5話 愛
フリッツとキャシーのことは一旦忘れた。私がいくら悩んでも、キャシーを救うことなんてできそうにないからだ。
そして、私はダミアンと結婚した。結婚してからもダミアンは毎日優しいし、とても幸せだった。
そんなある日、フリッツとキャシーから手紙が届いた。フリッツとキャシーが同時に手紙を送ってくるだなんて、二人は案外仲よくやっているのかな。
まずはキャシーからの手紙を読み上げてみることにした。でも、目をちょっと通しただけで吐き気がした。
「憎きデボラ様へ。私はもう限界です。フリッツ様が不倫ばかりするのです。どうしてデボラ様だけ、旦那様にそこまで愛されているのですか。ああもう、デボラ様のことが大っ嫌いです。デボラ様なんか殺したいくらいですわ。というか、今すぐデボラ様は勝手に死んでください。デボラ様なんて邪魔なので死ね。できるかぎり苦しんでから死ね。綺麗な死に方は許さない、汚くてむごたらしい死骸になれ。デボラ様のことを呪ってやまないキャシーより」
うん。シンプルに怖い。この文章はもはやホラーだよ。
フリッツの手紙も開いてみる。そして、恐る恐る読み上げてみた。
「愛するデボラ様へ。キャシー様が俺をずっと見張っていて、すっごく息苦しいんです。自由のない窮屈な生活です。やっぱり、俺はデボラ様の方が好きでした。ですから、俺はデボラ様と一夜を過ごしたいと思ってます。デボラ様が俺を拒んでも、俺はデボラ様を求め続けます。俺はデボラ様を一度でいいから抱いてみたいんです。ちなみに、俺の夢は女を百人を味わうことです。たくさんの女を汚せる俺、すっげーかっこよくないですか。感染症は怖いけど、処女を奪ったら感染症が治るってウワサあるじゃないですか。いや、処女を食って感染症が治るなんて根拠は全くないし、迷信だって分かっていますよ。でも、夢見ることって最高じゃあないですか。イケメン自由人フリッツより」
フリッツからの手紙には嫌悪感が込み上げてくる。フリッツ自身が感染症にかかっている可能性を考えつつも、女性に感染症を移そうとしているようだった。
フリッツの手紙も、キャシーの手紙も、ものすごく不愉快だ。こんな手紙、今すぐ燃やしてやりたい。
でも、キャシーとフリッツが何を思っているか、ダミアンに共有しておいた方がいいだろう。その方が、今後のトラブルにも対応しやすいだろうし。
だから、私は手紙の内容をダミアンにしっかり報告した。こんな不気味な手紙二通を、ダミアンに見せたくはなかったけれど。
「デボラ様、手紙について打ち明けてくださり、本当にありがとうございます。フリッツ様とキャシー様ははとても危険ですね。フリッツ様とキャシー様を近づけないよう、僕がデボラ様を守ります」
ダミアンはそう言ってくれた。対策してくれようとするダミアンが、とってもかっこいい。
「ダミアン様ありがとうございます。でも、ご無理なさらないでくださいね」
そう伝えると、ダミアンは嬉しそうに笑った。結婚してから、ダミアンはよく笑うようになった気がする。
「デボラ様に心配していただけて嬉しい限りです。でも、大丈夫ですよ」
ダミアンはそう言って、その日から裏で何か動き出した。ダミアンが危険なことに首を突っ込んでいないか、不安になった。でも、私はダミアンを信用して、何も言わなかった。
そして、フリッツやキャシーから、次の手紙が届くことはなかった。社交パーティでもフリッツやキャシーは、私に近寄ってこなくなった。
フリッツとキャシーは怯えた目で、ダミアンのことを見ていた。でも、ダミアンが何かやらかしたなんてウワサは全く立っていない。だから、ダミアンは非合法なことなどに手を染めていないと思う。
「ダミアン様、ありがとうございます」
私は深く突っ込まず、ただお礼を言った。ダミアンが夫でよかったと思いつつ、少し怖かった。
「いえいえ。僕の妻であるデボラ様を守ることができて、嬉しい気持ちでいっぱいですよ」
ダミアンは穏やかに言う。ダミアンがどんな手段を使ったのかは知らないが、私を守ってくれる人で本当によかった。
「そんな優しいダミアン様が大好きです」
私は嬉しくなってそう伝えた。すると、ダミアンは私をゆっくり抱きしめてくれた。
「僕もデボラ様のことを愛しています」
ダミアンの低い声には愛がにじんでいて、自分の耳が溶けてしまいそうだった。恥ずかしくて照れてしまうけれど、すっごく幸せだった。




