焦土への着弾
ジジッ……ジジジッ……!
ノイズにまみれた広域戦術通信が、戦場を包む爆風の轟音を割って響いた。
「――全戦線へ! 敵の防衛ドローンおよびクローン群の動きが停止! 指揮系統の完全破砕を確認!」
「繰り返し伝える! 第365特務小隊が敵幹部【クエーサー】の討伐に成功した! 敵の脳を破壊した!」
「こちら作戦本部! 現時刻をもって、『オペレーション・ラストアタック』を発動する!!」
「七体の『異形の者』が、要塞中枢への帰還を停止! 繰り返す、要塞中枢への帰還を停止!」
「……へっ。やりやがったな、第365特務小隊の野郎ども」
ドロップシップの薄暗いキャビンの中。
軽快な、しかしどこか自虐的な声が響いた。
高機動型強化外骨格の膝をゆすり、ヘルメットのバイザーを押し上げたのはガーベラだった。無精髭の浮いた口元にニヤリと歪んだ笑みを浮かべているが、その双眸には絶望の影が濃厚に落ちている。
「クエーサーが落ちたってことは、『異形の者』どもの指揮系統はガタガタだな……次は俺たちの番ってわけだ」
「口を動かす暇があるなら、駆動パイプの圧力を確認しておけ、ガーベラ」
対物狙撃砲のボルトを静かに引き、装填を確認したのは小隊長、デルフィニウムだった。
整った顔立ちには一切の感情が伺えない。青く冷ややかな瞳は、モニターに映し出される目標海域のホログラムだけを捉えていた。
「我々に課された任務は一つ。第204小隊が全滅したこの第九戦区において、敵幹部【プロメテウス】を完全抹殺することだ。これより『ファントム・ブーケ』は降下作戦を開始する」
「ふん、先に行っていた204の連中は全滅かよ。景気がいいことだねえ!」
豪快な笑い声を上げたのは、キャビンの最奥に座す巨漢、プロテアだった。
身の丈を超える大口径多連装機関砲『ギガント・バスター』を軽々と膝の上に載せ、生傷の絶えない顔を歪める。
「だがな、お残しはごめんだ。プロメテウスのバケモノめ、俺たちの火力を腹いっぱい食わせてやるぜ!」
「うふふ、相変わらず血生臭い男ね、プロテア。でも、焦りすぎて返り血でドレスを汚さないで頂戴?」
妖艶な笑みを浮かべ、指先で超高熱切断ワイヤーのコンソールを弄ぶのはカサブランカだった。黒を基調としたスリムな電子戦用アーマーを纏い、濡れたような瞳でキャビンの天井を仰ぐ。
「こんな地獄の底で咲くなら、せめて一番綺麗に狂い咲いて散りたいものだわ……」
「カサブランカ少尉、不吉な言い方はやめてください」
小柄な身体に不釣り合いな巨大な防壁展開シールドを抱えた衛生兵、ブルースターが真顔で割り込んだ。彼女は医療キットのバイタルチェックパネルを操作しながら、小隊全員を厳しい視線で見回す。
「私たちは勝つために行くんです。規律を守り、戦術を守る。誰一人、勝手に死ぬことは許しません」
「……ああ。ブルースターの言う通りだ」
最前列、降下ハッチの真正面に立っていた男――グロリオサが、ゆっくりと振り返った。
その胸に描かれた部隊章は、炎のように燃え上がる鮮烈な赤。
使い込まれた突撃仕様の強化外骨格から漏れ出る彼の気迫は、凄惨な死地を前にしてなお、衰えるどころか熱狂的な輝きを放っていた。
「誰が死のうが、誰が倒れようが関係ねぇ。俺たちがやるべきことは、あいつの喉元に食らいついて脳天をぶち抜くことだけだ。……行くぞ、野郎ども! 幻影の恐ろしさを叩き込んでやる!」
『降下シークエンス完了。ハッチ、オープン――』
無機質な機械音声とともに、巨大な装甲ハッチが開放された。
瞬時にキャビン内へと吹き込んできたのは、狂風と、黒い毒雨と、焦土の匂いだった。
眼下に広がるのは、かつて都市であったものの無惨な残骸。
第204小隊を文字通り「蒸発」させたプロメテウスの火力が、大地を赤黒いマグマの海へと変貌させていた。そこはまさに、生きとし生けるものを拒絶する炎の地獄。
「――ファントム・ブーケ、降下!!」
デルフィニウムの冷徹な号令とともに、六つの影が地獄の灼熱の中へと躍り出た。
ズウゥゥゥゥン……ッ!!
降下用ブースターの逆噴射が焦土を叩き、六人が着地した直後――大地が激しく揺れた。
「――お出迎えだぞ、野郎ども!!」
ガーベラが叫ぶと同時に、彼が高機動スラスターを全開にして滑走する。
直後、彼がコンマ数秒前までいた地点に、空を切り裂く極太の生体高熱弾が着弾。凄まじい爆風とショックウェーブが周囲の瓦礫を木っ端微塵に吹き飛ばした。
「くっ……! 防壁展開!」
ブルースターが前に飛び出し、左腕の発生装置から青白い偏光電磁防壁を限界まで展開。降り注ぐ二次爆発の破片と熱波をぎりぎりで受け止める。
爆煙の向こう側――
赤黒く蠢く巨大なシルエットが、ゆらりと姿を現した。
全身に無数の生体砲身を生やし、肉体そのものが巨大な弾薬庫のごとく超高熱を発する異形の者――【プロメテウス】。
その中心部、不気味に明滅するコアが、新たな獲物の飛来を察知して激しい生体発光を放つ。
「捕捉した……あれがプロメテウスだ」
デルフィニウムが対物狙撃砲を構え、黒い雨の中で静かにスコープを覗き込む。その声には、死をも恐れぬ冷酷な決意が宿っていた。
「全小隊、プランAに移行。……これより、異形討伐を開始する」




