エピローグ
壁|w・)本日2話目です、よー。
闇に沈む静かな草原。ぱちぱちとたき火の音が小さく響く。たき火の側に座るのはアリス。疲れでもたまっているのか、座ったまま船をこいでいる。今にも倒れてしまいそうだ。隣のクルーゼはそんなアリスを心配そうに見つめていた。
不意に、クルーゼが頭を上げて、真後ろへと振り返る。その場所に淡い光が集まり、やがて人の姿になった。プレイヤーのログインの瞬間だ。ログインした少女、セフィはクルーゼに見られていることに気が付くと、や、と片手を上げた。
「きゅ」
クルーゼも小さく手を上げて返事をする。かわいいなあ、とセフィはクルーゼを撫でながら、アリスを見る。アリスはセフィが来たことに気づいておらず、うとうととしたままだった。
「アリス。寝るならテントに入って暖かくしないと。風邪ひくよ?」
もっとも、AIに風邪というものがあるのかは分からないが。
セフィが声をかけると、アリスがぼんやりと目を開けた。次にセフィを見て、小さく首を傾げ、そして大きく目を見開いた。
「せ、セフィさん? どうしてここに?」
「ん? まあ、たまたま近くを通っただけだよ。アリスはどうしてこんな中途半端な場所にいるの? いつもならくーちゃんに乗って飛んでいくよね?」
「えっと……。くーちゃんの気が乗らないみたいで、歩いていました」
うん。知ってる。
心の中でつぶやきつつ、そっか、とセフィは笑う。
アリスが歩いて移動しているのも、今日ここで野宿することも、セフィは事前に知っていた。
アリスの秘密を知った日。寝る前にメールを確認すると、クルーゼからメールが来ていた。驚きながら確認したところ、アリスが今後、いつ、どの街に向かうかを教えてくれるとのことだった。その上で、日を決めてくれればクルーゼが調整して会えるようにしてくれる、と。
どうやって調整するのかと思えば、単純に乗せずに移動するとのことで、少し呆れてしまったものだ。おかげでこうして会える機会が増えるので文句は言えないが。ただそのせいで歩かなければいけなくなるアリスには少し申し訳ないと思う。
セフィがアリスの隣に座ると、アリスは慌てたように立ち上がった。何をするのかと思えば、鍋や食材を取り出し始めている。
「セフィさん。スープでもいいですか?」
「私ももらっていいの?」
「はい。もちろん」
屈託なく笑うアリスにセフィは頬を緩め、何でも良いよと答えておく。アリスはすぐに調理を始めた。鍋に水を入れ、手際よく食材を調理していく。
「せっかくなので奮発しましょう」
そう言ってアリスが肉を鍋に入れた。
「何のお肉?」
「ミノタウロスです」
「あ、うん……。だよね……」
確かに美味しい。それは認めよう。しかしミノタウロスと聞いていると。一気に避けたくなってしまう。
しばらく待っていると、食欲がそそられる、良い香りが漂ってきた。さらに煮込み、やがてスープで満たされた皿を差し出してきた。
「どうぞ」
「ありがと」
礼を言って受け取り、口をつける。やはりアリスの作るスープは美味しい。少しずつ味わって食べながら、隣のアリスを見る。満足そうに頷きながら飲んでいる。その隣ではクルーゼも、皿を傾けて器用に飲んでいた。
「アリスはこの後どこに行くの?」
「今回はこのままずっと南、ですね。鉱山があって、そこで働く人たちにお届け物です」
「へえ、鉱山なんてあるんだ」
生産プレイヤーが喜びそうだな、と頭の片隅で考えていると、遠くから足音が聞こえてきた。街の方角からだ。ここは街からそれほど離れていないので、プレイヤーが通る可能性は十分にある。
果たして姿を現したのは、二人組のプレイヤーだった。
「明かりがあると思って来てみれば……。こんなところにプレイヤーがいるなんて」
「いや、ちょっと待て……。まさか、アリスさん、ですか?」
二人組が聞いてくる。アリスが戸惑いながら頷くと、二人組は顔を輝かせた。
「まさか、こんな場所で出会えるなんて……! 感激です!」
「えっと……。はあ……」
アリスは困惑しながらセフィへと助けを求めるような視線を投げてきた。そんな目をされても、セフィにはどうすることもできない。肩をすくめると、アリスは少し考えて言った。
「あの、よければ食べていかれます?」
「はい! 是非!」
迷いなく頷く二人組。アリスはすぐに皿を追加で取り出すと、二人の食事の用意をする。スープで満たされた皿を受け取った二人は、一口飲んで目を見開き、勢いよく食べ始めた。
「これは、うまい……!」
「あいつらが自慢するだけのことはあるな……」
どうやらアリスの料理は二人の口に合ったらしい。何となくだが、セフィも少しだけ嬉しくなる。
「あの、セフィさん」
のんびりと二人組の様子を眺めていると、アリスが声をかけてきた。
「ごめんなさい、せっかく会えたのに……」
「ん? いいよ、気にしなくて。また街で会えた時にでも一緒に遊ぼうね」
「はい。ありがとうございます、セフィさん」
嬉しそうに微笑むアリス。柔らかいその笑顔を見て、セフィもつられるように笑顔になった。
・・・・・
翌日。最後まで残っていたセフィが立ち去るのを見送ってから、アリスはさて、と振り返る。今はまだ草原だが、もっと先へ行けば荒野が広がっている。今回の目的地はその荒野の向こう側だ。おそらく冒険者はまだそこまで行っていないはずだ。
「くーちゃん。今日はお願いできる?」
アリスが問うと、クルーゼは顔を上げて頷いた。クルーゼの体が光に包まれ、大きくなる。アリスが乗っている時のいつもの大きさだ。アリスはクルーゼの背に乗ると、その背を撫でた。
「それじゃあ、よろしくね、くーちゃん」
クルーゼがゆっくりと浮かび上がる。空高く、雲の方まで。アリスは風で暴れる髪をおさえながら、背後へと振り返った。
かすかに始まりの街が見える。今も多くの冒険者がいることだろう。用事があると言っていたのでセフィはいないだろうが、それでも会ったこともない冒険者が大勢いるはずだ。いずれ、そういった人たちとももっと会いたいと思う。
だがそれは、この広い世界のどこかで会えれば、で十分だ。
アリスは正面へと向き直り、よろしくね、とクルーゼを撫でた。クルーゼが一気に加速して、飛び始める。アリスは流れていく景色を楽しそうに眺めていた。
アリスは今日も世界を巡る。多くの人と関わりながら、今日も明日も明後日も。
壁|w・)俺たちの冒険はまだまだこれからだ!
冗談はさておきまして、『AIアリスの旅記録』はこれにて完結です。
ぶった切った感があるかもしれませんが、これでいいのです。
というのも、元々はこれ、短編連作でまったりやろう、という趣旨のものでした。
なので、これからもアリスはまったりのんびり、アリスのための世界を旅していきます。
これからもセフィやロゼと友達として過ごします。
これからもやっぱり、いろんな人と友達になっていくでしょう。
でもアリスについては語り終えたので、一先ずこのお話は終わり、なのです。
ゲーム内イベントのお話とか掲示板とかもう少しチャレンジしてみたかったですが、それはまた次の機会に、ということで。
ではでは、最後までありがとうございました。
壁|w・)ノシ




