檻の粉砕
「ギィギギギギ……ガガガガガッ!!」
ケルベロスの巨躯内部に組み込まれた巨大な油圧シリンダー群と高回転チェーンソーから、狂乱の金属摩擦音が戦場全体へ激しく響き渡る。
直前に放たれたプラズマの爆炎を内側から強引に吹き破り、重厚な装甲の隙間から幾重にも重なった極太の電磁アンカーと、無数の鋸歯が備わった捕縛用鉄籠が一斉に空間へ向けて射出された。全方位の視界を真っ黒に埋め尽くす不快な鉄の雨。一瞬でも判断が遅れて足が止まれば、そのまま四肢を複雑に束縛され、腹部の大型油圧バサミで生きたまま磨り潰される絶対死の網だ。
「チッ……! 懲りずに檻を押し付けてきやがる! どんだけ執念深いバケモノだ!」
ダイヤモンドが蒼く過熱した高周波ブレードを縦横に振るい、眼前に迫る殺戮ワイヤーを間一髪で叩き斬る。だが、打たれても打たれても間髪入れずに迫り来る捕縛網の圧倒的物理量に、愛機『ダイヤモンド・ブレード』の脚部システムすらじりじりと後退を余儀なくされていた。
「全員、絶対に向きを逃がすな! 下がるな! こいつの網目を力任せにブチ破るぞ!」
「無茶言わないでよ隊長。でも……そういう泥臭い土壇場の根性論、嫌いじゃないわ!」
重装甲機を駆る姉御肌のサファイアが、通信機越しに豪快な笑い声を響かせた。
彼女の愛機『サファイア・シールド』の背部に懸架された大型スラスター群が、夜の闇を貫く蒼い爆炎を吐き出す。機体前面へ巨大な電磁重力シールドを展開し、後退しかけていたダイヤモンドの正面へ力任せに割り込んだ。
「サファイア!? 無理をするな、何を――!」
「うちの頼れる隊長をそんな小汚い檻に入れるなんざ、100年早いんだよ! ……捕まりたいなら、まずこのうちを捕まえてみな!」
ドガガガガガガガッ!!
サファイアは回避という選択肢を完全に捨て、ケルベロスが解き放った数十本もの極太電磁アンカーを自らの超重装甲で真っ向から受け止めた。
刺突音とともに極太のアンカー群がサファイアの胸部および肩部装甲へ激しく突き刺さり、数十万ボルトの凄まじい高電圧スパークが散って機体表面を青白く焼き焦がす。巨躯を引きずり込もうとする猛烈なショックと強圧に耐えながら、サファイアは歯を食いしばり、機体脚部の打撃アンカーを深く岩盤へ打ち込んで己を地表へ完全固定した。
「ハッ……捕まえたのは、こっちだ……! 動けるもんなら動いてみろ、バケモノ!!」
「グガアアアアアアッ!?」
まんまと標的を引きずり込もうとしたケルベロスだったが、サファイアの頑強な電磁シールドと自重、そして地表へ打ち込まれたアンカーによって、逆にその巨体と右半身の動きを完璧にロックされた。敵を拘束するためのワイヤーを逆手に取られ、物理的な巨大な重し(アンカー)と化したサファイア。
「――サファイア機が敵の右半身と動きを完全固定。オパール、ジャミング弾散布。奴の視覚・聴覚を完全に遮断します」
「はいはい、お姉さま。虹色の極大煙幕、大盛りでどうぞ~♪」
オパールの放った七色の光学ノイズとジャミング・パルスがケルベロスの複合照準センサーを完璧に焼き切り、周囲を眩惑させる。
「エメラルド、解析完了。サファイアが引き固定したことで、敵胸部中央――重装甲の結合部(鍵穴)の構造的弱点が完全に露出しました」
狙撃手エメラルドの冷徹な声と同時に、彼女の長距離ライフルが火を噴いた。
バシィィィンッ!と高エネルギー弾が寸分違わず着弾し、敵の最も強固な絶対装甲の継ぎ目に、目視できるほどのくっきりとした「亀裂」が走った。
「よしッ! 鍵穴が開いたぜ!!」
ルビーが吠えながら跳び出す。愛機『ルビー・バーナー』の両腕に懸架された二連装プラズマガンを限界まで赤熱化させ、エメラルドが射抜いた胸部の亀裂へ至近距離から超高熱の火炎バーナーを叩きつけた。
ズゴォォォォォォォォンッ!!
「ギイァァァァァッ!?」
超高熱のプラズマが鍵穴をドロドロに溶かし、内部の生体細胞と金属フレームを赤熱化させて一気に溶解していく。
「お前の自慢の檻なんざ……俺たちの絆の前では紙くず同然だぁぁぁッ!!」
赤熱化し剥き出しとなった胸部の傷口へ、ダイヤモンドが極限まで加速した高周波ブレードを叩き込んだ。
ダイヤモンドの全存在と覚悟を乗せた至高の一閃が、赤熱した結合部を完璧に両断。内部で不気味に脈打つケルベロスの1回目の核(第一心臓)を分子レベルで砕き割った。
ズバババババババババンッ!!
巨大な生体爆発とともに、ケルベロスは地表へ大量の黒い生体油と体液を撒き散らし、悲鳴を上げながら崩れ落ちた。
「よし……! 一回目、撃破だ!!」
ルビーがコクピットで力強く拳を突き上げる。
だが、倒れたケルベロスの巨躯からチリチリと高圧電流が不気味に逆流し、さらに狂暴で凶悪な二段目の細胞進化が始まろうとしていた。




