絶叫する交差点
倒れたケルベロスの巨躯が、赤黒い肉芽と黒油を激しく泡立たせ、狂乱の駆動音とともに悪夢のような最終進化を遂げていく。
二度目の復活を果たしたアブノーマリティ『ケルベロス』は、もはや獲物を拘束・捕縛するという段階すら完全に投げ打っていた。全身を覆っていた重装甲が内側から弾け飛び、剝き出しとなった生体金属フレームは無数の「解体殺戮兵器」の群れへと異形化。全身の至る所から無数の大型チェーンソー、高硬度ダイヤモンド歯の回転ノコギリ、そして標的を肉片ごと砕き潰す超重量油圧ハンマーが一斉に露出し、激しい金属摩擦音とともに高速回転を始めた。
触れたもの、接触した物体をその場で微塵に磨り潰し、一瞬で細片へと変える完全なる「歩く処刑部屋」。
「ギギギギギ……ガアアアアアアアアッ!!」
ケルベロスが狂乱の咆哮を上げ、大地を削りながら暴走を開始する。周囲に残されていたビルの鉄骨や破砕された岩盤が、肉迫する回転刃の群れに触れた瞬間に大量の火花と不快な金属音を撒き散らし、一瞬で微粉末へと変えられていった。飛び散る猛烈な火花、焦げ付く重油と生体肉の臭い、そして鼓膜を破壊せんばかりの凶悪な駆動音が、夜の戦場全体を冷酷に支配していた。
「チッ……! 捕まえるのを諦めて、丸ごと肉みじんにする処刑モードってわけか! どこまでも品がねぇバケモノだぜ!」
サファイアが過熱した機体から蒼い排気音を吐き出し、傷だらけの電磁シールドを構え直して吐き捨てるように叫ぶ。だが、いくら彼女の『サファイア・シールド』が小隊屈指の超重装甲を誇ろうとも、あの全方位から襲い来る無数の超高回転刃と油圧ハンマーの連打を前にしては、耐えられるのはほんの僅かな時間でしかないことは誰の目にも明らかだった。
その時、オパールを失いノイズだらけとなった通信機から、激しい高重力波の衝撃音と大爆発の破砕音が、広域混信となって唐突に飛び込んできた。
「――アース! 俺の代わりに……ルナの射線を開いてやれぇぇぇッ!!」
「マーズ!!」
混信。それは別戦域で戦っている兵士が、自らの命と機体を完全爆発させ、敵の超重力装甲を死力で吹き飛ばした瞬間の、最期の血を吐くような絶叫だった。
「……チッ、自爆野郎かよ……」
ルビーがコクピットの中で血の混じった唾を床へ吐き捨て、過熱し赤く焼き付いたプラズマガンを、折れんばかりの力任せで握り締め直した。
通信の向こうから途切れ途切れに伝わってくる死闘の気配、そして全戦域で次々と命を燃やし、散っていく仲間たちの叫び。いま、この世界全体のどこかで、自分たちと同じように絶望的な総力戦が繰り広げられているのだ。
「どこの戦場もドロドロの地獄だな!! だが……向こうが命張ってんなら、負けてられねぇぞ、ダイヤぁぁぁッ!!」
「ああ……!! あいつらが自らの命を燃やして戦ってるんだ、俺たちがここで膝を折ってたまるか!!」
ダイヤモンドが愛機『ダイヤモンド・ブレード』の脚部油圧を極限まで絞り込み、高周波ブレードの刀身から燃え上がるような赤いスパークを全身へ伝播させる。
「全員、生きてこの最悪な檻をぶち破るぞ!! 俺たち『アダマント』の……折れぬ不屈の絆をみせてやれ!!」
通信機越しに交わされる覚悟の咆哮。オパールを失った残された4人が、嵐のような回転刃を撒き散らす災厄の獄吏に対し、残されたすべての弾薬とエネルギーを絞り出すようにして死力の陣形を組み直した。
「エメラルド!奴の核の位置は!?」
「解析……完了しました。暴走によって剥き出しになった胸部中央……ですが、周囲の回転刃と装甲に守られており、通常射撃では届きません! 同時に接近すれば、あのチェーンソーの群れに磨り潰されます!」
エメラルドの冷徹な声が通信に走る。彼女の機体の警告ランプが赤く点滅していた。度重なる精密狙撃と過負荷により、ライフルおよび照準センサーが限界を迎えている。
「力ずくで道を抉じ開ける! ルビー、サファイア、俺に合わせろ!」
「任せときな! この盾が砕け散るのが先か、あいつの刃が折れるのが先か……勝負だ!!」
「おらあぁぁぁッ! オパールの光の分も……喰らいやがれぇぇぇッ!!」
アダマント小隊が死線を越えて一斉に突撃を開始する。
だが、その瞬間――暴走するケルベロスの巨躯から、死角を突いて巨大な生体腕が跳ね上がった!
ガギギギギギギギッ!!
「……ッ!? ダイヤ、足回りの油圧が……!!」
不運にも、足元の破片に足をとられたダイヤモンドの『ダイヤモンド・ブレード』。その隙を見逃さず、高速回転する大型解体チェーンソーが、死の牙を剥いて隊長ダイヤモンドの頭上へ向けて振り下ろされる!
「ダイヤッ!! 上だ!!」
ルビーの叫びが響くが、回避は絶望的。死の凶刃が、ダイヤモンドの視界を真っ黒に染め上げようとしていた――!




