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最後の一人になっても  作者: アルファベット・あき蔵
第06章:第4独立遊撃小隊_アダマント

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鋼の再生

「ズズズズズ……ッ! ギギギガガガガガッ!!」


地表に崩れ落ちたケルベロスの巨躯から、生体金属と油圧シリンダーが軋む凄惨な駆動音が不気味に響き渡る。断ち切られた傷口や装甲の隙間から、粘着性の漆黒の生体鋼が泥のようにドロドロと溢れ出し、焦土を急速に侵食していった。


一度目の復活。「異常進化」を遂げたケルベロスの電磁ワイヤー群は、体表から分泌される「捕縛用粘着鋼」をその全身に纏っていた。空気を切って舞うワイヤーは触れたものを瞬時に硬化・溶着させ、機体の可動部を逃げ場のない鉄くずへと変える凶悪な罠へと変貌を遂げている。


それだけではない。全身に張り巡らされた高圧アンカーから発せられる極大の電磁パルスが高周波ノイズとなって空間を埋め尽くし、『アダマント』小隊の広域通信システムと精密光学センサーを激しく苛んでいた。


「くっ……ダメです、敵の粘着鋼と高圧パルスで……ジャミング回路が……っ! 熱暴走を……!」


後方で七色の光輪を維持し、電子戦支援を行っていたオパールの機体から、激しい火花と黒煙がバチバチと弾けた。

限界を超えた高圧電流が逆流し、オパールの眩惑パルスが一瞬途切れる。その隙をケルベロスは見逃さなかった。三つの頭部を模した生体センサー群の照射角が、狂乱の輝きを放ちながら一斉に跳ね上がる。


「ガアアアアアアアッ!!」


ケルベロスの右腕を構成する巨大な生体金属塊が変形で歪み、超重量の「解体用油圧パイルバンカー」へと変貌を遂げた。狙われたのは、前線で次の撃破姿勢を整えていた小隊長――ダイヤモンド。


「ダイヤ、危険だ! 避けろ!!」


ルビーが叫びながらスラスターを吹かすが、地表を埋め尽くした漆黒の粘着鋼が脚部へ絡みつき、ダイヤモンドの『ダイヤモンド・ブレード』の油圧スラスターは固着してピクリとも動かない。絶対的な拘束。目にも止まらぬ速度で放たれた極大の鉄柱が、逃げ場を完全に失ったダイヤモンドのコクピットへ向けて一直線に迫る。


「……ふふ。私の綺麗なノイズ……最後に、全部あげちゃいますね」


歪んだノイズ混じりの通信機から届いたのは、いつもの掴みどころのない、けれどどこか温かく愛おしそうなオパールの声だった。


「オパール!? お前、何を……何をする気だ!!」


ダイヤモンドの叫びを遮るように、オパールは静かに、けれど強い意志を込めて言葉を紡ぐ。


「隊長さん、私……このうるさくて、泥臭くて、温かいチームが……大好きでしたよ」


オパールは機体の緊急全制御プログラムを自らの手で力任せに叩き割り、背部に設置された主光学ジェネレーターの安全弁を全解除。蓄積されたエネルギーをオーバーロードさせた。


「光学過熱限界(プリズム・バースト)――全開です……っ!!」


ドガァァァァァァァンッ!!!!


オパールの機体を中心に、七色の極光が超高出力を超えた破滅的パルスとなって全方位へ爆発的に拡散した。

戦場全体の夜の闇が眩いまでの七色の光輝に呑み込まれ、強力極まりない電子ノイズの嵐がケルベロスの頭部センサーを内部から直接焼き切っていく。


「グガアアアアアアッ!?」


センサーを完全に潰されたケルベロスが狂乱し、直前まで射出体勢に入っていた大型パイルバンカーの軌道が数メートル大きく逸れ、ダイヤモンドの頭上をかすめて背後の岩盤をけたたましく砕いた。


だが、極光の中心で機体の全エネルギーを吐き出し、棒立ちとなったオパールの機体は完全に無防備だった。

ブラインド状態に陥ったケルベロスは狂乱のまま、巨腕に装着された大型油圧バサミと無数のワイヤーを網雲のようにめくらめっぽうに振り回す。


その猛烈な質量と凶刃の連撃が、光の真ん中で優しく佇むオパールの機体へ容赦なく叩きつけられた。


バリィィィィンッ……!!


装甲が容易く砕け散り、彼女が放っていた美しい七色の光輪が、ガラスのように儚く夜空へ飛び散っていく。


「……さようなら……みんな……先に行ってるわね……」


愛おしそうな呟きを残し、通信は途絶え、ノイズへと変わった。


「オパールッーーーーー!!」


ダイヤモンドの血を吐くような絶叫が焦土に響き渡る。

しかし、オパールが己の命と引き換えに焼き切った眩惑の残光は、ケルベロスの制御システムに致命的な狂いと大きな隙を生じさせていた。


「涙を拭え、ダイヤ! オパールのくれたこの奇跡の光を、絶対に無駄にするな!!」


エメラルドの冷徹な声が通信機を打つ。彼女自身の瞳にも大粒の涙が溢れていたが、その両手は寸分の狂いもなく長距離ライフルの引き金を絞り込んでいた。


バシィィィンッ! パァンッ!!


オパールの光で眩惑されたケルベロスの無防備な駆動関節と、粘着鋼の供給器官を正確無比に連続で撃ち抜く。


「エメラルドも! サファイアも! みんな……行くぞぉぉぉッ!! オパールの仇だぁぁぁッ!!」


「応よぉぉッ! 命に変えても逃がすかぁぁッ!」


サファイアが自らの装甲を削りながら電磁シールドでケルベロスの左脚を力任せに叩き潰し、完全に拘束。そこへ跳躍したルビーの『ルビー・バーナー』が両腕の超高熱プラズマを全開で噴射し、ケルベロスの胸部装甲を真っ赤な液体へと溶かし直す。


「うおおおおあああああッ!!」


束縛を強引に脱したダイヤモンドが、亡き仲間への想いと怒りのすべてをブレードに束ね、極限まで加速。蒼く輝く最高硬度の一閃が、赤熱した傷口の奥で脈打つケルベロスの2回目の核(第二心臓)を分子レベルで微塵切りに切り裂いた。


ズババババババババンッ!!


凄まじい大爆発とともに、2回目の完全撃破。

地表へ崩れ去る悪夢の残骸。だが、その漆黒の肉の塊の中から、これまでとは比較にならないほど凶悪な、無数の巨大チェーンソーの高速回転音が不気味な底鳴りとなって響き始めていた。

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