸籍抄本は何度も見ているが、謄本を見るのは初めてだと思う。
長男真澄の名前の欄に、大きなバツ印がある。しかし、記載されているのは、死亡ではなく失踪宣告による除籍だった。平成16年、兄が14歳の時だ。
子供が行方不明になった場合、親は必死に探すものではないだろうか。何年経っても、生存を信じて探し続けるのではないか。
少なくとも勇真の中には、両親が兄を探していた記憶はない。兄が死んだと判断するだけの理由があったのだろうか。
行方不明者は7年経つと死亡として扱うことができる、と聞いたことがあるが、兄は7歳でいなくなり、ちょうど7年経って死亡扱いされたことになる。両親は何を根拠に兄がもう二度と戻らないと確信したのか。
兄が死んだと聞かされたのは、姿が見えなくなってすぐだったと思う。いつも追いかけていた背中を失い、勇真は泣きじゃくったことを覚えている。
仕方なかったのよ、と母は言い、勇真を抱きしめてくれた。
仕方なかった――?
背中にひやりとしたものを感じた。
あのときの母の口調は、あまりにも冷たくなかったか。
今まで知っていたものとは異なる母の顔を見てしまったような気がして、勇真はうろたえた。
ときおり不安そうに自分を見ていた母の目を思い出す。母があんな目をするようになったのは、兄がいなくなってからではなかったか。母はいったい何をあんなに怯えていたのだろうか。
約束した日、小田原駅近くにある河合税理士事務所を訪れた。
「ご両親のことは残念だったね」
勇真にお茶を出しながら、周佑の父、税理士の河合浩一は静かな声でお悔やみを述べた。
「火事になってしまったせいで家のことが何もわからなくて、こちらにもすぐに連絡できなくて申し訳ありませんでした」
「それは気にしないでくれ」
勇真が頭を下げると、浩一は手を振ってさえぎった。
「書類に署名捺印さえしてくれれば、相続関係の手続きは全部やっておくから、安心してくれ」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
勇真はもう一度、深々と頭を下げた。
「実は――」と、一通りの説明と情報の確認が済んだあと、浩一は言った。
「今日わざわざ来てもらったのは、渡したいものがあったからなんだ」
手元に置いてあった封筒からカードを出して勇真に見せる。
「貸金庫のカードだ。君のお父さんから預かっていた。何かあったら君に渡すように頼まれていたんだ」
その言葉にぎくりとする。
「何かあったら……?」
それは、今回のようなことが起こる可能性を予見していたということだろうか?
【登場人物】
神護勇真:主人公。33歳。IT企業に勤めるサラリーマン。
周佑の父親:勇真の友人の父親。河合浩一。神護家の税務を担当していた税理士。
神護真澄:勇真の兄。勇真が5歳の時に死んだと聞かされていた。
【用語】
戸籍謄本:戸籍の写し。家族全員の情報が記されたもの。
戸籍抄本:戸籍の写し。個人の情報のみが記されたもの。
失踪宣告:生死がわからない行方不明者を、法律上死亡したとみなす制度。
除籍:婚姻や死亡で戸籍から除かれること。




